第35話 思惑や願いや失望か
もし、魔法が使えると言ったら、大抵の人が笑うだろう。そんな妄言を吐く人がいるとしたら、その人が言ってるのは、魔法なんていう奇蹟を起すものじゃなくて、手品師のタネも仕掛けもあるイリュージョンのことを言ってると思うはずだ。
現実は非情で、常に不条理だった。
くだらない事で、泥を啜り。
つまらない事で、人は死ぬ。
魔法と呼ばれる奇蹟の持ち主は俺の所へは訪れなかった。
人は知らない。運命は残酷で、それでいて軽薄だということを。
願いや思い、感情など一顧だにせず、大切な人はあっという間に黒い死神に攫われてしまう。
それを俺は思い知った。
だから・・・・・・これは簡単な話なのだ。賢い者なら簡単に諦めることを捨てる事が出来なかった・・・・・・・・・・ただ、それだけ。
望みが変質して、力を渇望するというカタチをとり、嘆きや渇望を糧に産み落とされた。
何を何処で間違えたのやら、俺は単純な武力に傾倒していた。
これは子供故の夢想だったのだろうか・・・・・・・・・・それとも、魔法を信じなくなっていたからか。いや、やはり心の底で奇蹟を信じてたからこその馬鹿げた行いなのか?
ひたすら、体を鍛える。
武器に頼らず、己の拳のみに関心をよせた。
力で解決できる事など、ほんの一握りに過ぎないし、それを理解してもいた。
奪われるのが我慢できない子供の俺は足掻いた。でも結局は自分の限界を知るにつれ、この世にたゆとう大勢と同じように諦めるようになった。
これは端的な事実を示す。
―――大人になったのだ―――
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど・・・・な。それが君の結論か」
・・・・・・・。
「諦められないのか。逃げたいのに心がソレに逆らってしまった。だから、彼は代わりに選んでしまった」
・・・・・・・・。
「・・・・・君は、選ぶのが、恐いのか?」
―――わからない。
「死ぬのが怖いのか?」
―――うん、そう。
「それは嘘だな、お前達が本当が怖れているのは―――」
直後、
暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転暗転
・・・・ストン。
ぐるぐる廻って、墜ちて、何処かに消える・・・・・・・・かも。
どうか、目を背けないで欲しい。
君は光と影、両面を持っている。
非科学的で認め難いことではあるけれど、これは真実だ。
全て思い通りに出来るとは、僕も思っちゃいない。
でも、このままだと少し・・・・困る。
身から出た錆びだと言われれば、そうなんだけど。
君のためにも、僕は時を揺らす。
でもさぁ、白は黒に転じて両義を成すしかないんだよ?
ねぇ?君は気がついてるのかな?浅木、、、、、、、、優クン?
+++ +++ +++ +++
ぐらりと地面が揺れた気がした。
それはもちろん気のせいで、実際のところ身体を起したからそう感じただけの事。
―――暗い。
最初に思ったことだ。
「ぐっ」
首、腕、手、指、足・・・・・・くっついてる。
五体満足だ。
だけど、
「ここ、どこだ?」
気が付いたら、見知らぬ所にいた。
何処かぼんやりとした頭で、浅木優は辺りを見まわした。
寝かされていたのは広場のような場所だった。
見上げるとなにかの工場のように鉄パイプや配管が張り巡らされた天井。
白い壁に走る緑色の線は、一定間隔で翼の紋様になり、淡く妖しく光っている。まるでオーロラの光のようだ。それとは別に、足元には通路を導くためのランプのようなものが点っている。
左右に広がる道は折り曲がっているらしく、先を見通す事が出来ない。
足元も壁と同じく白い床だった。光沢があるところから金属のようにも思えるが詳細は分からない。思い当たる所では大理石が近いかもしれない。
それにしても、まるでSF映画に出てくる宇宙船の通路みたいだ。
実際のところ遺跡、ダンジョンといったところか。
寝ていた所為で、床の跡のついて赤くなった頬を撫でようとして、
「な、なんだこれ」
びっしりと右手に広がるソレ。
呪うように、或いは封じるように右手から肩口にかけて刺青が走っている。背中までは流石に見えないが、炎みたいな禍禍しいこの紋様は顔には達していないみたいだ。手触りは普段の皮膚と変わりなく、痛みもかゆみも無い。光一つない完全な暗闇だったら、気が付かなかったかもしれない。
身震いを一つ、ため息を一つつき、自分の身に起こった事を考えるのを止め、気を取り直そうとする。
「ぐっ」
思わず声が漏れる。
体は問題無かったが、心は沈んでいた。
傷一つ残らず、服はおろか常備してる腰の鞄さえ再生していたが。
精神は痛んでいた。
傷み切っていた。
卦繋法のこと、グレンと戦ったこと、その過程で青い化物になったこと。
頭の中から聞こえてきた声、異世界に召喚された理由、リアの復讐。
魔法があり、精霊があり、魔物があり、人がいて、異種族がいて、この世界が存在して。
整えられて、存在する箱庭の世界。
こんな世界があり得るはずが無いのだ。
都合が良過ぎる。
誰かが意図したのでもなければ・・・・・・。
それに気づいた今。
気がつく事を許された今。
浅木優の心は、奥底から怖れ、折れかけていた。