番外編 魔笛 下
あれ?長いですね・・・。
今までで一番長いです。
書いてるうちに筆が乗ってしまって・・・。
前回の前書きで短くなる宣言をしといてこれは・・・・今からでも消しとこうか?
いえ、長くなる分には問題ありませんよね?
はい、問題なしです。
『・トの身・在・・・ら、そ・・に鬼を宿・・。』
*** *** *** ***
『聞きました?隣の家のご家族、交通事故で亡くなったそうよ。それでねぇ、お子さん一人無傷で助かったんですって。』
『まぁ、お気の毒にねぇ。・・・でも気持ち悪いわ、一人だけ無傷だなんて。家の子に近づかないように言っとかなきゃだわ。』
『怪我させられでもしたら大変ですもねぇ。』
『ほんとにそうよねぇ。』
*** *** *** ***
『貴・・・を・じる。・に、大・・こ・ではな・。多少・・視・・・く・るだ・だ』
*** *** *** ***
これは・・・・父さんと母さんが死んだ直後の事だ。
だけど、このノイズの入る声の主は誰だ?
知らない。
こんなこと・・・・・あったか?
+++ +++ +++ +++
「・・・あたま、痛い。」
頭を起こすと辺りは真っ暗だった。明かりの魔法は気絶した時に消えたらしい。
夢を見ていた気がするがはっきりしない。落ちた時に頭をぶつけたからかもしれない。
軽く頭を振り、何が起こったのか思い起こす。
あの時、リアが宝箱に向かって罠を解除しようとした時。俺は軽く足を休ませるつもりで、近くにあった岩に腰を掛けようとして・・・。
リアが宝箱を開ける前に・・・・岩に腰掛けたら、岩ごとグルンと反転して・・・落ちた。
・・・・・・落ちたな、うん。
だ、だっせ~。
罠に自分だけ引っかかったのか。
しかも、自爆。
「光よ」
落ちこんでいても始まらないので明かりを着ける。
上を見上げると、どうやら10メル(こっちの単位でメートル)ぐらいの高さから落ちたようである。
「おーーい。リーーアーー!!
・・・・・・だめだ。なんの音も聞こえない。先に進むしかないのか・・・」
明かりに照らされた先は曲がりくねった通路が見える。
「・・・落とし穴の下が針山とかじゃなくて助かった」
そうして己を慰めつつ、先に進むことにした。
1人で居るせいか、辺りは薄暗く、ひどく陰険なものに感じられる。
心なしか、かび臭い匂いが強くなっている。
歩いていくうちに、通路に鎧を着たしゃれこうべが横たわっている。
思わずつばを呑み込んだ。
この人、ここから出れずに生き絶えたんじゃないだろうな!?
そうだとしたらやばい。非常にやばい。
戦闘力なら並よりあると自負しているものの、冒険者としては、初心者もいいところなのに!!
残念な結果になったであろう人に軽く手を合わせてから、背を向けて歩き出そうとした、その時。
背後で動く音がした。
ま、まさか!?
バッ、と勢いよく振り向くと、しゃれこうべが立ち上がろうとしている!?
「まじか、モンスターか、これ。」
ぽっかりと空いた暗い眼窩がこちらを 窺い、そして唐突に剣を振り上げてきた。
骨のくせに、速い!!
ギンッ
金属のぶつかり合う音が響き、
辺りには安い金物の臭いが漂い始めている。
咄嗟にフォースダガーで受け止めたものの、相手はガイコツ。ひょろい身体をしているくせに力が強く感じられる。錆びていて切れ味の悪そうなそれに斬りつけられると思うと・・・ぞっとする。
この時初めて、戦闘中に恐怖を覚えた。
「お、おらぁーーー!」
やや情けない声を上げながら組み合っていた剣を右に逸らすと、全力で回し蹴りを放つ。その蹴りを胴体にまともに受けたガイコツは骨をばらばらにし、崩れ落ちた。
しかし、足骨は痙攣し動き出そうとしている。手だけとなった骨もぴくぴくと動いて不気味である。
アンデット系モンスターのリアルな実態。
・・・普通に気持ち悪い。
「・・・其の手に掴めるは光、光矢。」
矢というよりも槍に近い形をとった光が、頭蓋骨の部分に命中。
ガイコツは動かなくなった。
「・・・頭に攻撃を加えられたから停まったのか。それともこのダンジョンの他のモンスターと同じで、光の属性が効いたのか?こんなの出るって聞いてないぞ」
アンデット系は、その特性から回収部位が存在しない。装備している武器や道具は、錆びているか、腐っているか、呪われているかのどれかで、基本的にうまみのないモンスターが多い。
その割に強く、タフである為、冒険者から嫌われがちである。
確かこいつはスケルトンだったか?
