第20話 混乱と実力 下
計画性の無さ、再び発揮・・・・長い。
上中下でやるとこういうことが起こるんだよね~あはははは
回復呪文にエナジーを注ぎ終わり、ジャックの怪我の具合を確認する。
・・・うん、これでそのうち目を覚ますだろう。
ジャックという名前の似合わなさに可笑しさを感じつつ、立ちあがった。
「いやー結構なお手前。待ってあげたし・・・・・・大見得切ったんだ、楽しませてもらうよ」
(―――こわっ)
全身白尽くめの男が走り込んで来る様は軽快で、奇怪だった。
突き出された拳をバックステップで避ける。
しかし、さがると同時に男の手の平から火の玉が飛び出す!
燃えあがる炎はスグルに殺到し、爆発した。
(―――いいさ、やってやるよ。最初から全力だ)
魔力を全面に放出する、魔法障壁で凌いだスグルが粉塵の影から姿をあらわす。
「・・・其の手に掴めるは闇、深淵より漆黒を求めんとするモノ、暗黒剣!!」
スグルの右手に黒い大剣が握られた・・・。
これは以前リッチと戦った時に使っていたのを真似たものだ。倒した後で黒い剣の正体が魔法だと気づいて試しに唱えたら使えたのだ。
シモンと戦った時には殺す気で挑まなかったので使う暇がなかった。
「其の手に掴めるは風、その身を守護せよ。風身ッ!」
そして、定番の魔法“ムーブ”
スグルが唱え終わった時には、仮面の男も準備を終えていた。
「いまどき“真式”の魔法かぁ。めずらしいねぇ。ま、あんまり人のことは言えないんだけどねっ『フリージングランス』ッ!!」
スグルの視界は男の手の平の魔方陣から表出した氷の刃で埋め尽くされた。
その圧倒的非現実味にスグルは苦笑する。
「・・・流石異世界、容赦ないね」
その科白を皮切りにスグルを貫かんとする氷刃が四方から飛んでくる!!
「でも、そろそろ慣れてきたぜファンタジー!!」
(―――迎い来る刃を片っ端から黒い剣で撃ち落す!!)
斬って、斬って、斬りまくる!!
砕け散った氷はスグルを守護する風の前に散り、足を鈍らせようと地面を冷やす。
「・・・・あんた、いったい何が目的なんだ?こんな子供を狙ってここまでする意味がわからない」
「一見無価値に見えても、他人にとってはそうではない時があるということさ」
「俺はそんな一般論が聞きたいんじゃないっ!!」
スグルは暗黒剣に魔力を注ぎこみ、それに応じて巨大化した剣を横薙ぎに振るう。
もはや長槍と化したそれを跳躍して避けると男は言った。
「馬鹿馬鹿しいほどの魔力だ。それを維持する魔力は見事の一言だけど、使い方がなってないね」
「ちぃぃ」
着地地点を割り出し、風に後押しされるようにしてスグルは滑り込み様に剣を振る。
男は手の平に魔力を集めると、剣を弾くようにして器用に受け流す。
「剣の振りも遅い」
「・・・其の手に掴めるは風、風牙っ!!」
肩口に斬りかかると見せかけて、掌底のように左手を突き出し魔法を放つ!
しかし、男はつまらなさそうに手を動かし、一言告げた。
「・・・『ライトシール』」
白い全身を覆うように白い障壁が現れ、風を一切寄せ付けない。
逆に弾かれたスグルはその場を飛びのき、剣を油断なく構える。
(―――くそ、これ意外と疲れる気がする。魔力の消費が激しいのか?)
息は切らしていない。しかし、対人戦に不慣れな事と慣れない魔法の維持に集中力が乱される。
切り札になると思い使ってみたものの、あっさりと弾かれた上に身体が重く感じる始末。明らかな経験不足をスグルは痛感した。
「君、もう終わりかい?正直、弱くてがっかりだ」
「くっ」
男のその言葉にシモンの言葉がフラッシュバックする・・・。
『あなたは弱い』
(―――くそっ)
頭の中で響く声に首を振る。
確かにその通りだ。それでも、ティナは言ってくれた。
『これで弱気なあなたは死にましたわ、これからは強気なあなたでいて下さい・・・。』
(―――男としては期待に応えないとね。みんなもまだ戦ってる。俺もまだやれる!!)
