人生の躍動、結城葵は裏切らない?4
「突然なんだけど、気に掛かってることがあるから聞いてもいい?」
不意の質問に対して、結城さんは軽く頷いてくれた。
「学級委員をすることになった時、相手は誰でもいいって。男に対してひどく幻滅しているというか、今の結城さんの印象からは考えられないくらいに冷たい表情をしていたから、中学の時に何かあったのかなって」
あの日、生徒指導室を出てから二人でこの教室にて話したことと類似している質問だった。そんなことは百も承知で聞いている。
それに、あの時彼女は自身の発言の半分は本当で半分は違うと言っていた。そのもう半分がなんなのかが知りたいと常に頭の片隅で考えていた。でも、俺が本当に知るべきなのはすでに明らかとなっている本音の部分。
明日香先生は、結城さんの氷を溶かしてほしいと俺に願った。
どさくさに紛れて仕事増やしやがってと思う反面、今の結城さんに氷という表現が不相応すぎて違和感が抜けない。
「神島くんは、私の過去を知ってどうするの…」
これだ。
結城さんの冷ややかな表情。口内から漏れた息が白く煙になっていく幻覚すら見えてきそうだった。それと、同時にこれ以上は踏み込んでこないでほしいという線引きをするかのようにも思えた。
俺が彼女の過去を知ってどうするのか。そんな問いに対しての解なんて持ち合わせてはいない。
「過去を知っても…どうにもできない。過去はもう結果の出てしまった事実で本来捻じ曲げようのない事象で。だから、過去に男に対しての考えが変わるような事があったとしたなら…」
上手く言葉がまとまらず、知っているありとあらゆる単語を脳内に並べて、組み合わせていく。
結城葵という一人の女性に届くように。
「過去にどんな事があったかはわからないけど。これからは、俺が君の期待に応え続けるよ。君が俺に期待したくなるように支えてみせるよ」
結城さんの表情から冷たさや温かさ。何も感じなくなった。ただ、何かに驚いているかのように目を丸くしていて、やがて彼女の口角がゆっくりと上がっていくのが見てとれた。
表情が綻んだ瞬間に一気に力が抜けて、俺は安堵のため息を吐く。すると、彼女はニコッと笑みを浮かべては話し始めた。
「別に大した事じゃないの。ただ、これまでクラスのリーダーをさせてもらう事が多い人生だったからさ、その度に男子のいい加減な姿勢のせいで私ばかりが業務をさせられて不公平だと思ってたんだ。だから、一人のこって全クラスのアンケート集計をしているあなたを放ってはおけなかった。これまでの私とすごく被るから」
「そ、そうだったのか…。あ、集計は本当にきっちり終わってるからね」
「うふふ。別に疑ってないよ」
「本当?仕事に対しても信頼してなさそうだなって思ったから」
「うん、してないよ」
あまりにもあっけらかんと答えるもんだから少なからずの精神的ダメージを負ってしまった。けれど、彼女の回答に続きがあったんだ。
「でもね、神島伸二くん、あなたは別です。今日のあなたの向き合い方を見ている限り心配していることは何もないんだよね。だからさ、早く私に期待させてよ…」
「うん。俺の全力で結城さんを支えていく。そんでさ、高校生活くらい本気で楽しもうぜ」
「まあ、神島くんはまず部活動を決めるところからだけどね。うちの高校帰宅部とか許してないし、大体学級委員が部活動無所属とか格好つかないじゃんね」
「確かに。でも、部活動体験とか行ってる時間ないよね」
この体育祭に対してのスパンの短さが首を絞めようと首に手をかけているような生け取り状態と言っても過言じゃない。そんな状況下で部活までとなると正直厳しいとは思う。
「じゃあ、女バスのマネージャーとかは?」
にんまりと笑みを浮かべつつも、上目遣いというチートスキルの併用をした結城さんから予想の斜め上すぎる提案をされて、俺は少しの間考えてみることにした。