こいつが居るってことは、他にもアンデットモンスターが居るかもしれない。
事前の情報収集に引っかからなかったモンスターに首を傾げつつ、先に進む。
その後、複雑になってきたダンジョンに、出るわ出るわのスケルトン。
最初こそ不意を突かれて恐怖に駆られかけたスグルだったが。
無尽蔵な魔力に任せて、光矢を放ちまくり殲滅。
時折ゾンビも現われたが、同じ戦法で撃退。
・・・やはり光属性は効くようだ、とここに来て確信。
石灰で行き止まりの道に印をつける。
まさに、死屍累々としたアンデットの殲滅が、段々と作業染みてきたように思えてきた頃。
鉄の扉を見つけた。
「これ、上につながってるかな?」
散々歩き回ってきたが、今まで通って来た通路のどこかに隠し扉があったかもしれないが、スグルの観察眼では見つけられないだろう。
やはり脱出を第一に考えなきゃまずい。水は魔法で作り出せるので問題はないが、食料の管理はリアに任せっきりなので手持ちがない。
今度から備えをしようと考え、ドアノブに手を伸ばし・・・やめた。
これ・・・・・・空けたら矢が飛んでくるタイプだ。
両壁・天井の数ヶ所に不自然な穴があいている。場合によっては開けた扉の抜こうからも飛んでくるかもしれない。
むむむ・・・。どうしたものか?
魔法で防御するか?
それともスピードを上げて避け切るか?
・・・・・決めた、両方やる。
スグルは走ると決めたらとことん走るが、本人が自覚し明言している通り臆病で慎重だった。
今回はその両方が作用した。
「其の手に掴めるは闇、古より在る影を纏い、包み、呑み込む鎧とかせ!ダークローブッ。」
ゆったりとした闇がスグルの身体に纏わり付き、魔を払う鎧と化した。
今までの傾向から、ボス格のモンスターが出てきて使うとしたら、闇の魔法だろう。反属性である光の方が有効な気がしたが、手持ちの防御系の魔法では一番これが強力らしい。物理攻撃を和らげ、光以外の魔法にかなり有効。
しかしながら、発動の時間の長さと成功する確立の関係から、実戦で使うのはこれが初めてである。
「其の手に掴めるは風、その身を守護せよ。風身。」
身体が軽くなるのを感じ、同時に周りに風が渦巻いている。
風の魔法が得意なリアからは、この魔法は無詠唱まで持っていくように厳命されている。
ダークローブの周囲に風の結界がめぐらされる。
―――完璧!!
魔力よりの防御だったが、まさしく改心の出来である。並の魔法使いではこの二つの維持は不可能であろう。しかし、スグルの魔力は並々ではなかった。
ニヒルな笑みを意識して、鉄の扉を開け放った!!
・・・・・。
「・・・・・。」
・・・・・・・・・。
「・・・・・なにも起らないし。」
・・・・・流石に膝をついて落ちこんだ。
+++ +++ +++ +++
気を取り直し、室内に入る。
・・・広い。何かの祭壇みたいだ。
中央に設けられた台座に近づいて、載せられている物を覗き込もうとすると・・・。
「危ない!!」
悲鳴に近い声が広間に響き渡り、スグルは突き飛ばされた。
ザクッ
「ああああぁぁぁぁっーーー。」
なにかを抉る音に伴って、叫び声を挙げる。
・・・スグルを突き飛ばしたのはリアだった。
脇腹から血を大量に流し、倒れ伏すリア。リアの頭上から黒いボロ切れを纏い、雄牛の骨を被った死神が降りてきた。死神の骨の手にはリアを刺したとおぼしき黒い闇の剣。
あぁ・・・・・・違う。俺を助けようとして、リアは刺されたんだ。
どこか現実味のなかった光景が急速に色を取り戻して行き。スグルの思考は怒りで塗りつぶされた。
『ファッ、ファッ、ファッ・・・。』
・・・笑っていやがる。
スグルは切れた。
「はぁぁぁぁーーーー!!」
両腰からダガーを振り抜き、死神に白刃の雨を浴びせる。肩口に右を振りかぶると見せかけ、左を突き出し。それを黒い剣で防がれるや否や、頭の骨に狙いをつけるっ!!
死神もスグルの攻撃の合間を縫って、黒い剣を突き出し、スグルの頬を切り裂くっ。
手首を返し、身体を捻り、あらゆる体術を使って攻撃を浴びせる。しかし、その攻撃は全て黒い剣で防がれ、いなされ、魔法障壁に弾かれた。
「くっ!」
埒が明かない!!
距離をとって魔法を唱えようとしたその時・・・。
死神が高速で魔方陣を描き、手のひらを向けて唱える。
『・・・ダー・ク・マター』
速すぎる!?
