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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
南の国メリーディ
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ウンダの町~夜~

 その日の夜、ルーリーノに宛がわれたのは、かつて何度か泊ったことのあるペレグヌスの屋敷の二階の端の部屋。ルーリーノには大き過ぎる位のベッドに机。一本の木から彫ったというポールに五、六本枝を生やしたかのようなコートかけがあって、部屋の入口付近にある扉の向こうには殆ど普及していないであろうオフロなんかがある。


「変わりませんね、ここも」


 いつも羽織っているケープをコート掛けに掛けて、ベッドに座った状態でルーリーノはそう呟く。


 何処かに留まることの少ないルーリーノにとって数少ない落ち着ける場所ともいえるここで、ルーリーノは「はぁー」と大きく息を吐いてベッドに倒れ込む。


「何となく落ち着きませんね……」


 なんとなくではなく、ニルの過去が少し垣間見えたために落ち着かないことはルーリーノにも分かっていたが、考えなしに開いた口からはそんな言葉が漏れる。


 ニルの言っていたことが本当であるなら、この旅の後ニルは帰る場所があるのだろうかとルーリーノは考えてしまう。今のルーリーノのように冒険者として根なし草の生活もできなくはないだろうけれど、少なくともルーリーノには、


「私には村がありますからね……」


 ここよりも遥か東、この壁の西側における最東端の村のことを思い出しながらルーリーノは呟く。


 そんなとき、隔てられた壁の向こうでガラリと窓が開けられた音がしてルーリーノは身体を起こす。


 それから恐る恐る自分も窓の方へと向かい、その向こう半円状のベランダへと足を踏み出す。落ちないように取り付けられている柵は所々花を彫ってあるような凝ったもので、町の中でもそれなりに高い位置にあるこの屋敷からはウンダの町が一望できる。


 魔法による照明なのか、単なる炎なのか眼下には星のように明かりが見える。


「どうしたんだルリノ?」


 ルーリーノが外に出るとほぼ同時そう声をかけられたのでルーリーノは声のした方を向く。


「私はルリノではありません」


 一度そう言っておいてから、ルーリーノは続ける。


「少し風に当たろうと思いまして」


 本心とはまるで違うが、何と言っていいのかわからないルーリーノはそう言う。


 ニルはそんなルーリーノの心情を知ってか知らずか、「そうか」と短く返した後で少し考えて話し出す。


「黙ってて悪かったな」


 何をとはニルは言わなかったがルーリーノは何を指しているのかはわかったので、少しぶっきらぼうに返す。


「別に構いませんよ。きっとまだ私に話していないことがあるでしょうし、それに私だってニルに話していないことの一つや二つあります」


「ルリノの方が隠していることが多そうだよな」


 ニルがそんな風に軽口をたたくが、恐らくその言葉は間違っていないだろうからと、ルーリーノは言い返すことが出来ない。


 そうしている間に、ニルがぽつりぽつりと話しだした。


「生まれてからそれなりの年齢になるまでは隠し玉とか、切り札とかそういう意味合いで閉じ込められていたらしい」


 急にニルがそんなことを話し出すので、ルーリーノは驚いて耳を傾けたが、ニルはそんなルーリーノのことなどお構いなしに続ける。


「それから先は公にするのが恥ずかしいということで城から出ることを禁じられていた」


「恥ずかしい……ですか?」


 ニルの言葉に違和感を覚えたルーリーノが思わず尋ねる。ニルは町の明かりをボーっと見ながら頷くと続ける。


「権力に関して言えばユウシャの作った国って言うのと、巫女のいる国ってだけで十分だったらしくてな。そこで俺に求められていたのはユウシャとしての圧倒的な強さ。剣術に関してはマシだったんだが、知っての通り魔法に関しては全く使えなかったから、いいところ腕のいい剣士でしかなかったわけだ。そんな人物を隠していたとなると笑いものになりかねない。だから、城から出したくなかったんだろうな」


 そこまで聞いてルーリーノはそれは単純にキピウム王の判断ミスでしかないように感じられたが、特に口を開くことはせずにニルの話を聞くことに集中することにした。


「そんな状況がまた変わったのが、ユウシャの遺跡に連れていかれた後。前も少し話したが、まあ遺跡を消した後、今度は腫物を触るみたいに扱われてな。今まで粗雑に扱ってきた息子が急に異質な力を手に入れて怖かったんだろうな。それで扱いに困っていたところで神からユウシャを旅立たせろなんて言うお告げがあったから体よく城から追い出したと言ったところか」


 ニルが雑談でもするかのようにそう言うのでルーリーノは反応に困ってしまうが、何とか声を出す。


「キピウムに心残りとかないんですか?」


「どうだろうな。あるとしたらエルと別れることになった事くらいか。エルだけはずっと変わらずにいてくれたからな」


 「エルは何もしてあげられなかったなんて思ってそうだがな」というニルの声は一段と優しさを帯びていてニルのエルに対する親愛を垣間見ることができる。


「そう言えば、ルリノはエルと会ったことあったみたいだな」


「トリオーでたまたま会いまして……すいません、隠しているつもりはなかったんですが」


 黙っていたことに対する後ろめたさに、名前を注意するのも忘れて弱々しくそう言う。しかし、ニルは特に気分を害した様子もなく口を開く。


「いいよ。どうせ、エルにあってもどんな顔して会えばいいのかわからなかっただろうし。それよりも何か言ってたか?」


 ニルにそう問われて、ルーリーノはエルとの会話を思い出す。


「ユウシャ様に何もしてあげられないまま旅立たせてしまった……みたいなことは言ってましたね」


 それを聞いてニルが笑う。それを見て、そして先ほどのニルの台詞を思い出してからルーリーノもクスクスと笑い出す。


 ひとしきり笑ったところでルーリーノが口を開く。


「じゃあ、本当にキピウムの事は……」


「何とも思ってないな。むしろ、剣術を叩きこんでくれたおかげで今こうやって冒険者やっていけているようなものだから感謝してもいいくらいかもしれないな」


 そう言って笑うニルを見てルーリーノはどこか安心した。安心したと同時に気になることも出てきたのでニルに尋ねてみる。


「ニルはお城の兵士に剣術を習ったってことでいいんですよね?」


「そうだな」


「ニルってどれくらい強かったんですか?」


 ニルはそう聞かれて当時のことを思い出す。しかし、どれくらいと言われてもはっきりと答えられそうにはなかったので曖昧なままに声を出す。


「結局、城で一番強いといわれていた人には勝てなかったから、たぶん五本の指に入れるかどうかってところじゃないか?」


 ニルでもそんなところなのかと話を聞いてルーリーノは少し驚く。しかし、キアラに勝てなかった所を考えるとその位なのかもしれない。


「そろそろ、今日はもう寝るか」


「そうですね。休めるうちにしっかり休んでいないと身が持ちませんから」


「それじゃ、おやすみ」


「お休みなさい」


 ルーリーノはそう言ってニルが部屋に戻るのを見送ってから、誰も居なくなったベランダでぽつりと呟いた。


「本当は私も隠し事なんてしたくないんですけどね……」


 呟いてから、自分は何を言っているのだろうとルーリーノは首をふってから部屋に戻った。

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