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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
南の国メリーディ
33/64

ウンダの町

 西の山を下り、二人は海沿いに南へと足を進めていた。海を右手に見ながらと言うのはニルにしてみれば新鮮なもので、時折海の方に視線を向ける。


「海が珍しいのはわかりますが、気を付けてくださいね」


 いつの間にか機嫌を直したルーリーノがニルにそう言うと、ニルは首をかしげて「気をつける?」という。


「塩風は知らないうちに喉にダメージを与えたりしますから」


 そう返したルーリーノにニルは「そう言うものなのか」とあまり気にしていない様子で言う。ルーリーノとしてもこの反応は予想できていたらしく、特に気にした様子もなく歩き続ける。


「そう言えば、この辺は今までより道がしっかりしてないんだな」


 足元をみれば植物が伸び放題、かろうじて二人が歩いている所は何度も踏まれて低くなってはいるが、道というにはあまりにも心もとない。


「まあ、街道ではないですからね」


 あまりにもさらっとルーリーノがそう言ったのでニルは一度「そうか」と納得しかけたが、すぐに事の異常さに気がついて頭をふる。


「いや、街道じゃないってどういう事だ? メリーディに行くんじゃなかったのか?」


 メリーディとはキピウムの南にある国であり町。この場合は町の方のメリーディ城下町を指していて、ルーリーノもそれに頷いて返す。


「そうですよ。むしろ殆どメリーディの国に入ったといえるくらいです」


 ルーリーノが笑いながらそう返すのでニルは少し不機嫌そうな声を出す。


「ルリノそれわざと言ってるだろ?」


「ニルがいつまでたっても私をルーリーノと呼ばないからです」


 ルーリーノも少し頬をふくらませてそう言うと、一つ溜息をついてからちゃんと答える。


「あそこからメリーディだと確かに街道を通った方が速いんですが、途中に町や村がほとんどなく野宿になる可能性が高いんですよ」


「じゃあ、ここを行けば丁度いい場所に町か村があるんだな」


 ニルが尋ねると、ルーリーノは「そういうわけです」と返した後で「まあ、」と続ける。


「ここの道を知っている人は少ないですけどね」


「こんなじゃ、徒歩で荷物も少なくないといけないからな」


 ときおり足に絡みついてくる草を引きちぎりながらニルが言うと、ルーリーノは少し複雑な顔をして口を開く。


「本当は行きたくないんですけどね。こちらを通ると下手すると数日遅くなりますし、会いたくない人もいますからね……」


 ルーリーノが本当に嫌そうに言うのでニルは珍しいものを見るかのような目でルーリーノを見る。


「それなのにそこに行くのはやっぱり安全だからか?」


 ニルが尋ねるとルーリーノが頷く。その顔は嫌そうなままではあるが。


「夜中に毒を持った亜獣に囲まれでもしたら、もしかしたらということがありますし、それに会いたくはないですが、あって損するという人でもないですからね」


 ルーリーノがそう言い終わったとき、不意にニルが直刀を地面に突き刺す。ルーリーノが特に驚くこともなくそれを見ていると、ニルは直刀を引き抜きその切っ先にいる人の腕ほどの太さをした蛇のような生物をルーリーノに見せる。


「その毒を持ったって言うのはこいつか?」


「そうですね。そう言った亜獣は昼間も襲ってきますが基本は夜行性で、夜に出てくるときは群れでやってきます」


 「昼間にいるやつは基本的に群れを追われた個体ですね」とルーリーノが説明し終わったところでニルが口を開く。


「こいつの毒ってどれくらい危険なんだ?」


「そうですね。何の処置もしなければ噛まれて一分以内には心臓が止まるレベルでしょうか」


 ルーリーノはあっさり答えたが、内容が内容なだけにニルは一度身震いをする。それからこの道を通りこう言った亜獣を避けようとしているルーリーノの判断の正しさに感謝する。


