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死んだと思ったら高校生に戻っていた 5

 それから、帰宅して俺は深い眠りについてしまった。

 目が覚めるとすでに自室のカーテンから光が差し込んでいた。


「おはよう」

 当たり前でありつつも、数年間一人暮らしをしていた俺にとっては意識して発する言葉だった。

「あ、今日は早いね」

 そう言って笑顔をむけてくれる母の顔を見て安堵のため息が漏れる。

「かーちゃん。俺、少し頑張ってみることにするよ」

 母は首を傾げて「何を?」と言いたげな表情をしていたが、思っている言葉を呑み込んでから一言。

「うん、頑張れ」

 小さな、非常に小さな決意の朝だった。


 朝食を食べてからも時間が余っていた。だが、家にいても時間を消費するだけだと思い家を出た。

 時刻は七時を回ったところで朝練のある部活動組からすると遅いくらいだが、特に朝練などのない生徒からするとかなり早い。

 案の定、教室に着くと一番乗りだった。

 机に鞄を置いて、スマホを見る。

 自身のカレンダーを確認して、今日が入学してから四日目と言うことを知る。もっと早くにしておくべき情報であり確認することは容易だったが、それをしなかったのは時間が確保できなかったからだ。

 

 移動時間とか、家に帰ってからとか少し時間を割けばいい。でも、俺にとって今生きているこの人生は幻でどうでも良いものだと考えていたから。

 でも、人は単純だ。

 今朝、母の元気な表情を見て。そして、母のやつれた顔を見て自分の本来の目標とその目的を思い出した。

 言葉では両親に楽して欲しいと思っていても、ビジネスで成果が出ないとお金に執着して、なんのための努力なのか見失ってしまう。それを理解していても感情的な部分で実感できない限り何も変わることができない。

 俺に足りない最後のピースは家族だったのかもしれないと思った。


 だから、今この奇妙なチャンスを与えられたのなら最大限活かしてみせろ。

 いつまでも拗ねてるな。前を見ろ。

 どんなだけ辛くても顔を上げられなくとも、それでも顔を上げて笑って進め。


 柔らかな、春の香りが教室内に迷い込み脳内に優しい声が響いた。

『お主なら大丈夫じゃ。見守っておるから頑張ってみるんじゃな』

『ああ。そうするよ、でもやるからにはもう2度と失敗はしない』

 そんな俺の願いに似た言葉を受けて老人は笑っているような気がした。顔は見えないけれど笑っている表情の情景みたいなものが脳内に流れ込んできた。


「あれ、神島くん早いね」

「結城さん。あ、その、昨日はごめん」

 一目散に謝ると結城さんは首を左右に振って、自分の席まであるていった。

「ううん。私の方こそ、生徒指導室での態度とここに戻ってきてからの態度に凄い差があったから警戒させちゃったかなって」

「あ、うん。それは少しある」

「だよね」

 えへへと苦笑する彼女を見て、言わなきゃと思った。

「俺、人を信じすぎる性格で。これまで女子からも男子からも沢山裏切られてきた経験があって。だからさ、あんまり人を信じれなくなってるんだ。別に結城さんが悪いわけじゃないんだけど」


 彼女は深刻な面持ちのままゆっくりとこちらに近寄ってきて「大丈夫」と呟き俺の頭に手を乗せた。

「大丈夫だよ。私はあなたを裏切らない」

 これは、俗に言うなでなでなのでは?と思いつつも、女性と触れ合うことがあまりなかった俺は情けなくも顔が熱くなった。

 咄嗟に身を引いて、警戒体制に入ると彼女はニコッと笑みを浮かべた。

「神島くんが人を信じれない。信じることにコンプレックスを抱えているのなら、私があなたを救ってあげる」

 甘い言葉、都合の良すぎる状況。つまり…。

「いえ、怪しいので結構です」

 すると、彼女はあははと笑い始めた。それもお腹を抱えるほどだ。

「あー、なんか印象変わったかも。私も少なからず警戒してた方なんだけど、それ以上に警戒されるってなると面白いね。というか、私を警戒する人なんてこれまでの人生であなただけだったよ」


 そう言ってからも堪えれず笑い続ける彼女を見て、らしくもないことを思った。

 明るく、真っ直ぐ郎らかな雰囲気。ひまわりのような温かいイメージを彷彿とさせて優しく包み込んでくれる。

 葵。

 彼女の名前にぴったりな女性だと初めて実感する。

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