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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
西の国デーンス
32/64

ユウシャの遺跡その2

 次の日、ルーリーノが目を覚ますと辺りはまだ薄暗かったが、ガサゴソと何かを探しているような音がした。


 しかし、すぐに辺りが薄暗い程度な事に疑問を覚える。岩山の内部、光源は持って入るが昨日ニルに渡したものは既に光を発さなくなっているはずで、本来なら真っ暗であるはずだと、そう気がついたルーリーノは急いで起き上がる。


 その時に気付かれたのか下の方から「遅かったなルリノ」とニルの声がして、ルーリーノは少し安心する。


「ルーリーノです」


 と、一度そう返しておいて「遅かったですか?」とルーリーノが首をかしげる。


「まあ、ルリノにしてみたらな」


 姿の見えないニルからそんな風に返ってきてルーリーノは溜息をつく。それから「さっきの今でも駄目なんですね」と呟いたがそれはニルには聞こえなかった。


 ルーリーノが寝ていたままの恰好で梯子を降りるとニルは部屋の中を捜索していた。


「そう言えばどうしてここまで光が届いているんですか?」


 先に起きていたというならもしかしたら知っているかもしれないとルーリーノはニルに尋ねる。すると、ニルは入り口の方へと歩き出す。それから、壁を触ったかと思うと薄暗かった部屋が急に明るくなった。


 その明るさに思わずルーリーノは手で目を覆う。


「ここを押すとどうも明かりがつくらしい」


 光に慣れてきた頃ルーリーノはニルのいる出入り口付近に向かい、ニルが触っていた辺りを見る。そこには何やら出っ張りがあり、恐る恐るそれをルーリーノが押すと天井で光っていたものの明るさが弱くなり先ほどの薄暗さになる。


