9. 春の芽生え
「奈々ちゃん」
「はるくん」
公園に彼がいた。
安心したようなやわらかい笑顔。
その顔を見ると、私も嬉しくなってくる。
「……やっと終わったな」
「うん、はるくんお疲れ様」
「奈々ちゃんも」
あの時に距離を置いたからこそ、文化祭も受験を乗り越えられた。
少し成長できた私たちを、太陽が祝福するように照らしている。
「はるくん、あのね……」
そう言いかけた途端、彼は一瞬だけ迷うように視線を落としてから、私をきつく抱き寄せた。
久しぶりに感じるぬくもりに、心が溶かされてゆく。
「奈々ちゃん……ずっとこうしたかった」
「……うん」
「もう、離さないから」
「はるくん……」
彼の顔がすぐ目の前にある。
目を閉じて、そっと唇を重ねた。
お互いの気持ちを確かめ合うように、しばらく抱き合っていた。
「大学は別々だけど、これからも一緒にいよう」
「うん……これからもよろしくね」
桜の蕾が、間もなく開こうとしている。
私たちは手を取り合い、もうすぐ始まる大学生活に期待を寄せていた。
※※※
部屋を片付け終えた頃、ドアが静かに開いた。
「奈々美」
聞き慣れた声に、私は振り返る。
「はるくん」
彼が隣に来てくれるだけで、ほっとする。
「片付けてくれてたんだ」
「うん、懐かしいもの出てきた」
「高校の?」
「そう」
はるくんは少しだけ照れたような顔をする。
「文化祭だ」
「……うん」
2人でアルバムを眺める。
「僕、あの頃さ」
「ん?」
「軽く嫉妬してた」
「……知ってる」
そう言うと、はるくんは少しだけ困ったように笑った。
少し間があって、彼は私の手を取る。
高校の頃と同じ、落ち着いた握り方。
「今は?」
「今は……」
「嫉妬、しない?」
「……しないわけじゃない」
2人で小さく笑った。
窓の外は、夕焼けが広がっている。
あの文化祭で知ったのは、
嫉妬しなくなることじゃなくて――
不安になっても、相手を信じて待つという気持ちだった。
それが、今も変わらずここにある。
隣にいる人が、当たり前になった今だからこそ。
私は、そっと彼の肩にもたれた。
――あのときの私たちは、
ちゃんと、この未来に向かって歩いていたんだ。
「お父さん、お母さん!」
そう呼ぶ声に、私たちは微笑む。
これからも――ずっと一緒に。
(to be continued ― 「君の隣で、春が芽生えている」へ)