「おい、コラ!変態仮面」
「・・・・ほんと、威勢はいいね~君」
「・・・君じゃない、浅木優だ。あんたを倒す名前なんだからきっちり覚えとけ」
「フッ、名乗られたらこちらも名乗り返しとくのが筋かな?そうだな・・・・私はシルバーマスクだ、それで行こう。本名は諸事情で名乗れないのでよろしく。ま、これから私に殺される君には関係ないかな?」
「ほざけっ」
(―――変態仮面がまだ油断してる隙に畳み掛ける!)
スグルは腰から抜いたフォースダガーを投擲。
続けざまに暗黒剣をも投げつける!!
「なに!?」
さすがの変態仮面もこれは予想外だったらしく、受け止めたダガーを捨てて無理やり回避行動に移る。
そこに向かって唱えまくる!!
「其の手に掴めるは光、光矢!再び掴めるは光、光矢!!最後に掴むも光、千散光矢!!!」
先行した暗黒剣に光の群れが殺到し、連鎖的に爆発。辺りを真っ白に照らすほどの光量と爆音を放った。
今スグルが使ったのは連結魔法という技術だ。最初の属性に重ねて唱えていくことで、魔力の放出をスムーズに行う事ができる。
しかし、スグルは慣れてない技の上に魔力を無理やりひねり出した状態なため、体にかかる負荷も大きい。それに加え連戦が続いているという事も理由に挙げられるだろう。
これまで、無意識中とはいえエクシードの恩恵にあずかってきたスグルは、初めて肩で息を切らした。
徐々に戻ってくる視界の中で思う。
(―――手応えは有った。それにこれで決められないとやばい、悔しいけど魔力を使いこなせないっ)
「いやーいいね、なかなかがんばってるよ。さっきのは私もヒヤッとしたね」
(―――上かっ!)
案の定、空を見上げてみると仮面の男は無傷で宙に浮かんでいた。白いスーツの埃を払う様に肩を払う仕草は、言葉通りでない自信を感じさせる。
「お礼にちょっとだけ稽古をつけてあげるよ。さっきから“真式”の魔法を君は使っているけど、本当の使い方はそうじゃないんだ、混ぜるんだよ。あ、あと周りも守らないと死んじゃうかもよ~うふふふ」
スグルには“真式”という言葉や混ぜるという事ががなんなのかがよく判らなかったが、男の放ち始めた魔力から危険を察知した。
「―――右手に掴めるは炎=左手に掴めるは闇。数多の死を司る地獄より・・・」
(―――アレはやばい。俺の持ってる最大の魔法じゃないと防げないっ。でもあれはあの時以来一回も成功した事がないのにっ!!)
苦し紛れに風牙を放つものの、スグルが防いだように魔法障壁で弾かれる。
「・・・注ぎ込むは煉獄、背後に控えるは絶望という名の闇・・・」
広く範囲を取っているものの周りには仮面を被った市民やジャックもいる。
(―――なんとかしないとっ!!)
焦るスグルに声が届く。
「スグルッ!!」
外を見ると悲痛な顔で輪の中に割って入ろうとしているティナがいる。
・・・・その顔を見た瞬間、スグルの腹は決まった。
すると、あたかもスグルの意思に呼応するかのように、瞳にあの燃えるような感覚が訪れた。
「・・・混ざれ!!闇と炎、――うふふ、耐えきれるかな?――」
スグルはすっと両手を鏡合わせのようにして掲げる。
そして、イメージする、形にする、確信する・・・・そして、顕現する。
「クリムゾン・ダァークッ!!」
「真白き衣っっ!!」
・・・・それは同時に開放された。
*** *** *** ***
スグルが戦っている方で閃光が弾けるのを見ると、居ても立ってもいられず走り出した。
後ろの方で呼び止める声が聞こえ――アルとイリスには申し訳ないと思ったけれども――それでも走った。
2人は大丈夫のはずだ。ジェノンとか言う男、彼は明らかに実力を隠している。Bランクという階級もそうだし、戦っている様子からもそれは察せられる。なにが目的でその様に振舞っているのかはわからないが、本気を出せばあの包囲網を突破する事もできたはずだ。
それよりも今は彼のことだ。
広場までできる限りの速度で走る。
そして、
(―――居ましたわ!!)
