第23話 思索と根性
>表現を多少変更。本編には差し障りないようにしています。
>>再び修正。
「基本は分りましたの?」
「あーたぶん」
「・・・・エクシードの変化」
「えーと、強化、凝縮、放出と拒絶と・・・・たしか、浸透」
「はい、それじゃあ避けて下さい」
にこやかにティナは言うと魔方陣を描き出し、そこから岩が飛び出してきた。
+++ +++ +++ +++
ジンさんとの訓練を見ていたティナは俺にエクシードの使い方を教えてくれる事を申し出た。俺としては願ったり叶ったりだったので、喜んでその申し出を受けたのだが・・・・・それが悪夢のはじまりだった。
ティナはものすごいスパルタだったのだ。
+++ +++ +++ +++
射出、射出、射出!!
地面は岩だらけ・・・・。
「次、5分間に腕立て3千回」
ティナ本人も魔力切れで息を切らしているくせにこんな事を言う。それに反抗しようものなら鞭が飛んでくる。
(―――っ!!どこから出したんだよー!そのムチッ!!)
バチンッ
「いぎゃぁーーーー!!」
ヒッュバチンッ!!
「うぎーーーーー!!」
パンパンパンッバチンッ!!
「死ぬ死ぬ死ぬスミマセンわかりましたっ!!」
余談ではあるが、扱う者によっては鞭の先端は音速を超える威力をもたらす。もちろんティナが使った鞭の長さではそれほどの威力が出せようはずもないのだが、扱う者によってそれは恐ろしい威力をもたらす事を追記しておきたい。
簡単に言わせてもらえれば、『善い子は真似しないでね』というわけである。
さて、それはともかくとして。当然キャラバンの護衛に手を抜くほどティナは甘くない。休憩の合間は地獄の入り口と化していた。
他の護衛メンバーは触らぬたたりになんとやらで、全然助けてくれなかった。
スグルは心の中で泣いた。いや、マジで泣いた。
(―――早く。早く、この地獄の訓練を抜け出さなければ・・・・殺られるっ!!)
しかし、その甲斐あってかティナの中級魔法程度は防げるようになった。
「・・・『ストーンピラー』」
突き出してきた石柱を避わしながら、側面に向けて拳を振るうと、拳を穿った所からぼろぼろに砕け反対側の側面まで穴が空いた。
連続して打ち出されるそれを避けて、避けて、避けまくる。
対刃グローブの手甲でいなし、足を捌きながらエクシードの維持に注意を注ぐ。
「はぁ、なんとかなるようになって来たかな」
呆れた気分で見渡せば、地面が抉れ周辺はハリネズミのようになっている。
今使ったのは身体能力を向上させる強化、殴りつけた拳の表面に放出し凝縮、そして破壊したのだ。
「まだまだですわ、魔法と違って簡単に限界がこないのがエクシードの面白いところですのよ」
「それにしたって、今まで全く使いこなせなかった事からすれば、ずいぶんな進歩だと思うけど」
「全く、甘々ですわ。今の魔法は威力をだいぶ押さえてます。それに、エクシードとは気力のこと。精神的な限界は自分で決めてしまえば、そこから成長はありません。基本にして秘奥である、強化、凝縮、放出、そして拒絶と浸透。前三つは魔法にも当てはまりますから、エクシードの感覚のキッカケを掴んだ人は、割合使いこなせるようになるのが早いのは当たり前でしてよ。拒絶は相克である特性を利用して魔力に対抗する事。これはとくに意識しないでも使いこなせます。でも浸透はべつ。自分の得物にエクシードを徹し、武器を強化してそれを維持できないようでは、一人前とは言えませんわ」
(―――これでも、5分間に腕立て3千回はなんとかクリアできるようになったんだけど・・・まだ足りないんですか・・・・)
心どころか目から普通に涙が溢れる毎日。自分の我流修行が、いかに自分に甘いものか思い知った気がする。
「さぁ、次は・・・」
「ちょ、ちょっと待った」
「・・・・・なにか質問ですの?」
(―――休憩させてくれと言っても、させてもらえないだろうから、なんか!なんか話題を!!)
