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募る思いは時として人の足を止めてしまう【体育祭実行委員編スタート】2

「何か話したいことあった?」 


 俺が些細な疑問をぶつけると、結城さんは荷物を持ったまま俺の隣に腰掛ける。

 もちろん、そこは彼女の席ではない。


「話したいこと、は色々とあるんだけど。まず、私たちの当面の目標は体育祭を完璧にやり切ることだと思うんだよね。ほら、実行委員ではないけれど、学級委員である私たちは事実上それと同義らしいから」


「まあ、それはそうだね。今日の放課後には全体の顔合わせがあるしね」


「そうそう。でもさ、私的にはこれってチャンスだと思うんだよね」


「なんの?」


「名前を覚えてもらうための」


(確かに…名前を売らなきゃスタートすらしないからな)


「だからね、一年生の実行委員代表に立候補するね」

 

 ふと、笑みが溢れてしまった。


「なんだ、決定事項じゃん」


 結城さんは軽く頬を膨らませてから言う。


「事後報告よりマシでしょ」


 確かに事後報告されるよりは明らかにマシなのだが、あくまでもマシというだけで最善ではない。とはいえ、今回は時間もなかったし、俺自身昨日は音信不通になっていたのであまり攻めれる立場にはない。


「それじゃあ、ひとまずは売名作戦ってことでいい?」


「売名。うん、それでいいよ、なんか聞こえ悪いけど」


「いやいや、売名は立派な選挙活動の一環でしょ。結城葵がどんな人間なのか、この体育祭で証明しよう」


 彼女は微笑み頷いた。

 そして、席を立つ瞬間に「あっ」と声を漏らしこちらに視線を戻してきた。


「あなたも私がどういう人間かしっかり見定めてよね。私はあなたを守らない。だからあなたも私を守らなくていい。でも、男の子は庇うことにヒーロー像を立ててしまいがちだから…。私の方がヒーローだってところ見せてあげる!」


 なんともまあ、強気な宣言。

 正直、ここまで釘を刺されるとは思わなかったし、何よりもそこまで想定して考えているということが学生離れしていると感じさせられる。


 大体、優秀な人間かそうでない人間かのカテゴライズは早期にできてしまう。

 その中で言うと彼女は圧倒的に優秀な立場にある。もちろん、人によっては後から伸びるタイプとか計り知れないタイプとか色々といる。でも、大概はある程度言葉を交わせばわかる。


 彼女は間違いなく優秀。そして、俺は優秀ではない。

 そうだとしても後天的に身につけた能力で負けているとは思っていない。


「俺、ヒーローには興味ないんだ。だから、その点は問題ないよ」


「うふふ、そうみたいね。確かに、ヒーローというより暗殺者みたいだものね」


「やかましいわ」


 そんな他愛無いやり取りで鈍色のこの教室に花が咲いていく。

 こんな些細で幸福なひと時を人は青春と呼ぶのかもしれない。

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