番外編 魔笛 中
短めです。
「・・・・前から不思議に思ってたんだけど。」
「ん、なんだ?」
鞄から食べ物を取り出す手を止めてこちらを見るリア。首を傾げた際に流れるエメラルドグリーンの髪が、俺が出した明かりに反射して七色に輝く。
リアから目を逸らしながら応える。
「そのかばん、明らかに入る容量・・・・越えてるモノが入ってる気がするんだが。なんかの魔法なの?」
「ああ、これか?・・・・魔法といえばそうなんだろうな。これはアーティファクトの一種だ。アーティファクトというのは、超越時代に作られて、残された遺物の事を指すんだ。
この鞄は見かけよりたくさんの物が入って、重さも消してくれる優れものだ」
「へ~便利なもんだな。・・・・えっと、超越時代ってのは何なの?」
「正確な記録の残らない、空白の時代の事だ。
・・・・全ての種族の記憶に無い時間。
・・・・存在するはずの無い過去。
その空白の時間が今の技術では再現できない、謎めいたものを置き去りにしていくんだ。この鞄もその超越時代で作られたと考えられている物なんだ。私が今使ってる箙、あー、矢を入れる袋のことだが、その箙も矢が尽きる事の無い魔法がかかっている。これもアーティファクトと言えるだろうが、これは今の技術でも再現できない事は無いだろうな。まあ、それにしたって、高価な事には違いないな。」
すごい!!そんな鞄があったら密輸入とか爆弾とか・・・
・・・はっ。今俺は何を?
正気を取り戻した俺は誤魔化す様に訊ねた。
「そ、そんな高価なもの、盗まれそうになった事もあるんじゃない?」
「この鞄も世界に数個しかない、めずらしい物には違いないが。まさかこのぼろい物がアーティファクトだと考えるものは居ないようでな。盗まれるといった心配は無いんだよ。」
そう言って、にこやかにリアが笑うと、じめじめした洞窟も花が咲き誇る草原に見えて来るから不思議である。
スグル達は休憩もそこそこに先に進む。
ほとんどが1本道であるこのダンジョンは、マッピングの必要も無く。まさに初心者用というのも頷ける。
所々にあるトラップも、リアが発見、解除してくれるため、ここまで来るのに、ひとつもひっかからなかった。
これでは意味が無いのでは?、と思わないでもないが、楽する事を覚えた現代人は手にしたものを手放せないもので・・・・。
結局、最後まで頼りきり。
し~か~し、転んでもただで起きない精神を発揮。
リアが罠を見つけるところや解除するところを見て、ある程度のノウハウは獲得した。
これが後々役に立てばいいのだが。
トラップは任せきりのスグルも、モンスターが相手のときは大活躍を果たした。
ジェリースライムからジャイアントバッドまで、初心者用なので比較的よわいモンスタ―しかでてこなかった。しかしながら、リアに良いところを見せようという意気込みの表われか、スグルは鬼神のごとくモンスターをなぎ倒した。
さて、奥に着くとこれ見よがしな宝箱がぽつねんと置いてある。
「・・・・・ずいぶんと広い空間なのに、殺風景な事この上ないな。」
同感だ。
口には出さずに違う事を言った。
「リア、悪いけど宝箱のトラップも調べて開けてもらえないかな?」
「了解だ。・・・・見たところ、ここのダンジョンのレベルで仕掛けられていそうなものは無いようだ・・・。」
リアが宝箱に手をかけようとしたその時。
ガゴンッ
「!?の、のわぁぁぁーーー!!」
「!!、スグルッ、ど・・うした。・・・・・スグル?どこにいったんだ・・・・?」
リアが振り向いた時には、・・・・スグルの姿はなかった。