 もう一度押すと完全に消え、さらに押すと明るくなる。


「魔力を流す装置みたいですが……」


 ルーリーノがそう言うと、ニルがどういうことか尋ねる。


「光る石の話は前にしたと思うんですが、いろいろなタイプがありまして、これは多少魔力が使える人が使うようなものに似ているんです」


「つまり、その装置に魔力を流して天井の石に明かりを灯すってことか?」


 ルーリーノの話を総合して思いついたことをニルが言うとルーリーノが頷く。


「まあ、ニルでも使えたということは何か違うんだと思うんですが、どういう仕組みかまではすぐにはわかりませんね……」


 そう言ってルーリーノが首を振ると、ニルは「そうか」とだけ言って捜索を再開する。ルーリーノもそれに続いて部屋の中を見て回る。


 昨日薄暗い中で見たものと大して変わらないが、光が強くなった分色がよく分かるようになっている。


「それにしても、ここにあるものはどうやって持ってきたんでしょうね」


 二段ベッドを見上げながらルーリーノが言うと、ニルが首をかしげる。


「どう見てもこのベッドなんてあのドアに入りませんし、そもそも無傷のままここまで降ろすことなんで出来ないと思うんですよね」


 「もしかして、ユウシャの力があればできるんですかね?」ルーリーノが何気なしに言った言葉にニルが考える。それからさほど時間をかけずにニルが口を開く。


「たぶん出来るな」


「本当ですかっ」


 ルーリーノが驚いたような声を出す。それに対してニルが頷いた。


「俺には出来ないが、前のユウシャは使いこなせていたはずだろうから余裕だろう」


 それを聞いてルーリーノが戦慄する。例えばこの中で作るつもりで材料を先にこの中に入れようとしたとしても二段ベッドの足となる部分はどう足掻いても扉を通らない。


「だいぶ驚いているみたいだが、そもそもこの空間を作ったのがユウシャだろう? それにもしかしたら頂上が平らなのもユウシャじゃないのか?」


 ルーリーノがどうやって家具を中に入れるのかを考えているとニルがそう言ったので、ルーリーノは一度考えるのを止める。


「そう言えばそうですね……」


 魔法でこれらのことをやるとなると……と考えてルーリーノはすぐに無駄だとわかり考えるのを止める。


「やっぱりはあったぞ」


 ルーリーノが考えている間にも捜索を続けていたニルがそう言ってルーリーノを呼ぶ。


 ルーリーノがニルの所まで行くと、ニルがひとつ前の遺跡で見つけたものによく似た本を持っていた。


「それどこにあったんですか?」


「机の中。まあ、考えてみれば厳重に隠す意味とかないしな」


 ルーリーノの質問にニルがそう答える。ルーリーノはそれはそうだと思いながらニルの後ろから本を覗きこむ。


 本には前回と同じような形でこう書かれていた。


『世界の根幹とも言うべきルールは時に意図しないものまで縛ってしまう。


 このルールに捉えられたが最後簡単に抜け出すことはできない。


 今ルールはイレギュラーを捉えてしまったために停止してしまっている。


 かつて三人のユウシャは亜人の王を倒したが、すぐにマオウが生まれた。


 次は南へ。人がいくことのできない孤島。もしも、マオウを倒そうというなら向かうと良い』


「今のマオウはお伽噺のマオウとは違う……」


 これより先は例によってルーリーノには読めないので、読めるところまで読んでそう呟く。その呟きに込められていたのは安堵。ニルに対する後ろめたさの払拭。マオウが変わっているならば話が通じるかもしれない。


「何か言ったか?」


 ルーリーノよりも先を読んでいたニルはそう尋ねる。


「いいえ、なにも」


 事実とは違うが、ニルに今の気持ちを知られるわけにはいかないルーリーノは少し驚いたような演技をしながらそう答える。




 それからニルがすべて読み終わったであろうタイミングでルーリーノが口を開く。


「今回は前よりも展望が見えた気がしますね」


 その言葉にニルが頷いて話す。


「世界のルールが機能しなくなったから正常にしろって言われてる感じがするな」


 ルーリーノはそれを聞いて少し考えるような表情を見せる。


「それは、そうなんですけど、マオウに関して少し思いませんか?」


 ニルはそう言われてもピンと来ず首を振る。


「今回のは最後に『マオウを倒そうというのなら』とわざわざ付けているんです」


 ルーリーノが該当箇所を指さしながらそう言うとニルがそこを見ながら「そうだな」と返す。


 その反応でまだ理解できていないのだと思ったルーリーノは続けて話す。


「つまり前のユウシャはここでニルがマオウを倒すことを躊躇う可能性があると思ったのか、もしくは敢えてこう言うことでマオウを倒すということに対して疑問を植え付けようとしたのだと思います」


「それって後者の場合……」


 ようやくルーリーノが言わんとしていることを察したニルが恐る恐るそう言う。


 ルーリーノは頷いて、それから首を振る。


「でも、結局推測の域は出ませんのであまり考えても仕方無いとは思います。それに仮に後者だったとしても結局マオウを倒すように誘導しているんですから」


 ニルが何やら難しい顔をしたあと、諦めたように頷くのを見てルーリーノはもう一度口を開く。


「それで、私が読めない所はどうだったんですか?」


「前と同じだな」


 それを聞いてルーリーノが大きく溜息をつく。


「まあ、何となく判ってはいましたが……」


「今回は身体強化みたいだったな」


「まさか、一度使うと光よりも速く動けるようになるとか言いませんよね?」


 前回の魔法が制限がなかったという事で、そんなことあるわけないと思いつつもルーリーノは尋ねる。


 それに対してニルは首をふってから答える。


「一応俺の身体が耐えられる程度で抑えられるらしい」


「つまり、身体が耐えられれば可能だったわけですね」


 ルーリーノが溜息も出ないと言った感じで声を出すと、ニルが頷く。


「それじゃ、次の遺跡に向かいましょうか」


 ルーリーノが少し拗ねたような感じでそう言うとニルが「怒ってるのか?」と尋ねる。


 ルーリーノは笑顔で首を振ると扉の方へ向かいながら話す。


「全然怒ってないですよ?」


 その声にほとんど感情が込められていないのに逆にニルが怖さを覚え始めた頃、ルーリーノがもう一度口を開いた。


「そう言えば、私降りるとき風の魔法を使って一気におりますので、ニルは無敵になるなりなんなりで勝手に降りてください」


 そう言って扉から出て言ったルーリーノに向かってニルは「やっぱり怒ってるだろう」と呟くことしかできなかった。

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