7. 文化祭、そして
今日は文化祭。
私は、高梨くんと一緒に大道具を体育館まで運んでいた。
「いよいよだね」とキャストの人たち。
照明係や音響係の間にも緊張感が漂う。
演出係のはるくんがみんなに言った。
「緊張してる人? ……だよな。僕もしてる。でもさ、ここまで来たら楽しんだもん勝ちだ。胸張っていこう」
今日のはるくんは、いつもより少し大きく見えて、頼りがいがあって……私はしばらくの間、彼から目が離せなかった。
この文化祭の準備のあいだ、彼は目の前のことに集中してみんなを引っ張ってきた。だからこそ、今日まで来れたんだ。おかげで、私もここまで頑張ることができた。
大道具をセットして、照明係や音響係も位置について、いざ本番。
魔法使いの物語は、サリーやジェームズを中心にみんなを幻想的な世界へ招く。途中の緊迫したシーンや、敵から身を守ったところは、客席からも「おお」と声が聞こえた。
こうして拍手喝采の中、私たちの劇は無事に終了した。肩の力がふっと抜けていく。大道具を教室に運んでみんなで「お疲れ様」と言い合った。
ほっとしたのも束の間、私は美術部の展示の当番に向かった。
※※※
美術部の展示室に来た。
「夢」をテーマに描いた今年の作品。どれも個性的で、それぞれの夢がキャンバスに広がっている。
しばらく待っていると、はるくんと高梨くん、そして何人かのクラスメイトが来てくれた。
「前から思ってたけど、うちの美術部ってレベル高いよな」と高梨くんが言う。
そう、だから私はこの高校を選んだようなもの。この3年間、自分らしく表現して、地域の美術展にも参加できた。有意義な時間を過ごせたと思っている。
「梅野さん……絵、うますぎ」
「ありがとう、高梨くん」
するとその隣で、はるくんが尋ねる。
「これ、窓から見えてるのは未来?」
「うん、ああいう風になりたいなって。自分の夢を見てる感じ」
「君の絵は希望があるね、前からそうだった」
その言い方が、胸の奥に静かに引っかかった。
“前から”が強調されてるような気がしたけど……彼はちらりと高梨くんの方を見ている。
「あ……こっちにもあるから是非見ていって」
沈黙を誤魔化すように、私は奥を案内した。
※※※
文化祭が終わると、学校は一気に現実へ引き戻された。
教室から装飾が外され、廊下に残っていた看板も片づけられていく。
あれほど賑やかだったのが嘘みたいだ。9月はまだ暑いはずなのに、秋が訪れたような落ち着きすら感じる。
放課後、葉月さんがはるくんに何かを話していて、そのまま2人で教室から出て行った。
胸騒ぎを覚えた私は――こっそり2人のあとをつけることにした。
階段を降りて中庭に到着した。
どうにか向こうから見えない場所に隠れて、そっと眺める。
「急にごめんね、竹宮くん」
「いいよ、どうかした?」
しんと静まり返る中庭。何故か私まで緊張してくる。
「私……竹宮くんのことが好き」
「え……」
息が止まりそうになった。
やっぱり葉月さんは、はるくんのことが……
私はどうなるのかが気になって、再び息を潜める。
「今すぐじゃなくていいの……ほら、受験もあるし。終わったらその……考えてくれない?」
「……」
私とはるくんも、受験を理由に距離を置いている。葉月さんも、同じように「今すぐじゃなくていい」と言った。
——じゃあ、はるくんはどうするんだろう。
信じたいのに、怖くなる。
なのに、この場から離れられない。
はるくんが答えるまでの時間がやけに長くて、私は足が震えそうになりながらも、じっと待っていた。




