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第16話   反省ですわ!!

・・・反省です。




塩の匂いが漂い、ツンと鼻の奥が詰まったようになる。

私はメリッサと並んで、段々と離れていくアクアレイアの港を眺めていた。

風にたなびく髪を押さえ、風に乗りながら船を追い越そうとする鳥の群れに目を向ける。


「リア。あなた、本当にこれで良かったの?」


「終わった事を話すつもりはない」

明らかな拒絶の意を示すリアに口篭(くちご)もりそうになりながら続ける。

「スグル君、あなたのこと追ってきたみたいよ」

「!・・・・・そう」


シモンは闇魔法のエキスパートだ。スグルの事をあしらった後、闇をつたって離れていく船上まで戻ると、メリッサに事の仔細を報告してくれた。

「彼、・・・スグル君はきっとあなたの最終契約者よ。あの子の“彩”(いろ)。他のヒトにない物だった」

「・・・メリッサ、君はまだあんな御伽噺を信じているのか。馬鹿馬鹿しい」

かすかな動揺さえも見せないリアの横顔に、深い悲しみを感じながらメリッサは答えた。


「あなたも思う節があったんじゃない?だから怖くて彼を突き放した。」

いつもメリッサは踏みこんでくる。

恐れず、怯まず、真っ直ぐに。

傷付くと分かっていてもそれが友達だとでも言うように・・・。


「・・・そうだとしても、それになんの意味がある?」

そう、意味はないのだ。

ただ私はスグルを巻きこみたくないだけなのだから・・・。


スグルがこちらに居たいと思う要因が自分にもあると分かっていながら、その痛みを無視した。


リアたちを運んで、ついに帆船はアクアレイアの視界から消えた。




*** *** *** ***




どうやってここまで帰ってきたのか分からない。

気が付くと俺は滞在中の宿『白いイルカ』の前に立っていた。


・・・・完全な敗北だった。

自分の中には敗北感しかなく、何が原因でシモンに負けたのかすら分らなかった。

負けたことに悔しいという感覚を抱く事がおこがましいぐらいの力の差。


この世界に来て自分は誤解していたのだろう・・・自分の力を。

それは慢心と言い換えてもいいものだ。


打ちのめされたスグルはボロ雑巾よりマシという様態で宿の扉をくぐった。


「あら、あなたこんな所にいら・・・えっ?す、・・・アサギさんどうしたのその格好っ、ちょっとこっちにいらっしゃい」

強引に腕を掴み椅子まで導いたのは、ティナその人だった。



食堂の椅子に座らされた俺はタオルやらなにやらを用意してくれるティナをぼんやりと眺めていた。

(―――リアはもういない。彼女自身の意思で離れていってしまった。)

大怪我を負ったわけではないにしても、傷だらけのスグルの顔などを献身的に拭うティナ。

(―――いや、たまたま彼女の事を助けて縁が出来ただけで、元からそこには何もなかったんだ)


「ちょっと・・・アサギさん?何があったんですの?黙ってないでおっしゃいなさいな」

(―――じゃあなんでこんなに必死になったんだろう)


「・・・・・聞いてますの?・・・・・・・そう、無視するのですか」

(―――どうしたらいいのか解らない、いや、だっおごっ!!?)



殴った・・・・・グーで。


「と、突然何をするんですかっ」

「突然じゃないわよっ!!さっきから人が話し掛けてるのに無視を決めこむし、うんとも寸とも言わないっ!

あなたは男なんですからもっと“シャキッ”となさいっ!分りましたかっ!!」

すごい剣幕でキレるティナに土下座するスグル。

その構図はティナの高貴さとスグルのボロ雑巾加減も相まって、主人に叱られる使用人にしか見えなかったという・・・。



+++ +++ +++ +++



「なるほど話は理解(わかり)ましたわ」

勢い良く捲し立てるティナにスグルはあっさりと降参して全てを話した。

リアのことを。

プライベートな事を話しても良いのか迷ったものの、短い付き合いでティナが悪い人物ではない事が察せられていたのでありのままを話すことにした。

実際、スグル自身が話を聞いてもらいたかったのかもしれない。

自分に何が足りないのか、何かをしなくてはならないと言う焦りばかりが先行していく自分に嫌気が差した。




全てを話したスグルに金髪を揺らしてティナは言った。

「・・・女々しい男ですわ」


―――ぐさっ


「追い剥ぎにでも遭ったのかと心配してみれば、女の尻を追いかけて・・・」


―――グサグサッ!


「負けて帰ってきた。・・・負け犬だったなんて」


―――ドバドバッ!!