慌てて魔法を唱えようとして、気が付く。
リアッ!!
スグルはリアの元まで駆け寄ると全力でイメージし、新たな魔法を定義する。
黒い粉がスグル達の周りを覆い、一斉に爆発しようとした時に、それは滑りこむように発動した。
「・・・真白き衣っっ!!」
詠唱でイメージを固めず、発動したそれはスグル達を見事に護った。
黒い粒子が爆発し鋭利な刃と化し、まるで猛毒のように相手を傷つける。そして、それだけでは飽き足らず、貫いた相手を引きずりこむように縮小し、虚空へと呑み込む。
それの発動のあまりの代償と、威力から禁呪と呼ばれる魔法の恐ろしき効果だった。
しかし、その現象を一切受け付けず、柔らかくスグルとリアを包み込む“真白き衣”は己の成すべき事を終えると、溶けるように消えた。
「・・・すぐ、る・・光を」
「わかった」
・・・なんだか目が焼けるように熱い、しかしその分物事がクリアに見えるようだ。
スグルは、相変わらず不気味な笑いを続ける死神に相対して一言唱える。
「光よ」
無詠唱で唱えた明かりの魔法、これに魔力を込める。
ひたすらに込める。圧縮し、混ぜ合わせ、両の手の中にある光に注ぎ込む、・・・魔力を。
周囲が純粋な魔力で荒れ狂う段になって、死神は笑うのをやめた。
こちらを暗い目玉のない穴から観察しているようだ。
だがもう手遅れだ。
一流の魔術師でさえ込められない量を込めて、完成した。これを叩きこむ。
虹色に輝く、純粋な魔力の塊であるそれを解き放つ!!
スグルは死神に飛びかかると宣告通りそれを叩きつけた。
「おぉぉうりゃぁぁぁぁぁ!!!」
死神も黙って食らったわけではない。どこからか現れたのか、スケルトンやゾンビといったアンデットを盾にして、手首を翻した。
『・ダー・ク・ローブ』
関係ない。
スグルの魔力に触れていく先々から消滅していくアンデット達。進むたびに手の中の魔力は光を増し、魔を滅さんとばかりに力を増した。
そしてとうとう死神に辿り着く!
「ふっきとべぇぇぇぇぇっ!!」
意識して球体に留められたそれから、莫大な魔力が指向性を伴って放たれるっ。
『ぎやゃぇょおおおおおおぉぉおぉ』
それに抗わんとし魔法障壁を前面に押し出し耐える事数秒、障壁は破られ死神に到達。
“ダークローブ”と拮抗する間も無く、あっけなく死神は打ち滅ぼされる。
閃光はスグルの手から飛び出し、壁に突き当たるとその壁を突き破り、ダンジョンは大きくゆれた。
しかしスグルはその先に見向きもせず、リアの元に向かう。
「リアッ!!」
「・・・やった・な、スグル。はぁはぁ、うっ。すまないが、てが、しび・れて動か・・せない。ポー、チから瓶・を・・・。」
言いたい事を言うとリアは気絶した。リアの手で押さえられているものの、脇腹からは血が収まる気配がない。
律儀すぎるリアに涙を流しながら、腰に在るポーチを探る。
・・・あった、エリクサーだ!!
手に収まるほどの瓶の中には、虹色の液体がなみなみとある。
急いで栓を空けると、リアの身体を抱き起こし口元にあてがう。
しかし無常にも、エリクサーは唇から零れ落ち、リアの喉元に嚥下される様子がないっ。
「の、んでくれっリア!!頼むから、死なないで・・・。」
焦って唇を開かせようにも、片手はぐったりとしたリアを支えるので手一杯だ。
・・・どうすればっ。
その時、頭の片隅でひらめいた。
ためらっている時間はない。
スグルは勢いよくエリクサーを口元へ持っていくと、口に含んだ。
リアの白い肌がいっそう青褪め、桃色の花弁のような唇は震えている。
逡巡したのは一瞬だった。
・・・スグルはリアに口付けをし、エリクサーを流しこんだ。
*** *** *** ***
スグルの放った魔法がリッチを撃ち滅ぼした。
決然と立ち向かうスグルの背中はたくましく、あたかもリアを守る騎士のように立ちはだかっていた。
朦朧とする意識の中、身体で揺れを感じながら、視界の隅でスグルが顔をくしゃくしゃにして駆け寄ってくるのが見えた。
「リアッ!!」
あんまりに辛そうなスグルを慰めようと口を開いたのは覚えている。しかし、口を閉じた直後に意識は暗転した。
・・・・・・・突然、暗い思考の中で唇に熱を感じる。
あたたかい、・・・・それでいてなぜかホッとした。
思考が引き上げられる・・・・・。
目を覚ますと、やっぱり顔をくしゃくしゃにしたスグルがそこに居て。
ごもごもとなにか言ったスグルに抱き締められた。
・・・・せっかくの顔が台無しだ。
抱き締められながら感じる熱は本物で、どうしようもなく生を感じる。
