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ルヴァラン皇国

近衛騎士のマントは、皇女様の隠れ場所に丁度良いらしい

作者: 喬木まこと
掲載日:2026/10/18

ルヴァラン皇国皇女記の近衛騎士のお話です。

ルヴァラン皇国皇女記を読まなくても分かると思います。

 建国より皇家をお支えてきたアークライド公爵家を主家とした子爵家に生まれた私は、多少ですが剣術の才もあり、12歳の頃より皇国騎士団の訓練生として、ルヴァラン皇国騎士団に所属しております。


 入団直後は腕に自信もありましたが、同期の訓練生の中でも平凡で、さらに騎士として活躍する先達には化物じみた……いえ、遥か雲の上の実力者達が存在すると知り、早々に高くなっていた鼻をへし折られました。お恥ずかしい、若気の至りという奴です。


 そうは言っても、不貞腐れる程の自尊心もなかったので、粛々と努力し、これまた平均的な速さで準騎士から騎士への叙任を果たします。

 

 その頃には、10年以上も皇国騎士団で生活しているからか、騎士団だけでなく皇家を家族と思えるようになっておりました。


 そして、騎士として叙任を受けてから3年後、長く所属してした東方師団から異動の辞令がおりました。


 私が着任したのは畏れ多くも皇族の方々が住まう南宮でした。まだまだ若輩者でしたが、ルヴァランの天上におられる尊き方々を、お守りする役目を賜った事に一層身が引き締まる思いでした。


 私が主に担当するのは、南宮の回廊の警備です。庭園に面しているため、時折、尊き星々のお声が聞こえてくる事もございます。


 そんな、ある日。


 庭園の方から、おぼつかない足取りで現れた方がおりました。御年、二歳になられる第三皇女アルティリア様でござきます。


 トテトテ、トテトテ。

 そんな、音が聞こえてきそうです。


 その様子は幼児特有の危うさがあり、お支えした方が良いか、いやいや、私などが尊き五つ目の星に触れるなど……と悩んでいると、ピンとマントが引っ張られました。


 見れば姫君が私のマントを掴んでおられるではないですか。


「かくちてくれう?」

「は」


 と、咄嗟に返事をしたものの、はて? 何を御所望なのか?


 すると、アルティリア殿下は私のマントの中に潜り込み、身を潜めたのです。


「シーよ」

「は」


 ほほう。これは、もしや、かくれんぼだろうか?


「アルティリア様ー」


 小さな星を呼ぶ声が聞こえます。予想通り、姫君を誰かが探しているようです。


「アルティリア様はどこかしら?」


 その声は、淑やかで、心地良く、慈愛溢れる美しい声でした。


 そう言いながら庭園からやって来たのは若い侍女です。香り高い茶葉を使用したミルクティーのような髪に、春の訪れを感じさせる若草色の瞳、ほんの少しだけ、鼻と頬に見えるそばかすが愛らしい。


 侍女は目礼をし、私のマントの裾が膨らんでいる事に気が付くと、クスリと笑いました。


 その微笑みは、私の心臓を一突きで射抜いたのです。


 一瞬だけですが、警備中に惚けてしまうと言う失態を犯してしまいました。


 直後、私のマントがめくり上がります。アルティリア様がお姿を現しました。


「ここよー」

「まあ、そこにいらしたのですね」


 侍女殿の小鳥の囀りのような笑い声と共に、私の早鐘のような心臓の音が響きます。


 その後、私はアルティリア皇女殿下の隠れ場所として活躍する機会を度々得る事になり、その度に、あの侍女殿と顔を合わせるようになりました。


 初めの頃は、視線を合わせるだけでしたが、いつからか言葉を交わし、心が通じ合い……


「それが妻です」

「そうか、卿の馴れ初めは良く分かったが」


 私を見上げるのは、アルティリア殿下の兄フェルディナンド殿下。まだ、11歳だが非常に聡明な方だ。


「はい、このマントは私と妻を結び付けてくれた品なので、お譲りする訳には参りません」


 フェルディナンド殿下は最近、アルティリア殿下ゆかりの品を収集するという、妹君への独特な可愛がり方を開始しているらしい。


 末姫様のかくれんぼのエピソードを聞きつけ、私のマントを譲ってくれないかとお声がけされたのですが。


「もちろん代わりのマントは用意するし礼ははずむ」


 とも仰られたか、譲れはしない。


「奥方との思い出の品ならば仕方ないな」


 少々残念そうではあるが、納得してくれました。


「ところで、ここにアルティリアが入り込んだのか?」

「は」

「ちょっと、入ってみても良いだろうか」

「は」

 

 フェルディナンド殿下はしゃがみ込むと、私のマントを被る。


「この風景をリアも見たのか……」


 果たして何が見えたのか?


***


「父には分からんがな。とにかく、このマントは二人もの皇族がお被りになったのだ、息子よ」


 長男は二歳、丁度、あの頃のアルティリア様と同じくらいだ。


 かくれんぼをしたいと言うので、屋敷内で行っていたのだが、息子は、私のマントを引っ張り出して、頭(・)の(・)み(・)被り、部屋の真ん中に丸まっていた。


「ぼく、いないよっ」

「尻が出ているぞ、息子よ」


 お前には何が見える?

騎士と侍女の皇宮ラブ・ストーリーでした。


このお話の本編はこちらです。

ザマアあり、シスコンあり、忠犬騎士あり。

[ルヴァラン皇国皇女記 ー聡慧の姫君と大陸ザマア譚ー]

https://ncode.syosetu.com/n0641kb/


この騎士さんは、何気に「皇子覚醒 02」に出てきてます。お相手の侍女さんは、ジャニスやレネではありません。

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― 新着の感想 ―
かわいいの詰め合わせ、ご馳走さまでした。 癒されるわぁ〜〜。天使側の二歳児。 騎士殿が、良い時期に良い挫折を味わって、その後努力できる人物だったから、成り立ったお話なのかなぁ。 初対面の侍女さんの様…
いろいろな意味でキュンキュンします~っ スカートの中にはロマンがつまってるとか言っていたのは誰だったか忘れましたが、マントの中にはかわいいがつまってるんですね! 見てみたいお話 ジーク兄上と側近殿の…
頭隠してなんとやら(笑) 小さい子供は、良くやるような? 可愛いから、何処かなー どこかなー と、言いながら探すフリ。 「いたー!」 と、大声で出してから、ギュッとするまでがカクレンボ。 何ですけ…
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