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人生の躍動、結城葵は裏切らない? 3

 そして、放課後という最も面倒な時間がやってきてしまった。 

 かなり身構えていたのだが、実際のところは明日香先生が委員としての心構えと実際の実行委員の業務内容を黒板に書きながら話していく、オリエンテーションのような会だった。

 もちろん、一人一人自己紹介するタイミングもあったのでそれなりに緊張はした。


 元々、複数人に見られて話すということが苦手な俺にとってはクラスのまで話すこともしんどかったというのに。

 そんなこんなで一時間もせずに学年の集まりは終了となった。ただ、競技アンケートの集計を各クラスで行い、この一組の教室に提出してから解散という流れになった。

 明日香先生は用事があり席を外すらしく、俺は各クラスごとの集計からさらに学年としてまとめた集計結果を提出するように言い付けられていた。


「じゃあ、俺と蛍は部活行くわ」

 そういって、そそくさと教室を後にする二人見て遠山さんが呟く。

「学校が変わっても男子ってあんな感じだからムカつく」

「だよね〜。中学の時も男子のせいで結構クラス荒れたりしたもん」

 すかさず池田さんが共感をしていて、どんどん肩身が狭くなっていくのを感じた。


「あんたも帰りたきゃ帰れば?」

 遠山さんにそう言われて、帰っていいのなら帰ってやろうかと思っていると結城さんが間に入ってきた。

「まあまあ。こう見えて神島くんは結構真面目だよ」

「え、俺どう見えてんの?」

「入学早々に居眠りして後藤先生に気に入られたサラブレッドとか?」

 冗談めいた笑顔で池田さんから言われた。


 池田さんの発言を受けて、意外にも遠山さんがフッと吹き出して小さく笑った。

「なんだよそれ。事実なのもちょっとウケるけど」

「ごめん、俺は何が面白いのか全くわからん。あ、徒競走二十二票。借り物競争三十三票。競争系でかぶってるね」

「しかも、ちゃっかり一番真面目に働いてる。本当に真面目だったのか」

「俺は真面目じゃない。ただ、やれと言われたことをやってるだけだ」

「いや、真面目じゃん」


 元フリーランスの俺にとってやれと言われたことを完璧にやるというのは普通のこと。いや、むしろレベルの低い行為だとすら思っている。

 言われたことだけをするのならロボットだってできるのだから、人間である以上限界を超えたプラスアルファの提供ができないと話にならない。

 ただ、こと高校生活においてはやれと言われたことをやれるだけで優等生扱いされるのかもしれない。


 四人がかりで取り組むには集計という仕事は簡単すぎたのか、どのクラスも数十分程度で業務を終えて帰っていった。

 こちらのクラスもいち早く集計が終わっていたので、教室に残ったのは俺だけとなった。

 ここからの集計作業が一番大変で地味で面倒なのに、ひとりぼっち。まるでフリーランス時代の自分のようで懐かしさすら感じていた。


 外から漏れる運動部の力強い声もやがて小さくなっていき、不意に窓の外へ視線を向けるとそこには夕空が広がっていた。

 依然として明日香先生は教室にやってこない。

 それだけが気になっていると、ドアが開かれた。てっきり明日香先生がやっときたのか、と推測したが現れたのは結城さんだった。

「部活行ってたんじゃないの?」

「うん。でも一年生は今週までは早く終わるみたいでね、一人だろうから戻ってきちゃった」

 結城さんは暑そうに手で顔を仰ぎながらも俺と向かうように前の席に腰を下ろした。

 爽涼感のある匂いがいかにも女子高生らしくて、心臓の音が大きく、そして早くなっていくのを感じていた。そんな自分が気持ち悪いと思いひどく落胆もした。


「もう、集計終わっちゃった?」

 落ち込む俺のことはさておき、業務の心配をしてくれたのでできる限り明るい声音で答える。

「うん。大丈夫。ちょうど終わったんだけど、あの売れ残り教師が来ないから待ち状態」

「売れ残り教師?あはは、絶対後藤先生のことじゃん。怒られるぞ〜」

「怒ると婚期が遅れるらしいっていう噂流せないかな」

 またしても結城さんがあははと笑い出す。


 極めて真面目、というわけでもなくよく笑う人。

 部活終わりにわざわざ残業をしている人を気遣う優しい人。

 俺は、彼女への印象を少しずつ、本当に少しずつ書き換えていく。

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