黒髪から覗く顔は幼い子のそれで、・・・再びホッとすると同時に、いとおしく感じた。
*** *** *** ***
青褪めていたリアの顔色がよくなっていって、本来の色を取り戻す。
閉じられたまぶたが揺れ、・・・開いた。
「よ、よかった。リア。」
感極まってリアに抱きつく。
傷を痛めないようにそっとやさしく。
+++ +++ +++ +++
「・・・・」
「・・・・」
「なんですかこれは・・・」
ここはギルド。戻ってきたスグルは立ち上がれるようになったリアを宿まで送って、その足でギルドまで歩いて来た。
そして相対するはギルド嬢。
今なら判る。この人なら氷漬けする、絶対にやる。
沈黙とプレッシャーに耐えきれずに口を開く。
「こりゃ、痛っ~つっ」
舌を噛んだ。
・・・死にたい。
「・・・これがリッチの涙水晶なのは判っています。そうではなくて、どうしてこんなものがここにあり、あなたが持ってるのですか、と聞いているのです。」
ここにきても、感情を表には出さず。口調は怒っているのに、声音は変化がない。
逆にそれが恐ろしいのだけど・・・。
スグルは余すことなく事情を説明した。
「・・・・・なるほど、おおむね理解しました。ランクFのあなたが脅威度B++のリッチを単独で倒した。それはランクS相当の力を持ち合わせている事に相違ないでしょう。しかし、物には順序というものが在ります。ランクの昇級については、ギルドカードを手に入れた者が1月後に話す規約なのですが、ここでお話ししておきます。
・・・ランクの昇級は指定モンスターの規定数討伐、及び昇級の希望者の功績によって行われます。前者は資料があるので後でお渡しします。しかし、後者はよほどの功績がない限りありません。ランクSとAはこの場合に授けられる場合の多い階級です。階級によってはそれなりの権力と義務が生じます。その時になったら明かされるでしょう。
つまり、現在のあなたでは、いくら格上のモンスターを討伐したところで、ランクの昇級はありません。ご了承下さい。
・・・・・しかしながらこちらの不手際でもあります。調査済みのはずのクエストのダンジョンで、リッチが出るなどといった事態は、あってはならない事です。誠に申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げられた。
「・・・そんな頭を下げなくても結構です。2人とも無事でしたし。」
「そうですか。それではギルドに苦情の申し立てをなさらないで下さいね。」
はじめて笑顔を見た。じゃなくてっ、だまされた!?
辺りが彼女のレアな笑顔にどよめくのもどこ吹く風で、再び無表情に戻った彼女は続けた。
「・・・報奨金ですが。多少、色を点けさせてもらいました。慰謝料を後から請求されても困りますので重ねてご了承下さい。
ああ、それとギルドカードを提示していただけますか?」
ずっしりと重い袋を受け取りながら、何だろうと疑問に覚えつつ、いわれた通りに渡す。
銀色のカードの表面に指を滑らせて唱える。
「彼の者のランクをフィオ・D・マルセスの権限により昇げよ。・・・どうぞ。」
そんな名前だったのかと驚きを覚えつつ、受け取ったギルドカードを見ると“F++”になっていた。
「私にできるのはここまです。・・・・・最後に、あなたがお話しにならなかった、ダンジョン内部で手に入れたものですが、あなたに進呈するので好きに使って下さいと局長はおっしゃられています。なにかご質問はありますか?」
無表情の中に照れを隠していて人気があるのも分かる気がした事と、しっかりばれてると思った事と、局長って誰だよ、と思ったのを飲み込んで。
「ありません。」
と言った。
+++ +++ +++ +++
宿までの道のりで台座から回収した“魔笛”をもてあそびつつ。
リアの治療に回復魔法を使えばよかった事に気が付いた。
・・・・・やってしまった。
・・・・悶絶したのはご愛嬌というものだろう。
はい、《すずかぜ らいた》です。
番外編 魔笛を上中下でお送りしました。・・・魔笛、全然出てきません。行き当たりばったりでやるとこう云った事が起こります。
下が異様に長いのもそのためです。
まあ、当初の目的の理由付けというか、これからやろうとする事の補強ぐらいにはなったかなと、すずかぜは思います。
今回はずいぶんと長い文章なので、誤字脱字や不自然な表現が含まれている事かと思います。
他の話も気づいた点から直したりしておりますが、ご感想とともにご指摘いただけたら、感謝雨あられデス。
では、次回をお楽しみに。
ごゆるりと