第21話 素直に
がたがたと揺れる馬車の中、先ほどから頬に刺さる視線が痛い。
俺の左肩にはさらさらとした髪を揺らし、目を閉じた少女・サラが凭れ掛かっている。赤い髪に黒いハーフコートはよく映えていて、つい触りたくなるほどだ。
おもわず口元が緩む。基本的に子供は得意ではないにしろ嫌いじゃないのだ。
バキッ!!
何かが砕けるような音が聞こえ、視線に殺意がっ!?
おそるおそる反対に目を向けてみよう。
「・・・・ぎりっ」
(―――あ、アカンッ!怒ってらっしゃる!!)
「あの~ティナさん」
「ギラリ」
(―――ひいぃぃ!!)
思わず土下座して謝りたくなるような視線で睨んでくるのはティナだ。
ふんわりとした金髪に反逆するかのようにきつい顔をしている。普段はつんとした感じの美少女お嬢様といった風なのだが、なまじ美人なだけに怒ると迫力があって怖い・・・。もちろん本人にはそんな事は口に出せない。
ともかく、サラとティナと俺は馬車に乗っている。
しかし、何が原因でこんなに怒ってるのか・・・・わからないっ!
僕にはわからない!!
少々錯乱しつつ、スグルは原因を探るため必死にこれまでの事を思い起した。
+++ +++ +++ +++
あの後、アル達と合流して冒険者ギルドまで行った。
冒険者ギルドでも何人かあの騒動に対応していたらしく、騒動の説明を求められて1日拘束されてしまった。
「・・・そうですか。事情は了解しました。ギルドの干渉を嫌ったのか、仮面の人々の襲撃と仮面蜘蛛はこのギルドだけでなく、傭兵ギルド、魔法使いギルド等から各国から派遣された駐屯中の騎士の方まで仕向けられていました。あなた方の証言との食い違いはありますが、観光船から商業用の大船が破壊されたため、アクアレイアの商業妨害の説も有力です。アクアレイア衆国警備局本部とアクアレイア市長は仮面の男をA級犯罪指名手配を決定しました。
それに加えてジェノン・サイドという男、非常に怪しいですね。その者も一緒に捜索させましょう。その男が冒険者ギルドに登録しているという記録は一切ありません。どのような関連性があるにしても、ギルドカードの偽装は見過ごす事のできる事ではありません。即急に対処しなければいけません。」
そう、フィオさんの言った通り彼はいつのまにか居なくなっており、存在自体が記録に残っていない。アル達と合流した時にはいなくなっていた。最初は仮面の男を追って行ったのかと思ったが、ギルドにも記録が残っていないとなると、仮面の男と共犯だった可能性が強い。その場合どうして俺達を助けたのかなどの疑問が残るものの、ギルドカードの不正所持などは疑うべくもない。
「その被害に遭った少女にはよろしく伝えておいて下さい」
いつも通り無表情なフィオさんに頷いて、冒険者ギルドを後にした。
~~1日前の戦闘終了後~~
(―――や、やばかった)
「・・・・・大丈夫ですの?」
心配そうにこちらを見下ろすティナを見上げて答える。
「なんとかね・・・・おかげで助かったよ」
「こちらこそ助かりました。アサギさんの魔法がなかったら、かなりの被害が出たはずですわ」
(―――あれ?)
「そういえばさっき、俺のこと名前で呼んでなかった?」
(―――状況が状況だから聞き間違いかもしれないけど・・・。)
「あっ、あれは・・・い、いや違いま・・・」
「嬉しかったよ」
「えっ!?」
「正直、あの時諦めかけてたんだ。ティナが名前を呼んでくれて、それで負けられないなって思った。だから、ありがとう」
「・・・あう」
(―――なんとか乗りきったけど、明らかに手加減をされていた。実際ティナがいなかったら死んでたかもしれない・・・・・リアを護れるよう、強くなる)
決意を新たにしていると、ジャック少年を寝かせている方からうめき声が聞こた。
「おい、大丈夫か?どっか痛いとこは無いか?」
「うっ・・・ここは?スグル兄さん?どうして?あいつを追い払ってくれたの?」
質問の多い奴と思いながらも、これまでの経緯を話してやった。
「なんでおまえあの仮面男に狙われてたんだ?」
「あいつは、たぶん精霊を捕まえに来たんだ」
「精霊?」
精霊というと、あれか?風に大地に水に火の四大精霊の事だよな?
