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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
南の国メリーディ
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青い目の魔道士

 夜が明けて二人はペレグヌスの執務室へとやってきていた。一番屈強そうな青い目のペレグヌスが椅子に座り、ニルとルーリーノが机をはさんでその反対側に立つ。言ってしまえば昨日とおなじような恰好で相対している。


「それで、わざわざここまで来たってことは聞きたいことがあるんだろ?」


 ペレグヌスが椅子に深く座り、体重を背もたれに預けるようにした状態でそう切り出す。


 ルーリーノはそんなペレグヌスを冷めた目で見ながら溜息をつく。


「とりあえず、ちゃんと座ることはできないんですか……」


「背もたれって言うのはそこに体重をかけて楽できるようについてんだ。こうやって座る方がちゃんとって言えるんだよ」


 そうペレグヌスが真面目に答えるので、ニルがそう言うものなのだろうかと少し納得しかける。しかし、すぐにルーリーノが溜息をついたのですぐさまその認識を改めた。


 そんなルーリーノの溜息を見て、ペレグヌスは楽しそうなでも少し残念そうな顔をする。


「はじめてあった頃は「そうなんですか?」と納得してくれていたんだがな」


「だから私の真似をしないでくださいってば」


 ルーリーノが怒ってもペレグヌスは素知らぬ顔で、話を続ける。


「でも、今回からは別の玩具も見つけたし……」


 そう言ってペレグヌスがニルを視界にとらえる。捉えられたニルはどう反応していいのか分からずただ黙っていたが、代わりにルーリーノが口を開いた。


「ニルに変なことを教えないでくださいね」


 くぎを刺すようなルーリーノの言葉も無視してペレグヌスは一人続ける。その頃にはニルにもどうしてルーリーノがペレグヌスに会いたくないと言っていたのかが分かり始めていた。


「あれだろ、壁の向こうがどうなっているのか知りたいとかそんなところだろ?」


 ペレグヌスの言葉にルーリーノが「教えてくれるんですか?」と驚いた声を上げる。


「以前聞いた時には「やなこった」としか返してくれなかったのに……」


 二人の話にあまり着いていけていないニルも今のルーリーノの一言でなんとなく状況を理解した。おそらく、元々壁の向こうに行きたがっていたルーリーノのことだから以前にもここにきてペレグヌスに壁の向こうにいるであろう亜人について聞いたことを。それからペレグヌスがとても面倒くさそうな、もしくはとても楽しそうにそれを断っていたことを。


「まあ、教えてやりたいのは山々なんだが、俺には壁の向こうがどうなっているかってのはわからんのよ」


 それを聞いてルーリーノは少し驚いた顔をしていたが、すぐにその顔の端に呆れをにじませ始めた。


「ペレグヌスでも分からないというのは驚きですが、それよりもどうして昔聞いた時にあたかも知っているかのように振舞っていたんですか」


「どうしてって……当時ルリルリ青目と言っても駆け出し冒険者だったろ? そんな奴に舐められたくなかったからな」


 すぐに返ってきた答えにルーリーノはどこか諦めたような顔をして、すぐに話題を変える。


「わからないって具体的にはどう分からないんですか? 壁よりもこちら側なら何処の状況も分かるはずですよね」


「何処でも……と言うわけではないが、これはひとまずおいておこう。具体的にといわれると少し難しいが、壁に魔力をはじかれているイメージだな」


 今までふざけていたペレグヌスが急に真面目に話しだすので、話を聞いているだけのニルもその差に着いていくのに精いっぱいとなってしまう。


 ルーリーノとしては慣れたものなので、特に気にせずに質問を続ける。


「じゃあ、距離が問題とか言うわけではないんですね」


 すぐにペレグヌスが頷くので、ルーリーノは考える。ペレグヌスほどの魔導師の魔法をはじくのだからただの壁というわけではない。お伽噺にあるように神が作った壁だからなのだろうか。


