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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
東、そして壁の向こう側
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キアラリウス

 キピウム城下。その近くの森――最も近いところでも歩いて行くには遠い距離にはあるが――。その昼間でも薄暗い森の中、エルは何かから隠れるようにこそこそと移動していた。


 姫や巫女をやっている時のような煌びやかな服ではなく、一人町を歩く時によくきている冒険者のような恰好で、その目は今は青色に光っている。


 長時間走っていたのか肩で息をしながら、額に汗を滲ませている。


 立ち止まって追ってくる相手を確認しては、場所がばれないように色々な角度から魔法で牽制をしてその間に少し移動する。


「さすがに熟練と呼ばれるだけの事はありますね」


 エルは気に背中を預けながら下を向いてそう言うと、今一度追っての様子を確認するように木から顔をのぞかせる。


 もちろん相手も馬鹿正直に追ってきているわけでは無く、自分自身の姿をエル同様隠しながら、しかしどう言うわけかまるで殺気を隠そうとしないので比較的そう言った感覚に疎いエルでも何とか相手の居場所を確認できる。


 追っては二人。殺気を放っているのは一人だけで、もう一人は何故かその人と行動を共にしている。二人で別々にエルを捕らえにかかれば恐らくもうエルは捕まっていただろうが、どういうわけかそうしてこない。


 そうした攻防が続き、とうとうエルの前に大きな崖が立ちはだかった。しかも、付近には身を隠すのにちょうどよい場所も無く逃げることを諦める。ただエルにとって幸いだいだったのが追手がエルも知る熟練の冒険者であった事。


「ようやく大人しくなってくれたね」


 そう言いながら姿を見せたのは長身の女性。依頼をこなすことよりも強い相手と戦うことを優先する戦闘狂。そんな女戦士キアラだからこそ、きっと最後のチャンスがあるとエルは口を開く。


「貴女と一対一で戦い、わたくしが勝ったら見逃してくれませんか?」


 それを聞いてキアラがクックックと笑うと楽しそうにエルを見据える。


「あんた話がわかるじゃないか。青目の魔導師何と戦える機会なんてそうそうないからね」


 そこまで言うと、キアラの目が獲物を見る目へと変わる。それにエルは思わず一歩後退してしまった。地面と靴がこすれる音が辺りに響く。


「でも、殺さなければ後は構わないって依頼主からの通達だからね。どうなっても知らないよ」


「わかりました」


 エルは気丈にそう答える。大人しく捕まったとしてその先に待つのは恐らく公開処刑。エルが助かるにはもう戦い勝つ方法しか残っていないのだ。


 エルの返事を聞いて、キアラは楽しそうに笑うと未だ木の影に隠れているリウスの方を向いて叫ぶ。


「そう言うわけだから、いくらあんたでも邪魔したらただじゃおかないよ? リウス」


 それを聞いてリウスが渋々木の陰から姿を現す。


「そんな事されたら俺が隠れている意味無くなるじゃないか。姉さん」


 ため息交じりにそう言うとリウスは「それに」と続ける。


「久々に俺も本気出したかったんだけどね。今回は譲るよ」


 そう言ってリウスが木に背中を預けたのを見てキアラが戦闘態勢を取る。その手には身長ほどの長さがある両手剣が握られている。


「杖は使わないんですね」


 キアラの戦い方を聞いたことのあったエルがキアラに問う。


「魔導師相手に魔法を使って勝てるとは思わない」


 よ、というと同時にキアラがエルとの距離を詰める。エルもエルでキアラが動き出したと同時に地面から蔦を生やしてそれでキアラを攻撃する。


 しかし、所詮は素人の為す所エルの単調な攻撃は簡単にキアラに読まれ瞬く間にその距離は縮まっていく。キアラの射程にエルが入り剣を振り上げた時、エルが腰から短剣を引き抜きキアラの一撃に備える。


 辛うじてキアラの剣を受け止めたエルだが、その重さに耐えきれず僅かにその軌道をそらしただけで、すぐに構えなおしたキアラに胴を薙ぎ払われ崖まで飛ばされる。


 しかし、キアラはその事よりも自分の持っている剣がなんともない事に違和感を覚えた。


「なあ、王女様。ユウシャに直刀を渡したのはあんただろ? どうしてそれと同じものを持っていないんだい?」


 飛ばされたエルにも聞こえるように大きな声でキアラが問いかける。エルはゴホゴホと咳をしながら、よろよろと立ち上がるとすぐに回復魔法を自分に掛ける。それから、少しでも時間稼ぎになるだろうと自分も大きな声で答えた。