「僕が情報屋をやってられるのは、風の子や大地の子らが僕に色々な事を教えてくれるからなんだ、それをあいつはっ・・・!!」
(・・・なるほど、だが精霊を捕まえてどうするんだ?)
その事をジャックに聞いてみると知らないという。
「そろそろ移動しませんこと?アル達と合流しましょう」
何やら不機嫌そうに言うティナにスグル頷いた。
「あっ!!」
「どうし・・・っておい、どこに行くんだよ!」
声を上げると走り去るジャック。
アル達によろしくと言い残してからティナが声をあげるのも構わず、ジャックを追う事にした。
ちっこい背中を追いかけること、数分。
本当はすぐに追いつくことができたのだが、なんで走り出したのかが気になってそれは止めにした。
ともかく着いた所は『古き友』という宿屋。
(―――そういえば、初めて会った時に知りたい事があったらこいとか言ってたな・・・・・忘れてたけど)
「ヘレンおばさん!!」
「サラちゃん!大丈夫だった?怪我はない?」
(―――ん?サラ、ちゃん?)
軽く覗きこんで見ると抱き合うようにしている二人がいた。
「なるほど、おまえ女の子だったんだな」
「あっ!」
「あなた誰なの・・・?」
警戒心をあらわにして、こちらを睨んでくるヘレン。
それを見て、慌てて止めるサラ。
事情を話すとヘレンおばさんは、すっかりと態度を改めた。
「そうだったの、ごめんなさいね。あの仮面の男みたいにこの子を襲ってきたのかと思っちゃったわ。あたしはすぐに気絶させられちゃって何もできなかったのよ。ありがとう、サラちゃんを助けてくれて」
そんなに感謝されるとかえってこっちが恐縮するため、慌ててスグルは話題を変えた。
「それよりなんでジャックなんて偽名を使ってるんだ?」
「舐められないためだよ。女だって分かると襲ってくる変態もいっぱいいるからね」
「私は危ないって言ってるんですけどね。精霊が付いてるから大丈夫だって言って聞かないんですよ。また今日みたいな事があったらと思うと・・・」
ヘレンおばさんのスイッチが入ったみたいだ。心配だと繰り返すおばさんに突然サラは告げた。
「おばさん、僕この宿を出ていくよ」
「だいたい女の子がそんな・・・えっ?・・・・出て行くってどこにいくつもりなの?」
「スグル兄さんに付いて行くよ」
「そうそうスグル兄さんについて行く・・・ってええっ!!そんなの聞いてないぞ?」
自分でスグル兄さんって言っちまった・・・・ホントがっかりだ。
「スグル兄さんはエルフの女の人を追うつもりなんでしょ?だったらそれを手伝うから、僕も一緒に連れてって!!」
(―――そういえばサラには全部筒抜けだったのか・・・それにしてもこいつ)
「・・・・分かった。連れてってやるよ」
「そんなっ。サラちゃん考え直しなさい。昨日今日会ったばかりの人について行くだなんて、そんな・・・!!」
「大丈夫、この人は信用できるよ。・・・・・ヘレンおばさん、これまでお世話になりました。それじゃあ!!」
そう言い宿屋を飛び出していくサラ。
呆然と見送るヘレンになるべく誠意的に見えるように努めてスグルは言った。
「あいつ・・・サラは俺が責任を持って護ります。それからこれは余計な事かもしれませんが、サラはあなたをこれ以上危険な目に会わせたくないから・・・・ここを出ていくんだと思います」
ハッと表情を変えたヘレンに頭を下げてサラの後を追った。
「あれでよかったのか?」サラに追いつくと聞いた。
「うん・・・・・それと、ごめんなさい」
「・・・なにが?」
「勝手なこと言って、それと巻きこんでしまって」
「ヘレンさんにさっき約束したからな、おまえは責任を持って護ってやるって」