 しばらく考えて壁や壁の向こうのことに関しては一度置いておくことにしてルーリーノは口を開く。


「西側においてもペレグヌスでも分からないところというのは東西南北何年か前ならばその中央だったりしませんか?」


「東西南北なら確かにそうだが、そこが今お前たちが向かっている場所なのか?」


 ペレグヌスは特に驚いた様子を見せることなくそう返す。ルーリーノはその言葉に頷いておいて、心の中ではペレグヌスが中央を省いた事を思案する。


 考えられることは二つ。中央だけ何らかの理由でユウシャの力で守られていなかった、あるいはペレグヌスの記憶から消えたのか。おそらく後者。ルーリーノもニルの言葉を信じていなかったわけではないが、このような形で実感してしまうと変に意識してしまう。


 しかし、ルーリーノは自分の内面に渦巻く奇妙な感情を端へと追いやり口を開く。


「恐らく既に北と西は行ってしまったのですが、ペレグヌスが言う場所というのは北の大山付近と西の無山ですよね?」


 ルーリーノの言葉にペレグヌスは少し興奮して、子供のような表情を見せた。


「へぇ、お前らそこに行ってきたのか。そこに何があったんだ?」


 ペレグヌスが身を乗り出すようにしてそう尋ねてきたのを見て、ルーリーノはどこまで話していいのかわからずにニルを見る。


 ニルはルーリーノの視線の意味を正確には把握できなかったが、自分が話すように促されていると感じて口を開く。


「ユウシャの残した遺跡があったな」


 ニルの言葉にペレグヌスは「ほう」と感心した声を上げた。しかしニルはそこで少し疑問を覚えたので続ける。


「ペレグヌスは最強の魔導師なんだろ? だとしたら、トリオーの遺跡なら行けたんじゃないのか?」


 いけたとしてもアカスズメに返り討ちにされていたと思うが、ルーリーノも行くだけなら出来たのだ。そのルーリーノよりも強いとなれば、森を抜けるのもそれなりの協力者さえいれば可能だったんじゃないのだろうか?


 ニルはそう考えていたのだが、ニルには予想外な事にペレグヌスは首を振った。


「俺は最強の魔導師じゃないからな」


 返ってきた言葉の意味を理解することができなくてニルは思わず「どういうことだ?」と尋ねる。


「そもそも、俺が最強なんて呼ばれているのは数年に一度行われる魔導師による力比べみたいな大会で優勝するからなんだが……」


 それを聞いた時ルーリーノは思わず「歴史のある大会をそんな風に言うのはどうかと思うんですが」と言おうと思ったが、自分もそんなことを言える身分じゃないと自覚しているので不自然にならない程度に目をそらし意識して口を噤む。


 そうしている間にもペレグヌスの話は続く。


「その大会に碧眼の魔導師が全員出ているわけじゃない。俺は大会を盛り上げるために上から言われて出場し続けているが、特に青目の魔導師は富とか名声とか眼中にない変わり者ばかりでな。そんな祭りに参加するくらいなら自分がしたいことをしたい。そうだろ、ルリルリ」


 当てつけのようにペレグヌスは最後にそう付け加えたが、事実ルーリーノも件の大会には出場したことがないので、「そうですね」と力ない声で返すことしかできなかった。


「それじゃあ、結局魔導師で最強って誰なんだ?」


 ニルの単なる好奇心から出た言葉にルーリーノは思考を巡らせてみるが、よく考えてみれば碧眼の魔導師なんてほとんど知らないし、数少ない知っている人物に関してもその半分は、先ほど、自ら最強ではないと告白したばかり。


「純粋に魔導師同士を戦わせたらエルの御姫様が一番強いだろうな」


 ペレグヌスは事も無げにそう言うが、ニルはまるで理解ができないとばかりに「そうなのか?」と間の抜けた声を出す。


「その刀見れば分かると思うがあの姫様が得意とするのは物に加護を付与することだからな。全身対魔法装備で来られたら魔導師じゃどうにもできんだろう」


「でもペレグヌスなら魔法なしでも強そうだよな」


 ニルにそう言われペレグヌスが一瞬ポカンと口を開けて呆ける。それからすぐに五月蠅いほどの笑い声を上げると口を開く。


「確かに素手でだったら俺が魔導師の中で最強かもしれんが、基は魔導師だからな本職ほどは動けん。その程度の実力で碧眼魔導師の猛攻を掻い潜ろうとは思えんさ」


「確かにペレグヌス体躯は無駄ですからね。何のためにそこまで大きくなったんですか」


 ルーリーノの嫌味ったらしい言葉にもペレグヌスは笑って返す。


「いや、若い頃な魔導師で熟練冒険者並に動けたら最強じゃね。と思った事があってな、それでトレーニングしたは良いんだがどうも俺には才能が無かったらしい。身体ばかり大きくなっただけだったな」


