パタン
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―――何時からだろう?
目の前で横たわる女を見ても、冷めた思考すらも湧かなくなったのは。
ただただ殴る蹴られるの鈍い音が響く、この薄暗い埃臭い教室も馴染み深い。
最初こそ色々思ったものだった。
罪悪感 優越感 背徳感 だか、どれもが心地良かった。
―相手が良く抵抗する時は、反応が良くてこっちも燃えてきてしまう、その立ち向かえるかもしれないという幻想を砕く瞬間が心地よかった。
――相手が無気力でただ受けるだけの肉塊と化した時は、酷くつまらない物だった、ペットか置物くらいにはしてやるか。と考えが過ぎったがそれすらに値しない。
―――相手が、壊れた時は?
そうなれば捨てればいい。愛玩道具の癖に人を楽しめれない廃棄物は、当然、廃棄される運命にあると、そう思っているから
いつの間にかこの思考の循環が当たり前になっていた。冷たい人間だな、乾いた自嘲を内に秘めたまま漏らす。
乾ききった地に、器に、さらに乾燥したものなんか入れても、そこにあるのは虚無感だけだと言うのに。
―――――――やがてその女が嗚咽混じりに息が荒くして蹲ってるのを澄んだ目で一瞥すると。
周りの金魚のフンにすらなれなかった埃以下の駒達に言う。
「もういい、帰れ」
その埃達は、やや不満げに眉をひそめていたが、直ぐに消えていったようだ。
改めて2人きりになる。
窓からは朝より暖色の濃い陽光が差し込んであたりを舞う埃を照らしている。
嗚咽はまだ止んでないが、止めようとなんとかしてるのはよく伺える。
まだ瞳の奥に面倒臭い光があるのも。
だから、口にする。
「あんさ...、まだ諦めてないの?」
目の前の女は首を強く振った。
キシ
「あー...そっか、で、先生とかに言うつもり?」
そこで目の前の人間は静かに黙る。だが、少しした後に、その人間は言う。芯の通ってた声だった。
「言う...絶対に...お前がしてんのはイジメだから...っ....ゆるさない....。」
ミシ...ギシ....ギ"ギ"
面倒臭い。心底そう思う。もう用済み寸前のゴミに過ぎないのに、どうしてここまで粘るのか。聞き方が甘すぎたのか?それとも、コイツのメンタル強度の問題なのか。
どうでもいい。もう終わらせたい。ゆっくりその人間の前まで来る。
日差しにかかっていない、影ありきの顔は、怯えてるようにも、決心の光を携えてるようにも見えたが
関係ない。
なんの思いも無く、手を大きく振り上げた―――――
――――――パタン....。
残された彼女はどう思っただろうか。
まぁいい、今日すべきことはもうしてつもりだ。
乾いた扉を閉める音がやけに放課後の閑散とした空間に響く。
あまり後味のいい終わりじゃなかった、
今回は。
あの肉を殴り込み、骨を揺らす感覚は慣れないものだ。かえってこちらの手も痛くなる。
だけどまぁ、あの子の、あの女のあの眼差しを見れ他だけ収穫としようか。
私はそう思って、バッグをラフに背負い、校門から学校を後にした。
先程閉めたドアの方に近づく教師の怒号や、焦燥に満ちた喧騒は、今はどうでもいい。
あの女の子の強さを見れた。それだけでもう満たされている。
だからさ、壊れないで欲しいんだよなぁ。
私だけの気高い花のままにしたいからさ、泥まみれでも、汚くてもいい。
それが君だから、それこそが私の為の造花になるのにふさわしい。
気高く咲く赤い花はそう思った。
閉鎖空間に連れられ、数多の暴力に晒された女は、治療を受け、周りの教師の対応をしてる時に思う。
「次は...もうちょっとだけ...先まd――」
そこまでおもって、それ以上の言葉を紡ぐことは辞めた。もう少し先まで、私の咲くところを見て欲しい。飲み込んだ言葉は、今後口から出ることはきっとない。
そう自分の本心に蓋をするように。
この侮辱的なことを受けても尚、花は咲いていた。
その日2つの花が咲いた。1つは気高い赤い花、片や泥を啜り醜くも気高く咲き誇った花だった。
その2つの花の根同士は深く深く重なり合っていた。赤い花の蜜が尽きるまで、その気高い花達は、お互いを離さないようだった。




