人生の躍動、結城葵は裏切らない?5
「もし少しでも興味があれば私から先生と先輩たちに話してみることはできるからね」
そういって、ウィンクをしてくる彼女をみてつい本音が漏れてしまう。
「一番嫌だわ」
「あはは。そりゃ残念。せっかく部活でも一緒にいられるチャンスだったのにな」
「いや、俺はそこまでして結城さんと一緒にいようと思ってはいないよ」
角が立たないように気を遣いつつに選んだ言葉ではあったつもりだが、結城さんは頬を少しだけ膨らませていた。
「私が、あなたを必要としたんだよ」
何か言わなければと思えば思うほどに言葉はなくて、ただ胸の内が熱くなっていくのを感じていた。
「顔真っ赤だけど大丈夫そ?」
ニシシとイタズラに笑う結城さん。
陽気でありつつも真面目、とてもバランスの取れた人間。それは、すなわち完璧に一番近いしいのだと俺は思っていた。これから先、彼女よりも素敵な人にあ俺が出会える時は来ないのかもしれないと思わされるほどに、彼女を美しいと思った。
教室後方のドアが勢いよく開き「すまんすまん」という軽すぎる謝罪と共に教室に入ってきたのは、待ちに待った明日香先生だった。
「あんた、来るの遅すぎんだよ」
「あー悪い悪い。ちょっと上司に呼び出しくらっててな」
ため息まじりにそう答える明日香先生は躊躇うことなく俺の席の机に腰掛けた。
「上司からの呼び出しというはどのような内容だったのですか?」
「ん?あー。君たちのことだよ」
「私たちのことですか?何かしましかね?」
「いや、君たちを私の独断で学級委員にしたということがそれなりに不味かったらしくてな。特に、神島。候補者にすら入っていない君を学級委員にしたのが相当やばいらしいな」
そう言って、明日香先生は他人事のようにあはははと声を出して笑っていた。
こいつ大丈夫か?という思いを込めて結城さんと視線をぶつけ合う。
「まあ、私のことはいい。もう叱られたからこの件はこれにて終了」
「いい歳して情けねーな」
「何を言ってるんだ。叱られることは誇るべきものだ。それだけ自分が期待をされているって証明だろう」
俺は、時たまにこの人のこういう大らかで男らしい姿がカッコよく思えて憧れてしまう事があった。でも、結城さんにはそのように映らなかったみたいだ。
「叱られるということは、一度期待を裏切っているとういうことでもありますけど」
そんな辛辣かつ正論を述べる結城さんの顔を見て、何言ってるの?みたいな惚けた顔をしている、この人は本当にどうやって教師という職に就く事ができたのだろうか。
「え、っと、意味がわからないようなら、もう少し具体的に説明しましょうか」
結城さんがそう告げた瞬間に明日香先生は「わかったわかった」といって、彼女の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。
「ちょ、先生やめてください」
「ったく。勇気はほんと可愛いやつだな。君のような妹が欲しかったな」
「私は、先生のような姉はいらないです」
うははは、という明日香先生の笑い声が教室内に反響して、騒音被害とかを職員室に届けたらこの人にまた説教を喰らわせることはできるんだろうか。
「そういえば、一学年の集計は終わったか?」
「ええ、もう終わってます。あとででいいので目を通しておいてください」
そう言って、集計の総評と各々のアンケート用紙を丸ごと渡した。
かなりの量になるので、受け取ってすぐ隣の席に回された。
「ご苦労だったな。明日の朝、生徒会室にいく用があるから、一学年の分は私が明日出しておくよ」
「教師が、生徒の手伝いとかしていいんですか?こういうのは見守るのが教育の鉄則じゃないの?」
俺がそういうと結城さんも深く頷いてた。だが、明日香先生は軽くあしらうかのように笑みを浮かべて答える。
「私は、教育者ではないからな。まあ、教師ではあるんだが」
「どういう意味だよ…」
「まあ、平たくいうと。私と君たちに上下の差はないってこと。一緒に手分けして頑張ろうぜってことさ!」
そういって、グーサインを送ってくる先生を見て、僕らを目を合わせて笑った。