 それを聞いて、ルーリーノはなんて残念な人なのだろうと一つ溜息をつく。その様子はペレグヌスにも丸見えなのだが、そんなことないかのごとくペレグヌスは話し出す。


「それから、魔力の総量ならルリルリとエル姫が大体同じくらいでトップだろうな。まあ、正確に測るなんてできないから何となくだがな」


 そう言われてニルがルーリーノを見ると、ルーリーノ自身も少し驚いた顔をしている。そんな驚いた顔をしているルーリーノにペレグヌスは「お前気づいてなかったのか?」と豪快に笑う。


「要するにだ、青い目をした魔導師だからと言って万能なわけじゃなく、それぞれに得意分野を持っていることが多いわけだ。その分野においては恐らくそれぞれ最強を名乗れる。例えば単純火力で言ったらルリルリが一番だろう」


 「まあ、ユウシャ君の力次第だがな」とペレグヌスが言ったところで、ルーリーノが口を開く。


「その話は一度置いておいて、話を戻しませんか?」


 その言葉にニルはいったい何のことだろうかと考えたが、ペレグヌスは「そうだったな」と真剣な表情に戻った。


「東と南の話だったか」


 ペレグヌスがそう言ったところでニルはようやく話しの本筋を思い出しペレグヌスに尋ねる。


「南に関しては『人の行くことのできない孤島』らしいんだが、何かわかるか?」


「おう、よく分かってる。昔一度行こうとしたからな。海流の関係で人力程度じゃ近づくこともできないようなところだったから魔法で無理やり潮の流れを変えていこうとした。だが、途中で魔力が足りなくなってな何故かこの町の近くに流れ着いたわけだ」


 ルーリーノも初めて聞くペレグヌスの話に少し興味を持ったように耳を傾ける。


「それで、ここで魔力の回復を待っている間に居着いちまったってわけだ。今思えば俺に親切にしていたのは俺の目が青かったからなんだろうけどな」


 そうさらりと言ってやはり豪快な笑い声を上げた。


 その話の中でルーリーノはどうやってそこへ向かえばいいのかを思いついたので、口を開く。


「つまり、ニルが頑張れば良いわけですね」


「俺がか?」


 ルーリーノの言葉にニルが驚いた声を出す。そんなニルにルーリーノは自信たっぷりに言う。


「ユウシャの力を使えば確か魔力はいらないんでしたよね。それに水は私の専門外なので恐らくペレグヌスよりも魔力が持ちませんよ?」


 そう言われたらニルも納得せざるを得なくなってしまう。そのユウシャの力というのはペレグヌスも興味があったが、とりあえず話を進めるために口を開く。


「それから東は最東端の村のさらに東の森の中にある。位置的には村から真東よりも少し南ってところか」


「最東端の村?」


 ニルがそう疑問を示したところで、ルーリーノが口を開く。


「その村なら私が分かるので大丈夫ですよ」


「まあ、ルリルリの出身地らしいからな」


 「そういうことです」とルーリーノがペレグヌスの言葉にうなずくと、ニルが少し感心したような顔をする。


 とりあえず、聞きたかったことは聞いたわけなのでルーリーノが今日一日で準備を済ませて明日の朝この町を出ようかなどと考えながら、さんざんルリルリと呼んでくれたペレグヌスにどんな言葉をかけようかと言葉を選んでいるとき、


「今日こそ教えてもらうからな、ペレグヌス」


 と緑色の目をした少年が執務室のドアを乱暴に開けて入ってきた。

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