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第12話   占い師登場




宿泊中の宿屋『白いイルカ』を出て、商店街に足を向ける。


この異世界に飛ばされて二週間あまり、この生活に慣れてきたスグルの習慣となっているのは、露天を冷やかすことだった。

物流の盛んなアクアレイアではものめずらしいものが観られるため、1日として同じ顔を見せない。

出店税のかからない区画では商人たちが所狭しと商品を並べ、大声を張り上げている。


そんな混雑の中を馴れた様子でフラフラと掘り出し物を探すスグル。


「・・・あら、あなた面白い(いろ)をしているのね。」

様々な音が入り乱れる中、はっきりと届いたその声に魅せられた様にスグルは振り向いた。

そこには、人が座って2人入れるかどうかというテントが張られていた。


「中に入ってらっしゃい」

どうやらそのテントから声が響いてきたようだ。危険がないだろうかと一瞬逡巡(しゅんじゅん)して、問題ないだろうと判断して中に入ることにした。

テントに入るとお香が()かれていた。むっとする空気と共に頭が弛緩(しかん)していくのが分かる。

自分がリラックスしていることを意識しつつも、怪しい効果があるのではと疑ってしまった。


スグルを招き入れた人はどうやら占い師のようだ。

アラビアンな雰囲気を漂わせるその女性。鼻先から下を隠しながら、胸を大胆に強調した格好ははっきり言って水着か下着のそれに近かった。


だらしなく胡座(あぐら)をかいて、艶やかに微笑む様子(口元が覆われていても分かった)はけしからんの一言に尽きる。


「・・・・やっぱり、自分で気が付いていないのかしら?見えていないことに」

「なんのことですか」

多少及び腰になりながらも聞き返すスグル。


「なんでもないのよ、なんでもない」

「・・・・・・あの、なにか用があって呼びとめたんじゃないんですか?」

客引きに決まってるだろう、と思いながら逃げるための口実を探すためにこちら側から話し掛ける。


「そうね、あなたの瞳を見せてくれるかしら?」

「えっ、あ、あなた占い師ですよね?」

「見て分からない?」

「・・・そこに置いてある水晶を使うんじゃないんですか?」

なぜか敬語になりながらテント内に置いてある水晶を見やる。

テントの中には香炉とその水色の水晶しかなかったので、てっきりそれを使うのだとばかり思っていたが・・・。


「それは、デモンストレーション用。分かり易いでしょ?さ、いいからあなたの瞳に私を映して・・・」


普段のスグルだったら、その科白(せりふ)を告白みたいだと突っ込むこともできただろうが、ずいっと突き出された占い師の顔がドアップになると、そんな余裕は吹き飛んだ。



睫毛まつげなが!!


これが精一杯である。



どれくらい見詰め合っただろうか?数秒な気もするし、数十分かも知れない。

彼女の輝く虹彩に魅せられて、このまま見詰め合ってるのもいいかな、なんて事を考え出したとたん、彼女の顔は離れていった。

残念に思う自分に呆れ、唇がお互いに触れそうな距離だったことを反芻して赤面した。



「な、何か見えましたか?」

占い師の顔を直視できない自分が少し情けない。


「どうかしら?あなたは何か知りたいことがある?」

「いえ、なにも」

「そう、欲がないのね。・・・ねぇ、あなたが泊まっている宿に案内してくれない?この街にどれくらい滞在することになるか分からないけど、どこかに落ち着きたいの、教えて下さらない?」

「・・・・断る理由はないけど、どうして宿を取っていると思ったんですか?」

「占い師だからよ」


にこっと笑った彼女はするりとテントを抜け出した。

スグルは慌てて、それを追った。



「シモン、テントを片付けといて」

「了解しました。お嬢様」


外に出ると、執事然とした格好の男の人に占い師が指示を出している。

誰だろうか?という疑問に答えるかのように占い師は言った。


「彼はシモン。私の執事。そして私の名前はメリッサ。あなたは?」


スグルは、占い師でも名前はわからないのか、という妙な安心と共に答えた。

「浅木優です」




+++ +++ +++ +++




スグル達は『白いイルカ』に帰ってくると声をかけられた。

しかし、声をかけられたのはスグルではなく、メリッサだった。


「あっ、メリッサさんじゃないですかー」

「ほんとうですわ」

「ご無沙汰してます」


声をかけてきたのは若い男女の3人組だった。宿を取ろうとしていたのだろうか、男1人と女2人のパーティは台帳に記名をするところだった。


「こんにちわ、みなさん」

メリッサが優雅な仕草で挨拶したのに続き、どこから出てきたのか?

シモンが無言でお辞儀をした。


突然の事に困惑気味のスグルが訊ねた。


「あのー皆さんお知り合いですか?」


3人組は顔を見合わせ、そして男が進み出る。

戦士職なのだろう。腰には剣。皮の鎧と、冒険者の見本のような格好だった。しかし、体の線は細く、ブラウンの髪から覗く顔は幼くも見えた。


「僕らはメリッサさんの護衛を務めていたんです。グランシルトからキャラバンの護衛をね。半分は船旅だったけど、まぁその縁だよ。あなたはメリッサさんのご友人ですか?」


どう答えたものか?占いの客だとでも言うのか?事実はそうなのだが・・・。


助けを求めて、メリッサの方を見ると、彼女は頷いた。



「彼は私のフィアンセよ。」

「「!?」」

「「きゃぁーーー!!」」

「・・・・」


お分かりいただけただろうか?

上から男性陣、女性陣、そしてシモンの反応である。



「め、メリッサさん!からかうのはやめて下さい!!嘘です!!この人の言ってることは。さっき会ったばかりですよ。」

スグルの抗議に対してメリッサは嫣然(えんぜん)と笑うばかり。2人の女性は爆弾発言に騒いでいる。


そこで救いの女神が現れた。

・・・・ように思えた。


「ん、なんか騒がしいな?」

「あら、リア。お久しぶりね」

「えっ。め、メリッサ殿?・・・どうしてここに?」


階段を降りてきて、目を丸くしたリアによって、混乱は加速した。




修正。

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