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1. 思い出すあの頃
午後の光が、カーテン越しにやわらかく部屋を照らしていた。風に揺れるレースが、床に淡い影を落とす。
夕食の下ごしらえが済んだので、少しだけ片付けをしようかな。
私は2階に上がり、引き出しの奥から小さなアルバムを取り出した。
引っ越してきたときに、とりあえず押し込んだままになっていたものだ。
中を見ると、文化祭の写真が入っていた。ステージの出し物が終わってから、みんなで撮影したものだ。私と少し離れた場所に、彼もいる。
「……懐かしい」
あの頃の彼は、今よりも少し不器用だった。
私が他の男子と話しているだけで、露骨に機嫌が顔に出る。
何度も困らされたはずなのに、思い出すと苦笑いが先に浮かぶ。
きっと、少しだけ嬉しかったのだと思う。
アルバムのページをめくっていく。
今なら分かる。
あれは嫉妬というより、ただの不安だったのだと。
――失うかもしれない、という想像すら、まだ上手にできなかった年頃。
あの夏がなければ、今の私たちはなかったのかもしれない。そう思えるようになったのは、ずっと後のことだった。
高校最後の文化祭は、少し照れくさくて、どこか未完成なまま胸に残っている。
そして――あの夏は、私たちが一度、立ち止まることを選んだ季節でもあった。