スグルは戦闘不能になった。


「・・・はぁ、そんなにリアさんという方が大切ですの?」

机に突っ伏すスグルに掛けられた呆れた声に、これまでとは違うなにかを感じた。


「わからない。けど、大切なのかもしれない」

「・・・女々しい上に優柔不断ですわね」

「グサッ・・・そんなにはっきりと言わなくてもいいだろ・・・」

ため息をつくと、しっかりと碧眼の視線を合わせてきた。

そのたたずまいと迫力のある美貌に自然とスグルの背も伸びる。


「・・・一つ言わせてもらいますと、・・・アサギさんあなたは後悔してるんですか」

―――後悔・・・何をだろう。心当たりが多すぎてどれか分らない。

後悔している事には間違いないから頷いた。


「そう・・ですの。ですけど、“反省しない人は成長しない”・・・私(わたくし)の師の教えですわ。

後悔してもどうしようもない、失敗してそこからどうするのかが問題なのです。後悔して、次も後悔する。それではなんの意味もないでしょう?」

ティナのその言葉は、“ストン”とスグルの中に落ちてきた。

そうなのだ、後悔からは何も生み出されない。底にあるのは処理の出来ずに燻った苦い思いだけだろう。願うならば努力が為されなければならない。願えば叶うなど云う絵空事に頼っていては腐るだけだ。


その言葉はスグルの心に融けていった。

しかし、スグルはその時弱っていた。口からこぼれ出たのは決意の言葉ではなくて、弱りきった本音だった。

「・・・だけど、あの人に俺は手も足も出なかった。リアを守れない・・・。」


「っ!・・・・・あなた、なんにも分かってませんのねっ!強くなればいいのですわ。勝つのも、守るとか抜かすのもそれからですわっ!!表に出なさいっ」

スグルの言葉にどこか動揺するそぶりを見せたティナ。スグルの首根っこを掴むとティナは引きずる様にして外に出た。



「いてっ」

「―――その身に宿す嘆きを振り払わんと、我が魔鎗よここに顕現せよ。

ジークフリートッ!!」

街路にスグルを投げ出すとティナは呼んだ・・・・・・ジークフリートの魔鎗を。

ティナの手に、空間を飛び越えてそれは顕われた。真紅の刃先から灼熱の炎がほとばしる。それを振り払いながらスッとスグルに刃を向けると、その槍の真っ赤な刀身が尻餅をついたスグルを照らした。

思わず息を呑むスグルにティナは裂迫の気合を挙げる。


「やあぁぁぁぁぁぁ!!」

―――殺される!!

何がなんだか分からず目を閉じたスグルに槍は触れることはなかった。



自分が死んでない事を確認するように目を開けると、残身のままのティナがそこにいた。

振り下ろされた槍先は地面にも触れることなく、スグルの目の前で振り下ろされていた。


目を見張るスグルにティナは言った。

「これで弱気なあなたは死にましたわ。これからは強気のあなたでいて下さい・・・。」



―――無茶苦茶だ・・・。

どこか照れくさそうに告げた言葉は真摯なものなのだろう・・・。

爽快なものに満たされるのを感じながらスグルは気が付いた。否、気づかずに済ませられるほど神経が太くないだけだろう。

水を差すようだがそれでもスグルは言わねばならなかった。

―――恩を仇で返す事もないだろう・・・。


「・・・ティナ、周りを見て」

「?なんですの・・・っ!!」



当然の事ながら、往来で刃物を振り回せば注目を浴びる。

官警を呼ばれなかっただけでもよしとするべきかもしれない。


『―――ひそひそ、いやねー痴話げんかですって』

『―――がやがや、熱いねーお二人さん』

『―――どやどや、おい男があのねーちゃんに別れ話を持ってきたんだってよ』


・・・・なにやら変な方向にヒートアップする話にティナは、湯沸し器もかくやと謂わんばかりの速度で真っ赤になった。

「ななな、なんですのこれはっ!?いや、違いますのこれはこの男が、ぐずぐず言うからでして・・・」

真っ赤になりながら、まったく要領の得ない言い訳を始めるティナが可笑しくて、スグルは笑った。


「くくくっ、ティナ」

「な、なんですの」

「ありがとう」

その言葉でさらに、耳たぶまで真っ赤になるティナを見て・・・。


『―――ざわざわ、なんだ、より戻したみたいだな・・・。』

「ちちち、違いますわっ!この男とはなんの縁もつながりもなくて。そう汚れて震えてた子犬を拾う様な感覚でって何を言わせるんですのっ!!・・・ああもう、笑ってないであなたもなんとかしなさいっ!!」

笑いながらどこか吹っ切れたものを感じる。



(―――まだ顔を合わせてそんなに時間の経ってない赤の他人に、こんな無茶ができるなんて・・・・?)

好意的な気持ちを抱きながらそこまで考えて・・・・どこか記憶に引っかかるものを覚えた。



『疑問を覚えるな。忘れろ』


「っ!!!」

脳に突然声が響いた。同時に両目が焼けるような痛みと熱を発する。


「どうかしましたの?」

尻餅を付いたまま目を押さえるスグルを心配したのだろう。声からは不安が読み取れた。

しかし、ティナの声が掛けられた時には痛みと熱と声は消えていた。


「いや、なんでもないよ。」

これ以上の心配はかけまいとスグルはすぐに立ちあがった。


文句を言うティナに苦笑を返す頃には、そのことは頭から忘れ去られた(・・・・・・)・・・・。




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