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黒髪ユウシャと青目の少女  作者: 姫崎しう
西の国デーンス
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夜の訪れ

 真っ白な世界の中ルーリーノは一先ず終わったのだとその場にストンと座り込む。


「最後のはちょっとヤバかったですね」


 ルーリーノはそう呟くと、チンロンの最後の攻撃を思い出し始めた。呪文詠唱の途中で急にのしかかってきた水の重み。それを相殺しきれなくなったため詠唱は中断させられ、使わざるを得なくなった奥の手。


「それに、この装備じゃなかったら無傷じゃ済まなかったですね」


 そう言ってルーリーノは自分の着ている服を見る。トリオーでの戦いでルーリーノは気が付いていたが、流石は姫巫女様が使っていた装備というのか、ニルの直刀には及ばないものの、それでも強力な魔法が掛かっている。


 ルーリーノ自身どんな魔法が掛かっているのか、その全てを把握できないが、少なくとも強力な耐熱効果はある。そのお陰でルーリーノは灼熱の業火で大量の水塊を蒸発させてもその中にいる自分の身を守ることができたといえる。


 もちろん、ルーリーノ自身、自分の魔法から身を守る方法ぐらい会得しているが大きな力を使えば使うほど自分の身を守るために使う魔力も膨大になりあれほどの威力は出せなかったかもしれない。


 特にやることのなくなってしまったルーリーノが次に気にしたのは自分の目について。何とかこの場でその色を確認することはできないかと考え、結局魔法を使ってどうにかするしかないという考えに行きついたところで諦める。


「まあ、ニルが戻ってくるまでに青色に戻るでしょう」


 それからルーリーノは周囲の様子を観察してみる。あれだけ激しい戦いがあったというのにはじめここに辿り着いた時とそんなに変わらない気がする。


「確かに遺跡がありそうですね」


 ルーリーノはそう呟いて、遺跡の入り口を探そうかと思ったがニルが戻ってきてからでいいかと思うと空を見上げた。


 ルーリーノの目に暗くなりかけている空が映る。太陽の高さほどまではオレンジ色に染まり、そこから離れていくに連れ青が深くなっていく。浮かんでいる雲は低い位置ならば太陽の逆光で黒く見え、高度が高くなるにつれて白くなる。


 太陽とは真逆の方を見ると、点々と星が見えはじめそれがなんとも夜の訪れを感じさせる。


「ニルが戻ってくるときには真夜中ですね。ここが亜獣のいないところでよかったです」


 ルーリーノはそう言うと、魔力の回復も兼ねて空を眺めることにした。




 ニルが戻ってきたのは、はじめルーリーノと登った時の時間の四分の三と言ったところ。


「ルリノ大丈夫か」


 肩で息をしながらニルがそう言ったのに対して、ルーリーノは


「思ったよりも速かったですね。あと私はルーリーノです」


 と軽く返す。ニルはそんな二人の認識に内心首をかしげる。その疑問にルーリーノが意図せず答えた。


「ニルをここから落としたユウシャの使いは私が倒しておきましたよ」


 それを聞いてニルは驚いた顔をする。何せ、前回のアカスズメを倒したときニルはユウシャの力を頼って漸く倒したようなものだったのだから。だから思わず「よく倒せたな」と呟いてしまう。


 ルーリーノはそのニルの言葉に特に嫌な顔もせず、むしろ綺麗な青色の目を細めて「そうですね」と話し始める。


「もしも此処も炎使いなら危なかったですが、幸い水でしたから」


「どういう事だ?」


 ルーリーノの言葉の意図が読めずニルがそう口を挟む。


「私の得意とする魔法は風と火ですから、相手が水ならそれを蒸発させてしまえばいいんです。風は火を補助するには持って来いですから、まあ何とか相手の出力を上回れたと言ったところですね」


 そこまで言われてもニルにはそう言うものかと言った理解しか得られなかったが、ルーリーノが無事だったというだけで十分かとそれ以上は聞かなかった。


 その代りというわけでもないが、ルーリーノがニルに向かって叱るように言う。


「それよりも、壁の外で他のことに気を取られるのはいけませんよ」


 そう言われてしまえば、言い訳などできるはずのないニルは「ああ、気をつける」ということしかできなかった。


 それでも、またルーリーノにまくし立てられるのではないかと思っていたニルだが、その予想に反してルーリーノは一つ溜息をつくだけだった。


「まあ、ニルの状況が状況だったので仕方ないかもしれませんが、冒険者を続けていくなら割り切ってくださいね。ニルが死んだらそれこそ意味がないでしょ?」


 諭すようにルーリーノがニルにそう言うと、ニルは素直に「わかった」と返した。




「それで、ユウシャの遺跡ってどこにあるんだ?」


 所々雲によって真っ黒に塗りつぶされている星空の下、ニルがそう尋ねるとルーリーノは地面を指さした。


「曰くこの下にあるそうです」


 ニルはそれを聞いて怪訝な顔をする。それを見たルーリーノが詳しい説明を加える。


「使いを倒すと何処かでこの下に入るための入り口が出てくるそうですね。探そうかとも思いましたが私も消耗していましたし、ニルにも働いてもらおうかと思ってまだ入口は探してないです」


