旅立ちの朝
会議が終わり解散した翔は黒姫と共に社長室に残り黒鴉と微妙な空気感の中で話し合いが始まる。
「という訳で浜松、アンタは新しく私が作る部署に配属ね?今の仕事引き継ぎ作業よろしく」
「はぁ…何とか回避出来ないのか…?」
「出来ないでしょうね。まぁ死ぬまで雇用してあげるから安心なさい」
黒鴉は妹の前でこれ以上辛辣な思いをさせられないと口約束ではあるが終身雇用の提案をする。
「姉さん気休めはいいです。不在の間どうするか…」
「家の管理なら実績のあるアミラ達に任せればいいんじゃない?」
「うーん…大丈夫でしょうか…」
パートナーの黒姫の心配が家の事であって若干の悲しみを感じる翔であった。
三人は小さく溜め息をついて色々と面倒が重なってしまったと肩を落とす。
黒鴉は険しい顔をして翔に確認を取る。
「私も妹も関わることになるのだからちゃんと守りなさいよね?」
「ダサい事は言わない。そこは出来る限りするさ」
「頼もしいわね」
冷笑する訳でもなく信用をするようにフッと笑う黒鴉、その顔を見て黒姫はちょっとだけ嫉妬するように苦笑いする。
ちょっとギスついてる姉妹の様子に翔も察して黒姫にフォロー入れるように微笑んでみせる。
「翔君、大丈夫ですか?無理してませんか?」
「してる…けど、頑張らないといけないってなったら頑張らないとな」
翔の今一度吐いた格好つけた台詞に黒鴉は今度は冷笑する。
「ちょーっと妹の前だからって格好つけてない?」
「別にいいだろ、全員不安でしかたないんだから」
「…そうね、旅に出るなんて考えた事無かったわ。ってアンニュイな気持ちになる前に仕事の引き継ぎして来なさーい!」
翔はケツを叩かれて社長室を追い出されてしまうのだった。
黒姫は姉の乱暴な行動に少し不機嫌そうに口を尖らせる。
「翔君が可哀想ですよ」
「アイツには忙しい思いさせていた方がいいのよ!不安でメンタル悪くするわよ?」
「…そういうもの…でしょうか?」
扱いが雑じゃないかと黒姫は思うのであった。
社長辞令で異動が決まった翔は今までしていた仕事の引き継ぎ作業を行う。部長は翔の忙しない様子に同情的な視線を向ける。
「大変だな浜松、よく分からないが急な異動なんだって?」
所詮は他人事な言葉に翔は乾いた笑いで返す。
(何ともならなくても、やらなきゃいけないことをやり遂げる…かぁ)
自分に課せられた使命というものの重さを再認識しながら目の前の課題を終わらせる翔。残業しつつ一日かけて何とか終わらせるのであった。
「あー、何とか終わった…まぁ資料っつてもそんな量にはならなかったな」
それでも残業した事で黒姫を心配させてないか気にかける。
(さっさと連絡入れれば…ってそういえば社長室に残ってたな…)
今も会社内にいるのかと携帯を操作して連絡を取る。
『あ、翔君?…すみません姉さんの作業を手伝ってて…』
「なんだ、黒姫も残業してたのか」
『翔君も帰ってなかったんですね』
引き継ぎ作業が長引いたと答えると二人で笑い合って二人で帰ろうと話していると黒鴉が割り込んでくる。
『私も帰るわよ!やってられないわよ!』
『姉さん…逃げてはいけませんよ?』
『うっさい!帰るったら帰る!』
駄々をこねる黒鴉を諌める黒姫なのであった。
ーーーーー
翌朝、翔達がかつて修行したファンタジックな異世界『テセラ』に入り三人は世界の中心である魔法学院を訪ねていた。
実質この世界の支配者である教師兼この世界の神である神楽が挨拶してくる。
「来たわね?待っていたわ」
「先生、神鳴は?あとアキトさん」
「アキトは子守りで疲れて休んでるわ。神鳴は私の私室にいるわ、付いてきなさい」
神楽は学院内を先導する。私室に案内すると神鳴と仮眠を取っているアキトがいた。
「きたきた、さぁ、時間は待ってくれないわよ!」
食い気味で神鳴は三人を迎える。
黒鴉は呆れ気味に尋ねる。
「いきなり?もう少し情緒ってものがあっても良くない?」
「言ったでしょ?時間は待ってくれないわよ」
ぐーすか寝ているアキトを置いて話が進む。
「で、どこに行くのよ?」
「どこかしらね」
「知らんのかい!」
神鳴は適当な場所に行くと説明して三人はどんどん不安な顔になる。黒鴉はショックを受けた顔をする。
「嘘でしょぉ…テキトーって」
「テキトーじゃなくて適当!危機に瀕した世界に送られるわ」
「だからそれはどんな危機よ?」
ツッコミが止まらない所で神鳴は「さぁ」と首を振る。三人は肩を落とすが神鳴は「大丈夫」とアキトを指差す。
「ちゃんとそこは指導者がいるから!」
「寝てるんだけど?」
翔は微妙な顔をする。黒姫も黒鴉もちょっと心配そうな顔をする。
「まぁこの翔はプロフェッショナルってやつだから!」
「プロ…かぁ…」
それでもぐーすか寝ているアキトにやっぱり気になると三人は神鳴を見つめる。
「色々とお仕事でお疲れなのよ」
「子守って聞いたけど?」
「まぁそれも父親のお仕事だから」
とにかく旅立ちの時よ、と神鳴は指をならして新たな世界への道を開くのであった。