「ありがとう・・・・ちゃんと役に立てるようがんばるよ」
「巻き込まれた事については・・・・気にするなってゆうのは難しいかもしれないけど、あれはしょうがない。巻きこまれるなって言う方が無茶だ」
「でも・・・」
「ああもうっ、グジグジ言うな!子供は黙って大人を頼ればいいんだ!!」
と言うと、顔を真っ赤にして黙りこんだ。
(―――照れてるのか?なんだ、かわいいとこも・・・)
「・・・僕は16歳だ!!!」
「・・・あるじゃん?・・・・ええっ!?俺と一つ違い!?それにしては発育が・・・」
「胸を見て言うなっ!!!!!」
「ぐおぅ!?ええええ、冤罪だっ!つーか、今精霊使っただろ!?」
「うるさい!!スグル兄さんなんか死んじゃえ!!」
「おっ?おおおおお!やばいやばいそれはやばいっすよ、サラさん!!俺にも見えるぐらい精霊集まってるし!!!」
「問答無用!!」
「ひえええええっ!お助けをーーー!!」
アホなやり取りは宿屋に着くまで続いた。
~~1日後の現在~~
「アル達はやっぱり学術都市に向かうのか?」
『白いイルカ』の食堂でのことである。
「はい、そうですね。今すぐというわけではないですけど、そのつもりです。スグルさんの方はサラさんと一緒に行くんでしたよね?」
アルが胡蝶茶を飲みながら聞いた。
「ああ。サラの精霊の情報収集力は結構すごいからね。今も旅に役立ちそうな物の買い出しに行ってもらってるんだ」
「な~る、特売とかも分かるのかな?でもでも、女の子をパシリにするなんてアッサー見損なったよ~」
(・・・一昨日の戦闘が嘘だったかのように普通にしゃべるイリスにかなり違和感を覚えるなぁ)
「・・・あいつ、俺達を巻き込んだ事を気にしてたみたいだからさ、なんか役目を与えてやれば罪悪感を軽くしてやれるかなぁ~って思っただけだよ」
「考えてないようで考えてなさそうな意見ですね」
「・・・・アル。念のため言っとくが、今の発言はフォローになってないぞ」
アルにスグルが突っ込んだところで、今まで黙りこんでいたティナが“ガタン”と立ちあがった。驚きの視線を浴びると、顔を赤らめながら突然宣言したのである。
「わ、わたくしは、す、すすスグルについて行きゅままちゅっ!!・・・・・・・わ」
いきなりの話題転換と勢いにスグルは頷かされた。
・・・・噛み噛みだったけど。
+++ +++ +++ +++
ティナ曰く、“無責任な事を言っといて結果を見届けないはモートリアス家の名折れ”だとか、“変態仮面が襲って来たら、一人じゃ太刀打ちできないでしょう”とか、“ともかく連れていきなさい!!”だと。そうしてティナとは現在同乗を共にしている。
一応、ボクっ子のサラに伺いを立てたところ、曰く“べつに僕は気にしてないけど、背中を刺されないようにしたほうがいいよ”と、口では同意してるのに、なぜだか冷たく意味の分からない忠告を受けた。
港を離れる事の出来る船が無い為、陸路で行くことになった今。
・・・・・・・非常に視線を感じる。
帝国領内に向うのに手ごろなクエストとして、商人のキャラバンの護衛を受けたのだが、この護衛のクエストを他にも請けた人達はあまり近づいて来ない。言いようのない空気の悪さに他の馬車に避難してしまったのだ。
(―――ここまで考えたけど、お怒りになっている理由がわからない。サラを追いかけた時に置いてけぼりにした事は謝ったし・・・・・よく考えてみればもっと最近在った事なのでは・・・?)
今、その事を思いつく辺り相当スグルは鈍い。
こうして決意を固め。ティナがついて来てくれる事に素直に感謝しつつ新たにサラを仲間に加え、スグルはリアを追いかけはじめた。
更に修正・・・・サラだけに。寒いですか、そうですね。