「さすがにあんなでたらめな剣を何本も作れませんよ。今私にあるのは何とか貴女の一撃に耐えることのできる服くらいなものです」


「そうか……結局は青目と言っても御姫様ってことだな」


 エルの答えを聞いてキアラが少し退屈そうに返す。それから、冷めたような眼でエルを見つめると興味を失ったように口を開いた。


「逃げられるのが面倒だから足を切断する。少しでも抵抗してくれよ」


 そう言ってキアラが地面を蹴った。それを聞いていたエルはやはり自分ではどうしようもなかったかと思うと同時に、誰に言うでもなく「ごめんなさい」と呟いて呪文を唱え始める。


「ミ・オードニ・フォルミ・ドマ・モンド」


 エルまであと一歩という所に迫っていたキアラが、しかし、何かを察知して後方へと飛ぶ。その直後先ほどまでキアラが居た場所に大きな緑色の棘が現れた。それから辺り一面、人の腕ほどの、ものによっては人の腕より太い茨で覆われ、その茨にはとても鋭い棘が無数に生えている。


 文字通り茨の道の最奥でエルは鳥籠のような茨の籠の中でその意識を失っていた。


「やられたって感じだね、姉さん」


 いつの間にかキアラの後ろにやってきていたリウスが声をかけるとキアラは「そうだね」と諦めたように言った。


「姉さんの剣でこれ切れないのか?」


 リウスに言われてキアラが軽く剣を振ってみるが、途中棘に阻まれ弾き返される。今度は棘の生えている先、茨の本体を狙う。今度は弾き返されると言うことはないが、切ったところでさらに倍になって茨の道を復活させる。


「無理だね。下手したらこの辺りの森一帯がこれに包まれかねない」


 キアラの結論を聞いてリウスが興味があるのかないのかわからない声で「ふうん」と呟くと、遠くに見えるエルを見ながら疑問を口にする。


「どうして御姫様は最初からこれを使わなかったんだかね?」


「籠ることは出来ても逃げる事が出来ないからだろう」


 キアラがそう言った時点でリウスは納得したように「なるほど」と言ったが、ついでとばかりにキアラが説明を続ける。


「見たところ魔力の供給に集中するためか強制的に睡眠を取らされるみたいだからね。魔力が尽きてこの茨が消えた時点でアウト。例え目が覚めても全く抵抗できないだろうし、もしかすると魔力が尽きるまで自分でも解けないんじゃないかい」


 それを聞いてリウスがあからさまに嫌そうな顔をする。


「それで、魔力が尽きる見込みは?」


「アタシなら一瞬なんだけどね。下手すると数日はこのままだろうね」


 リウスが嫌を通り過ぎてうなだれる。キアラとしてもあまり好ましくはないが、この依頼の報酬を考えると達成が確定したも同然のこの状況にそれほど不快感を感じえない。むしろ何らかの方法で逃げられた方が面倒だと言うものだ。


「キアラ、これはいったいどういう状況なんでしょうか?」


 突然聞こえてきた声にキアラとリウスは視線を茨から背後へと移す。そこにはいつの間にかルーリーノとニルが居て、二人ともあまり友好的ではない目でキアラ達を見ている。


 キアラは何故今この二人がいるのだろうかと考えるよりも、この二人な何のためにここに来たのかと考え思わず凶悪な笑みを浮かべた。


「見ての通り……じゃ分からないだろうけど、キピウムの御姫様を追い詰めて最後の最後で粘られてるってところだね」


「何でキアラがエルを……」


 最も状況の分かっていないニルが思わずそこまで言ったところでルーリーノが口を開く。


「恐らくデーンスかトリオーの国王からの依頼でしょう。報酬はその国の最強と謳われる人物との一騎打ちと言ったところでしょうか?」


「さすがはルーリーノだね」


 相変わらず楽しそうにキアラが答える。


「いつかこんな日が来るかもしれないとは思っていましたが、こんなに早く来るなんて思っていませんでした」


 ルーリーノが少しだけ寂しそうにそう言ったが、ニルは状況が分からないと言った様子で「どういうことなんだ?」と問いかける。今からの展開を予期してルーリーノはそれをニルに教えることが躊躇われたが、そうも言っていられない展開なので苦虫をかみつぶす思いで口を開く。