 そこでニルはふと何かを思いついたように話し出す。


「そう言えばルリノは噛まれたこととかあるのか?」


 ルーリーノはひとつ溜息をついて「ルーリーノです」と言ってから答える。


「呪文を唱えるのがあと少し遅かったら危なかったですね」


 コロコロと笑いながらルーリーノは、昔あった自分の失敗を照れるように話すが、ニルはそれを聞いてぞっとする。


 ルーリーノはそんなニルの様子を見てか、ニルを覗きこむようにして見る。


「大丈夫ですよ。当時の私は今のニルよりもだいぶそう言った危機察知能力というものが高くなかったですから。ちゃんと近づいてくる敵を丁寧に倒していけばそんなことにはなりません」


「まあ、ルリノが言うならそうなんだろうけどな……」


 溜息をつき気味にそうニルが言ったのに対して、ふとルーリーノは自分の頬が赤くなるのを感じて顔をそむけた。


 ニルは少し首をかしげながらその様子を見ていたが特に何かを言うことをせずに黙ってルーリーノの後ろを歩いていた。



 日もだいぶ傾いてきた頃ニルがルーリーノに声をかける。


「そう言えば、ルリノの言っていた会いたくない人ってどんな人なんだ?」


 ルーリーノは「ルリノじゃないです」と言ったあとで、とても憂鬱そうな表情を作る。


「どんな人というより……そうですね。最強の魔導師と言われている人です」


「ペレグヌスのことか?」


 ニルが名前を出すと、ルーリーノが驚いたように「そうです」と返す。


 それから、その驚いた様子のままでルーリーノは続ける。


「知っていたんですね」


「まあ、有名だしな。とはいっても実際に見たことはないし、他人から聞いたってレベルだが」


 確かに魔導師ならばペレグヌスの名前は有名ではあるし、ニルには碧眼の魔導師の知り合いがいるのだから知っていてもおかしくはないのかとルーリーノは納得して口を開く。


「ニルは彼につてどれくらい知っているんですか?」


 情報の重複を避けるために、それからペレグヌスが一般にどんな風に言われているのか気になってルーリーノがそう尋ねると、ニルが少し考える仕草を見せる。


「どれくらいって程も知っていないと思うが、確か占いが得意なんだっけか?」


「そうですね。あとは水を使って遠くの町の情報なんかも即座に手に入れるみたいなこともやってますね」


 「だから会うには悪くはないと思うんですけど……」最後そう、ぼやくようにルーリーノが言うと、ニルが首をひねる。


「魔法ならルリノにもできるんじゃないのか?」


「前にも言ったと思うんですが、私の得意な魔法は火と風。水や土も使えないことはないですが、ペレグヌスが使うような高度なものとなると今のままだと無理ですね」


 ルーリーノが名前に対する注意を我慢しながらそう言うと、ニルは頷く。


「それで、ペレグヌスってどういう人なんだ?」


 ニルが改め尋ねると、ルーリーノが露骨に嫌そうな顔をする。そのまま何か考えるように腕を組む。


「改めてどんな人かと考えると難しいですね。一言で言うと変な人なんですが」


 そんなルーリーノの答えにニルはペレグヌスという人物について尚分からなくなる。


「まあ、会ってみればわかりますよ」


 ルーリーノは考え込んでいるニルの姿を見て、それだけ言って前を向く。ニルは半ば諦めたような顔を見せると「それもそうだな」と返して、ルーリーノの後に続いた。



 海の傍、塩風に吹かれながら太陽が紅に染まりかけた頃二人の目に頑丈そうな石の壁が見え始めた。急に現れた人工物はどことなく浮いているようで、しかし周りの自然とともに徐々に赤く染まっていく様子は、やはりそこにあるべき存在であるかのような気がしてくる。


 ルーリーノの後ろを歩くニルはもちろんのこと、何度かこの景色を見たことがあるルーリーノも少しだけ、その情景に感動を覚えた。それでも、それを表に出すことはせずに至って平常に道なき道を歩く。