 ニルはルーリーノの言葉にため息の出る思いだったが、確かに今回働いていないのは事実ではあるし、ぐっと言いたいことを抑える。


「それでなんですが、ニルは今から探したいですか? それとも明日の朝から探しますか?」


「今から探すか。たぶんすぐ見つかるだろうし、前回と同じなら外で寝るよりもだいぶましだろう」


 ルーリーノの問いにニルがすぐに答えたので、ルーリーノが少し驚く。しかし、言っていることは的を射ているようなので「そうですね」と返してから、せめて地面だけでも見えるようにと呪文を唱えた。




 結論から言うと遺跡への入口はすぐに見つかった。平らになっている山頂の丁度中央、そこに不自然にドアがありそれを開くとすぐに縄梯子が見える。


「ここから下ればいいんでしょうね」


 ルーリーノの言葉にニルは頷き、縄梯子を下り始める。その間ルーリーノは入り口で待機してニルからの報告を待つ。


 ルーリーノが考えていたよりも少し長い時間がかかって下からニルの声が掛かる。


「降りてきていいぞ」


 ニルにはあらかじめ例の光る石を持たせているので、ルーリーノはぼんやりと光る所まで行けばいいのだが、やはり思いのほかに深い。


 ルーリーノが縄梯子に足をかけると、僅かにギシッと音を鳴らして軋む。しかし、それが切れる様子はまるでなく、ルーリーノはゆっくりと下りて行く。


 縄梯子が通っているのは大人の男性が楽に上り下りできるほどの広さの四角柱の空間。


 そのどの面も岩肌が露出しているのだろうが、真っ暗で確認することはできずルーリーノは手探りのような形でしか降りることが出来ない。


「通りで時間がかかるはずですね」


 ようやく地面に降り立ったルーリーノはそう洩らす。それからニルの持つ石で明るくなっている空間を見回す。


 気分としては石の中に入り込んだと言った感じだが、実際そうなのでルーリーノは言葉に出すことはなく、この岩だらけの空間で唯一目を惹く木製の扉を見る。


「それじゃ、入るか」


 ニルはルーリーノの様子を見てからそう声をかける。「はい」とルーリーノが返したのを確認してニルは扉を開けた。




 扉の中は前回の小屋よりも一回り広い空間で、側面は岩肌が露出している。しかし、家具はそれなりに置かれていて、何も入っていない棚や簡単な作りをした机と椅子。それから二段ベッド。地面には白っぽいカーペットが敷かれている。


 そこまでは二人も分かるが、積まれている黒いドーナッツ型の弾力のあるものや天井付近にある見たことのない素材で作られた白くて四角い何か、壁に掛けられた放射線状に線の引かれた円状の物は何かわからなかった。


「調べるところもあまりないと思いますが今日中に調べちゃいますか?」


 ルーリーノが尋ねると、ニルは首を振る。


「疲れた状態で探しても見落としとかあるかもしれないしな、せっかくベッドもあるし休んだ方がいいだろう」


 それを聞いてルーリーノは「それもそうですね」と返す。結局今日中に調べたとしてもここで夜を明かすのは変わらないのだから、それだったらニルの言ったとおり疲れた状態よりも、万全の状態で捜索した方がいいに決まっている。


「ニルはどちらで寝ますか?」


 ルーリーノがベッドを指さして尋ねると、ニルはすぐに「下」と答える。ルーリーノは「わかりました」と言って備え付けられている梯子を登る。


 天井が近づいたが、中腰くらいなら頭が当たることはなく、それよりもしっかりとしたつくりのこのベッドに少し驚く。


「絶対に覗かないでくださいね」


 そう下にいるニルに声をかけると、「そっちこそな」とぶっきら棒な声が返ってきて、少しルーリーノは可笑しくなる。


 ルーリーノは下を意識しつつも一度服をすべて脱ぎ魔法で身体を清めた後で身軽な格好になりベッドに横になる。


 登山と戦闘でルーリーノも少なからず疲労がたまっていたので、すぐに意識を持っていかれそうなったが急にしたから「ルリノ起きてるか?」と言われ再度意識が覚醒する。


「私はルリノじゃないです」


 律儀にそう返してくるルーリーノにニルは思わずクスリと笑ってしまう。幸いそれがルーリーノに聞かれることはなかったが。


 それからニルは、ルーリーノがどうしたのだろうと首をかしげるまで躊躇ってから口を開く。


「……今日は助かった」


「今日というと、ユウシャの使いとの戦闘のことですか?」


 ルーリーノがそれだけでここまで躊躇うものだろうかと、やはり首をかしげながら聞き返す。ニルは一度口を開いた事で話しやすくなったのかすぐに答える。


「まあ、それもそうなんだが、マオウについてな。ルリノがああ言ってくれなかったら多分あそこで立ち止まってたと思う」


 ニルにしては珍しい素直な言葉に、しかしそれが故にルーリーノは胸を締め付けられる。


「私だってニルに立ち止まられたら困りますから」


 冗談を言うような感じでルーリーノがそう返すと、ニルは「それもそうだな」と笑ってから「言いたかったのはそれだけだ。それじゃ、おやすみ」と言う。


 それに対してルーリーノは「お休みなさい」と返したが、しばらくの間眠りにつくことができなかった。

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