「キアラ達はエル姫を捕らえようとしていて、私達は助けようとしています。冒険者の対立でどちらも引けない時どうなるかはわかるでしょう?」


「そう言うわけだ。あの子を諦めてほしかったらアタシを殺してでも止めるしかないね」


 そこで漸くニルは今の状況を理解する。


「エルもそんな状態なわけだから諦めてはくれないのか?」


 しかし、ニルは状況が分かった上でもそう言ってしまう。もちろんキアラは即座に「無理だね」と返す。


「どうする、二人掛かりでも一人ずつでも構わないよ?」


 キアラが目をギラギラと輝かせて言うと、横からリウスが割り込むように声を出す。


「さすがにそれは聞き捨てならないね。さっきも楽しんでたろ? 俺にも楽しませてくれよ」


「仕方ないな」


 そんなキアラとリウスの会話を聞きながら、ルーリーノはニルに尋ねる。


「私が二人とも相手をしましょうか?」


「いや、キアラは俺が……」


 何かを決意したかのようなニルの顔がとても寂しげで、ルーリーノは「大丈夫ですか?」と声をかける。ニルは「ああ」と短く返すと「できるだけ早く終わらせて来る」と言ってキアラに直刀を向けた。




「アタシの相手はあんたかい。あれから大分強くなったんだろうね?」


 「今のアタシはあの時とは違うよ?」とキアラは両手剣であるはずのものを片手で構えると、空いた手で杖を持つ。


「今のアタシなら何十分でも魔法を使い続けていられそうだ」


 そう言って、ニルを視界を中央に捉えた。


 ニルにはキアラの言葉がはったりではないと何となくわかった。明らかに以前対峙した時と雰囲気が違い、その存在感は前の数倍とも感じられる。


 しかし、ニルはとても落ち着いた様子でキアラの出方を窺っていた。





「あちらの邪魔をしないように少し離れた場所に行きましょうか?」


「何かの拍子にでも今姉さんの楽しみを邪魔したら俺も殺されそうだしね」


 ルーリーノの提案にリウスが乗っかり二人は場所を移動する。そうしている間にキアラがニルに何かを言っているようだったが、敢えて二人はそれを聞かず向こうの様子が見える範囲で移動した。


「俺がルー嬢と戦う事になるなんてね」


 そう言いつつもリウスの表情は楽しそうで、でもキアラのように露骨にそれを出してはいない。


「それはこちらの台詞です」


 ルーリーノはそう返して、青く光る瞳を赤色へと変化させる。その変化を見たリウスが驚いた声をあげた。


「ルー嬢……まさか亜人だったのか?」


「半分……ですけど、リウスさんは怒ったりしないんですね?」


 当然自分のこの瞳に嫌悪したり、騙されていたのかと怒りをあらわにすると思っていたルーリーノはリウスの反応が少し拍子抜けで思わずそう尋ねる。


「ルー嬢はルー嬢だしな。それに、今大事なのはルー嬢が亜人かということじゃなくて、亜人であるルー嬢が強いか、その一点だからな」


「前から思っていましたが、本当に欲望に忠実なんですね。そんな人たちだから私も信頼していたんですが、こんな風になってしまったのは残念です」


 始め呆れたように言っていたルーリーノが肩を落として言い終わる。それを聞いてリウスが答えるために口を開いた。


「俺らもルー嬢は好きだったさ。だから、最後に俺達の信頼を裏切らないでくれよ?」


 そう言ってリウスは両手にナイフを持ち、それを構えた。


「リウスさん、ずっと言おうと思っていたんですが、私の名前はルー嬢ではなくルーリーノです」


 ルーリーノはそう言うとこれ以上話すことはないとばかりに、わかりやすく火の矢をリウスに向かって放った。





「へえ、ルーリーノ、亜人だったんだねえ」


 研ぎ澄まされた感覚の中、隣の会話が耳に入ったキアラがそう口にする。ニルはその言葉を聞いた瞬間、キアラが最東端の村人のようにルーリーノを罵倒するのではないかと顔をしかめた。


 しかし、キアラがそれ以上何も言うようなそぶりを見せないので思わず口を開く。


「ルーリーノが亜人でも気にしないんだな」


「何を気にする必要があるのさ。ルーリーノは強い、それだけでアタシ等には十分だし、ルーリーノが亜人だから強いって言うんならアタシは亜人の事を好きになるね」


 キアラがさも当然のように返すと、ニルは複雑な表情でキアラを見る。


 それから我慢できなくなったキアラが「じゃあ、始めようか」というと同時にニルに向かって走り出した。

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