「無いのでしたら・・・」
「あるっ!!あります!!えーと・・・・・前から疑問に思ってたんだけど、ティナが使ってる魔法って俺が使ってるのとは違うよね?それってなんでなんだろうかな~?と・・・・」
「はっ?」
それほど意外な質問だったのだろうか?ものすごく呆れられた顔をされた。
「いや、その変な質問かな?」
「いえ、変と言うよりか、なんで魔法が使えるのか不思議ですわ」
「・・・・それって余計悪い気がする」
ため息までつかれると自分が悪い事をしたような気分になってくる。
+++ +++ +++ +++
魔法には“真式”と“帝国式”が存在する。簡単に説明すると、俺が呪文を唱え、起動後を発し、魔法を放つ方法が“真式”。そして、ティナが使う魔方陣を用いた魔法が“帝国式”だ。現在魔法使いと呼ばれる人間のほとんどが“帝国式”を習得する。その名の通りテオドーラ帝国で開発された魔法だ。“帝国式”の魔法の特徴は汎用性の高さと、魔法の高速起動である。帝国が覇権を為すのにこれが一因としてある事は疑いようが無いだろう。“真式”が想像力が乏しいと発動しない上に無詠唱まで至る道のりの長さがあり。それに対して“帝国式”は魔方陣の意味を理解し、一定の魔力を込めれば一定の効果が期待できると言う画期的なものだった。
質よりも量、一人の英雄よりも万の軍隊という訳である。といっても莫大な魔力を備え、それを扱う知識を修めた者が戦局を覆した例はたくさんある。
「・・・・エルフの方に習ったというから、“真式”を使っていたのも納得しましたけれども、常識としてこれぐらいは習うものでしてよ」
「あははは、リアが座学を教授してくれてた時はほとんど寝てたから・・・・って、睨まないで。それで・・・?魔方陣を使うのが“帝国式”で、想像力で補って呪文を起動語にするのが“真式”。あれ?でも、リアは“真式”しか使ってるとこ見た事ないけど・・・・・なんで?」
「じょ、常識がなさ過ぎます・・・・。エルフの方々は長い年月を生きる事が出来ますから“真式”を修めるのですわ。発動速度も無詠唱を修めればその限りではない。それに対して私達は寿命が短い。なので普通は“帝国式”から覚えていくのですわ。それこそ宮廷魔術師でもない限り、両方を使える人はあまりいないでしょうね」
「ふ~ん。メリッサさんって結構すごいのな。俺、なんかあの人苦手なんだけど・・・・このまま会わないわけにはいかないんだろうな~」
「・・・・あの人クラスになるとおそらく、属性に縛られない魔法を使う事が出来ると思いますわ。なんといっても帝国の宮廷魔術師ですからね」
「しかも、お姫様なんだよな~・・・・世も末だ・・・・」
「・・・・さっ、休憩はこれぐらいにして、キャラバンの移動が始まる前に、もうワンセットしますわよ」
(――――ガーン――――)
嬉しそうにのたまうティナと、絶望に打ちひしがれるスグルはなんとも対照的であった。
*** *** *** ***
夜の明かりがいらないほどに明るい。精霊が仄かに放つ燐光は幻想的でいて、現代的な光景をもたらしている。木々を照らす明かりは2色ある。緑と茶色だ。割合的にそれほど差はなく、両者の色は少女の周りで混ざり合っていた。
(―――僕は何がしたいんだろう?)
時々自問する事がある。サラは自分がそれほど社交的な性格をしてない事は十分自認している。そのため、共に旅をしているスグルやティナともあまり話さない日々が続いていた。
仮面男《シルバーマスク》を退けた件。スグルにはばれていたみたいだが、ヘレンおばさんを巻き込みたくなかった事からアクアレイアを離れることにした。
実際のところ、アクアレイアを離れる事にそれほど意味はない。あれだけの事件が起こったのだ、記憶にない者がほとんどとはいえ、船まで破壊が及んだ。有数の商業地点のアクアレイアの支援に名乗り出る国は少なくないだろう。そうなれば、警備体制も厳重になり、かえって安全が増すとも言える。しかし、逆にあの仮面の男が派手に動く必要はないのだ。精霊を捕らえるという目的で動くのならばサラを捕らえればそれで済むし、少ないとはいえ精霊術師が他にいないわけでもない。そう考えるとあれだけ派手に動いた事に不自然さを感じずにはいられない。本当に精霊を捕まえる事だけが目的だったのか?
サラはここまで考えて一旦思考を打ち切った。今のままでは答えが出る事はないだろうと・・・・。
また自分に自問する。
(―――僕は何がしたいのだろう?)
スグルがサラの情報に引っかかったのはリッチを倒した後の事ではない。彼がアクアレイアを訪れたその時からだ。
精霊が囁くのである。“彼を見て、彼を知ってあげて、彼を頼って・・・”といった具合に。最初はなんのことか分らなかった。いや、今こうしていてもなんのことか分らない。精霊が積極的に何かを伝えようとする事は珍しい事だから、出会う以前からリアというエルフと共にいるところを観察していた。
しかし、契約精霊を持たないサラは距離を置くと精霊との結びつきが薄れてしまう。そのため、精霊達はリアの親和性に引きずられてしまいそうになる。リアだけじゃない、スグルにもその才能が窺えた。だから何時も遠くから眺めておくに留めた。
サラには分らなかった。
なぜ自分はここにいるのか・・・・・それはスグルを自分の兄と重ねてしまったからかもしれないとも考えていた。顔も思い出せない記憶の断片、その奥底に兄がいたという情報だけが埋もれている。似ているのかさえ分らないスグルに兄を重ね、気がついた時には彼の事を兄さんと呼んでいた。彼の手前、帽子を目深に被っていたが、それは羞恥に染まった顔を悟られまいとした結果だった。
思えば彼は変な人だ。下着を捜した挙句、人助け。普通なら下心があるのかと思うところだが、数日観察した結果から変ではあるが悪い人ではないという結論に達していた。突然の出会いに戸惑ったものの、その後も彼のことは観察し続けた。
(―――僕は・・・・・ぼく?)
情報屋を続けるなか、男の振りをしていたのは舐められないためだ。なかにはそうゆう趣味の人もいたが、幸いにして体を売るほど日々の暮しに困難を感じた事はない。しかし、もう自分を偽る必要はないのではないだろうか?
自分についてここまで考えてきて気がついた。ヘレンおばさんを遠ざけたのは巻き込む事を恐れたため。言い換えれば、親しい者が危害を加えられる事を恐れたためだ。
(―――では、スグル兄さんと今の僕の関係はなんだ?親しいということではないのか?)
そこまで考えたところで風の精霊の囁きが耳に届く。
―――彼が来た―――
彼が誰なのかという答えに至る前に茂みから顔を覗かしたのは・・・・。
「よう・・・眠れないのか?」
「・・・・スグル兄さん」
イエス!!《すずかぜらいた》
宣伝『蓮恋廉憐《ren,ren,ren,ren》!!』だっけ?自分で書いてて不安になるタイトルですが、創めました。うーむ、こちらの客層をあちらに移そうと目論んでいたのですが・・・・・恋愛物はみなさん読まないのかな?
では、ごゆるりと