「道から外れている割にはだいぶ頑丈そうな壁何だな」


 ニルがふとそう尋ねると、ルーリーノはやや視線を上にあげながら質問の答えを思い出そうとする。


「今私たちが歩いている側は亜獣が少し多いところですし、すぐ隣が海なので塩風から町を守るためにあんな風になっているんです。ですから、反対側に回れば木製の壁になっていたと思いますよ」


「その土地にあわせてあるんだな」


 ニルは関心をあまり表に出さずにそう言うと視線を海の方へ向け足を止める。


 ルーリーノはニルの足音が聞こえなくなったので、何かあったのだろうかと立ち止まりニルの方を見る。ルーリーノの視線の先には遠く海を見つめているニルが映ったが、その無表情ともとれるニルの様子に何も話しかけることはできなかった。



 二人が辿り着いたのはウンダの町と呼ばれる場所。ルーリーノの言葉通り入り口にあたる部分は木で作られた壁で守られていて、入口から離れるにつれて丘を登るように高くなっていく。町というよりも村に近いようなイメージで、入ってすぐには川を利用した水車や畑、それから牧場のようなところまであり、建物は木で作られた何処か温かみのあるところである。


 しかし、町の奥の方へと入って行けば急に景色が変わり、石畳が敷かれ家もそれに伴い石造りのものが多くなってくる。店と呼ばれるものはそこに存在し、武器や防具に関しては基本的なものしかないが、食料や日用品と言ったものは豊富にそろっている。


「何か今までの町や村とはだいぶ雰囲気が違うんだな」


 町のやや奥の方地面が石畳に変わってしまったあとの場所でニルが辺りを見渡しながらそう言う。それを聞いてルーリーノは「そうですね」と言ってから続けて話す。


「ここは忘れられることが多い町だったので、こうやって一つの町だけでやっていけるようになったんですよ。そういう意味では何となく最初に行った村に近い感じはしますね」


 そうしている間に何人もの人が二人を訝しげな顔で盗み見しながら通り過ぎて行く。二人も気がついてはいたがそう言った視線にはいやでも慣れてしまっているので特に気にした様子は見せない。


 しかし、そんな風にのんびりとしていたせいか、気がつけば二人は周囲を全身鎧でまとった集団に囲まれていた。


「あまり慣れ過ぎるって言うのも困りものですね」


 ルーリーノは少し諦めたようにそう言ってニルの方を見る。


「そう思うなら今ここで碧眼の名前を出したらどうだ?」


 ニルは呆れたようにルーリーノにそう言うが、ルーリーノは首を振る。それから溜息をついて口を開く。


「今いろんな人に私の存在を知られるのはあまりよくない気がするんですよね。下手すると、軽い騒ぎになりますし」


 それもそうかと思いながらニルが辺りを見渡すと、ぽつりぽつりと野次馬が増え始めていた。それからニルは首をふってルーリーノに言う。


「もう十分騒ぎになってると思うがな」


「それはそうなんですが、きっとこのまま行けばペレグヌスに会えると思いますよ? 隠れ住んでいることにはなっていますが、一応裏ではこの町のトップですから」


「何をごちゃごちゃ言っている」


 ニルとルーリーノがあまりにも普通に話すので鎧を着た兵士の一人、他の槍を二人に向けている兵士とは少し違った恐らくリーダー的存在が、いらつき気味みにそう言ってくる。


 ここで、下手に刺激しても仕方がないと思った二人はそれからはしっかりと口を噤んで兵士長の話を聞く。


 兵士長も二人がもう話さないと分かったのか、話を進めるために高圧的な口調はそのままに話し始める。


「確かに怪しい奴らだな、ひとまず着いてきてもらおうか」


 そう言われ兵士に囲まれたまま二人は町の奥の方へと連れて行かれた。

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