死んだと思ったら高校生に戻っていた 4
空がオレンジ色に染まり始めた頃、いく当てもなく川辺を散歩していたが変える場所はあるのだということを思い出した。
考えてみれば高校生時の俺に家があるなんて当たり前で、でも考える余裕がなくなっていた。
『整理するのにそんな時間がかかるもんじゃろうか』
もはや聞き慣れ始めてしまった老人の声を聞いて俺は我にかえる。
「おい、ジジイ。さっさと元に戻しやがれ」
そんな声が漏れてしまっていたようで近くを歩いていた人々がこちらに視線を向けてきた。
『お主。だいぶ不安定じゃな。先程は楽しそうに恩師と話しておったじゃろうに』
『懐かしかったからな。でも、これは俺の人生じゃないんだよ。明日香先生は俺に圧のかかる無茶振りはしてこなかったし、結城さんと俺に接点はなかった。大体、お前もう時間ないんじゃなかったんだろ?』
『まだあるよ。確かに時間は多く残っておらんが、その時間はこうして会話してる時しか経過せんのじゃよ。それで、これは俺の人生じゃないだったな…そりゃそうじゃろうに。お主は今まさに新たな選択の分岐点に立たせれているんだから』
「選択の分岐点ってなんだよ』
『人は生きている中でいくつもの選択をしていく。選択の中には重要であるものそうでないものなど様々じゃが、一つとして無関係なものはない。例えば、お主が右と左の道迷ったとして、右を選んだ未来。左を選んだ未来では微かに変化が起こる。そういう小さなことの積み重ねで人生は変動していくものになっているんじゃが、その選択分岐をお主は一気に遡ったんじゃ。本来人生においての選択を変えることはできない』
『意味がわからねえ。だって、右にいっても、やっぱり左がいいってなったら戻ればいいじゃねーか』
『その通りじゃな、ただ、一度右を選択したという事象に変化はない。お主の言い分の通りに行くと右を選んだ後に引き返して左のルートに行くと選択した。つまり新たな事象が生まれただけじゃ。わかるか?選択において遡ることは本来できやしないんだ』
俺はこの老人が俺を丸め込もうとしているようにしか感じなかった。
言っている事の意味は理解しているつもりだが、なぜ今それを話しているのか。
『俺は今の人生がこれまでとは違うっていう説明が欲しいんじゃないんだわ。俺は元に戻して欲しいって言ってんだ』
『ええのか?また借金に追われ負けた人間の人生を送ることになるんだぞ』
『もとより負け犬だ』
『おい』
老人の声色が普段のふざけたトーンから一変し、緊迫感を漂わせた。まるで怒りの感情がむき出しになっているみたいだった。
『いつまでもガキみたいにいじけてんだ。心が大人ならこの機会をチャンスと考えて足掻いてみろ。どうしても戻りたいんなら方法はあるじゃろ』
『方法?』
『お主はなぜこんなことになった?死んだじゃからじゃろ?』
『この人生が嫌なら死ねってことか…』
『無論、死んで欲しいとは思ってはおらんが。これはもうお主の人生じゃ。自分で考え選べばいい』
そうだ、すごくシンプルなことだった。
死ねば終わる。死ねば元通りになる。死ねばいいんだ。
俺は、死にたいんだ。俺は…。
「俺はどうすればいいんだよ」
自然と溢れる涙を拭いながらも俺は懐かしのあの家へと歩みを進めた。
『考えろ。考えて考えて、結論を出せばいい。結論が出るまで生きてみればいい』
温かく包み込んでくれる優しい声音に涙が止まらなくなった。




