6. 文化祭前
夏休みの終わり、美術室にて。
「……できた」
キャンバスに描いた、私の「夢」。
教室の中央にある大きな窓。その向こうには、絵を描いている大人の女性が、うっすらと浮かんでいる。
今は高校生の私。
でも、いつかちゃんと大人になれたら――
この窓の向こうに、立てるだろうか。
「……大丈夫だよね」
作品を片付けて、大きく深呼吸する。
高校最後の文化祭。あとは、クラスの劇の大道具を頑張って仕上げよう。
※※※
2学期が始まる前に、すみれちゃんとランチをした。彼女は中学時代からの友達で、高校に入ってからも定期的に会っている。
「……なるほど。竹宮くんと距離を置いたんだ」
彼女は私の話を聞いて、ゆっくりと頷いた。
「けどさぁ、竹宮くんってモテるでしょう? 女の子が寄ってこない?」
さすがすみれちゃんは鋭い。私はうつむきながらぽつりと話した。
「……うん。クラスで目立つ女の子が、劇の練習中にはるくんのそばにいるの」
「あぁ……そっか。チャンスだよね、文化祭って。なんかわかるかも。気になる人と同じ係を選ぶみたいな」
まさか……葉月さんははるくんが演出係になったから、あの役を……? いや、違うか。みんなに推薦されたからだったはず。
「あの竹宮くんのことだから、無意識に振る舞ってるんだろうね。そこがいいんだけど」
「そうなの。普通なのにふたりが仲良さそうに見えちゃって」
アイスミルクティーをストローで一気に飲みながら、すみれちゃんは何か思いついた顔をする。
「逆に考えたらさ、奈々美も他の男の子と話していいってことじゃない?」
「え……まぁ、大道具係の人とはよく喋るけど」
「その人と思い切り楽しんじゃえば?」
「うーん……そこまでは」
「ふふ。奈々美も一途なんだから。似た者同士ね」
「そうかも」
「だからさ、なるようになるって」
なるようになる……その言葉は、私の不安をそっと和らげてくれた。
何があっても私たちは、私たちなのだから。
「ありがとう」
「……けど、他にいい人がいたら、そっちにいくのもアリだからね?」
「ちょっとすみれちゃん……」
「ふふふ……」
※※※
夏休みが明けて、2学期が始まった。
まだまだ厳しい暑さのなか、放課後の教室は劇の準備や練習で賑やかである。
キャストの子たちは通しで稽古をしていた。裏方のメンバーで見ながら感想を言い合う。
葉月さんは声も大きくて、ヒロインのサリーそのものだった。ジェームズ役の男子も上手い。きっとはるくんの演出の力もあるんだと思う。
「……あの辺に柱と鏡を置くんだっけ」
稽古を見ながら高梨くんが隣で話す。
「そうだね。あの魔女が動くなら、もう少し左に寄せてもいいかも」
「右側の柱とのバランスだよな」
私たちも舞台装飾の最終的な仕上げに入っていた。
しかし、その中で気になる噂を耳にする。
「竹宮くんと葉月さんってお似合いだよね」
「めちゃくちゃ仲良くない?」
文化祭の準備で距離が近づいて、付き合うっていうパターン、何回も見たことある。
だからこういう噂が流れるのも仕方ない。
けれど、今の私には耐えられないかも……
「梅野さん、もうすぐ本番だな」
「あ、高梨くん……」
そうだ。
今は本番のことを考えないと。
「梅野さんの美術部の展示も見に行くからさ」
「ありがとう」
高梨くんの言葉に背中を押された気がして、私はもう一度、自分のやるべきことに目を向けた。
――そして、文化祭当日を迎える。