仮面の集団に取り囲まれたコロシアムで、彼は苦しそうに息をしていた。
幸いな事に、エクシードで強化した目で見ても、大きな怪我は見当たらない。
・・・・そして気が付いた。宙に立ち――恐らくは風の飛翔魔法だろう――朗々と混合魔法を唱える男の姿にっ!!
続けてその男が唱えている魔法の正体に思い至りぞっとする。
(―――殲滅型混合魔法クリムゾン・ダーク・・・!!・・・・確か、戦争など唱えられる軍隊規模の魔法のはず。通常は数十人が連式で混ぜ合わせて完成するはずの魔法・・・あの男正気ですの!?)
恐らくは威力はそこまでは達しないはずだろうが、一人で唱えてる時点で十分脅威といえる。
(―――このままだと彼がが死んでしまいます・・・。)
そしてスグルの絶望し切った顔を見て、彼のもとに駆け寄りたい衝動に駆られた。
「スグルッ!!」
気づけば彼の名を呼び、仮面が不気味に立ちはだかる輪の中に入ろうとしていた。
スグルはこちらの方を見て、驚いたような顔から安堵した顔へ、そしてすぐにそれは覚悟を決めた顔に変化した。
不覚にもティナはその表情の変化にときめいてしまった。
まさに不覚、仮面の人が襲い来るのを見て慌てて輪から離れる。
そしてそれは放たれた・・・。
「クリムゾン・ダァークッ!!」
「真白き衣っっ!!」
闇色に染まった炎の渦が仮面の男から放たれる。
その魔力といい威力といい殲滅型に指定されたにふさわしいものだったのだろう。しかし、スグルの放った魔法も規格外だった。
見た所、“真式”だったはずなのに起動語も無く、かといって魔方陣も見えなかった。
そして、放たれた白い光の帯は重なり合った。
丁度お椀状の形をとりクリムゾン・ダークと激突した!!
だが、
「・・・激突したはずなのに、音がしない・・・?」
スグルの“イノセントベール”は揺らぎもせず・・・・・ただそこにあり完璧にティナ達を護りきった。
(―――すごい、以前とは比べても全く遜色ないほどの力ですわ!!・・・・いったいどうして?)
ティナの疑問をよそに、大蛇のごとく激しく攻め立てていた闇の炎は立ち消えていった。
*** *** *** ***
(―――想像以上の実力だ。すばらしい。)
シルバーマスクと名乗った男は、自分の現在の力でも必殺の一撃であろうと思われるものが消え去ろうとしているのを見て、感動すら覚えていた。
(―――精霊も予定量捕獲できた。人柱も確認できたし、思っていたよりも楽しめた。これでよしとして置くかな・・・)
満足と共にそう思っていた男は油断していた。
ザクッ
額の宝玉を貫く音に戦慄した。
爆炎の晴れた眼下を見れば、スグルはダガーナイフを投げたままの格好で荒い息をしている。
そう、光と闇の混合魔法の媒介にはこの仮面を使っていたのだ。
「ざまーみろ、ジェイソン」
憎まれ口を叩くスグルにダガーを親切に返してやる。
動けないスグルにそのままそれは当たるかに思われたが、横から飛び出してきたティナの魔鎗“ジークフリート”にそれは弾かれた。
きっと睨み付けてくる少女に苦笑を返し、飛翔魔法でその場を後にした。
・・・・少年と少女に目的を果たした事は告げないで・・・・。
もしもし?《すずかぜ らいた》です。
修正しました。意外と時間がかかる作業で、何度見直しても取りこぼしが結構あって難しいものです。ここまでで三日程かかりました。読みやすさを優先してるので、大きな挿入はありません。楽しんで読んで頂けたら幸いです。
【2011年12/9日】