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第二話 「赤の黄昏」

 初めて書いてみました。よくわからない用語いっぱいあって、文章も拙いため聞きたいものがあれば言ってください。後書きで解説します。

 作った設定をメモしておらず思い出しながらその場の雰囲気で書いてますので同じ意味なのに違う用語で書いちゃったりしてます。そのうち修正したいです。

 1話あたりの文字数は2000〜6000くらいで考えてます。

雰囲気は王道な感じです。

――潮騒の音で目が覚めた。


硬いけど清潔な寝台。鼻に塩と焼き魚の匂い。窓の向こうでカモメが甲高く鳴く。俺は上体を起こして、頭の中で昨日までを巻き戻す。星が降る島エルノア。星見の一族。予言。十三英雄。禍星。――そして、俺。


「……夢じゃ、ないんだよな」


独りごとが、薄青の朝に溶けた。深呼吸をひとつ。胸の奥に溜まっていた重石が、少しだけ軽くなる。


身支度は、もう手が覚え始めている。洗面桶の水で顔を冷やし、借り物の旅服のベルトを締める。腰には練習用の短棒。――武器錬成で作る“ちゃんとした一本”は、まだ自信がない。焦るな、積み上げろ、と昨日のエトに念を押されたばかりだ。


廊下に出ると、木の床がみし、と鳴る。反対側の扉の前で足が止まった。エトの部屋。ノックしようと拳を上げ、迷って、それからそっと開ける。鍵はかかっていなかった。


白いカーテン越しに、柔らかい光。ベッドでは、薄い水色の髪が枕に広がっていた。胸元で両手を組んで、規則的に上下する呼吸。長い睫毛。寝言で、誰かの名を呼ぶでもなく、ただ無邪気な寝息だけが部屋に満ちている。


(……この子が、俺を呼んだのか)


見た目は細い。星のアクセサリーに、白を基調とした衣。昨日は凛としていて、言葉はどこか大人びていた。今は年相応――いや、年齢なんて知らないけれど――とにかく、守ってやりたい、と思わせる顔で眠っている。


視線に気づいたのか、彼女の瞼がゆっくり開いた。薄い星色の瞳。焦点が合い、俺と結ばれる。


「……おはよう、タケシ」

「……おはよう。起こすつもりはなかった」

「ううん。ちょうど起きるつもりだったから」


エトは上体を起こし、肩にかかった髪を指で払った。寝起きの声は、いつもの澄んだ声より少し低い。布団の端を整えて、いつもの整然とした彼女に戻るまで、ほんの数秒。


「先に食堂へ行ってて。身支度したら、すぐ行くから」

「了解。ロビーで待ってる」


扉を閉じ、俺は踵を返す。



一階の食堂は、朝の匂いでいっぱいだった。焼いた白身魚、スープ、小麦のパン。カウンターの向こうで、ふくよかな女将が手を止めずに客の呼び声へ返事を飛ばしている。窓際の席に座ると、潮風が髪を撫でた。


「待たせた」


エトがやってきた。薄青の髪を低く束ね、星飾りのティアラを額に。白を基調とした旅の衣は、よく見ると布地の内側に、かすかな紋(第二律の文字)が刺繍されている。彼女が椅子を引く音に合わせて、俺の腹が鳴った。


「……食べようか」

「うん」


湯気の立つ皿が二人の前に置かれる。ひと口、スープを啜る。塩とハーブの香りが胃から体へ広がって、寝起きの世界に輪郭が戻ってくる。


「今日の予定を確認するね」

「頼む」


エトは指を折って、淡々と並べた。


「一つ。タケシの冒険者登録。身分証がないと街の外に出るのも不自由だし、依頼も受けられないから」

「了解。試験みたいなのがあるんだったな」

「基礎を確認するだけの軽いもの。読み書き、護身の心得、ルアの流し方。できる範囲で大丈夫」


ルア。――この世界の“力”。呼吸と意識で身体に巡らせると、動きが軽くなる。集中すると、視界の輪郭が少しだけくっきりする。俺は無意識に、指の腹でテーブルをなぞった。木肌が細かく伝わる。うん、落ち着いてる。


「二つめ。登録後、そのまま依頼を受けたい。『血色の羽虫』の調査」

「昨日も言ってたな。あれは――」

「ノーザリスでは珍しい発生。被害は小さいけど、広がると厄介。小動物の血や人のルア(生命力)を少しずつ吸って、貧血や幻覚を招く。黄昏に群れで飛ぶから、“赤い夕暮れの虫”って呼ばれる」


俺はパンをちぎって口に運んだ。もそ、と音がして、スープで流す。血を吸う虫。どの世界でも、嫌なものは嫌だ。


「……それ、やる理由はもう一つあるんだろ?」

「うん」


エトの瞳が、わずかに揺れた。去年、彼女は星見で“鉄の仮面の男”のビジョンを見た。冒険王。ヘイル。十三英雄候補。――俺は、その名を心の中で繰り返す。


「星見(最適な未来の断片が映る)では、必ずしも順に見えるわけじゃないけれど……血色の羽虫の群れと『鉄』の反射が重なる場面があったの。確定じゃない。でも、行く価値は高いと思う」

「つまり、その鉄の仮面の男が、同じ依頼に関わる可能性がある」

「そう。実際、こういう小さな異変を追う人だから」


エトはパンにバターを塗りながら、ふっと微笑んだ。


「三つめ。登録が済んだら、街を歩こう。表の祭と、裏の現実を見ておいてほしい」

「裏、か」

「ノーザリスは平和だけど、すべてが綺麗じゃない。大陸の心臓は、血も流す」


言い切る声に、迷いはなかった。俺は頷く。皿が空になるまで黙って食べ、湯飲みの底に残った香草茶を飲み干す。


「行こう」

「うん」



港町コルディアの冒険者ギルドは、広場に面していた。表の看板に刻まれた剣と盾の紋。扉を押すと、木と革と酒の混じった匂い。昼前だからか、喧騒はほどほど。受け付けには、きちんと髪をまとめた三十代くらいの女性が座っていた。落ち着いた色の制服に、胸には小さなギルドの徽章。


俺とエトがカウンターに近づくと、彼女は一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに微笑んだ。


「いらっしゃいませ。登録ですか?」

「はい。彼の身分証を」

「承知しました。では、申請書に――」


手早く用紙が出てくる。名前、生年、出身地、得意分野。俺はエトに目で助けを求め、彼女がさらさらと書き込んでいく。生年で詰まって、俺は指を折って数えた。地球式と合わない。エトが小声で助け舟を出す。


「――それと、最後にルア印(ルアの“癖”を刻む署名)をお願いします」

「どうやって?」

「こちらの石に軽く触れて、呼吸を整え、胸の奥から指先へ温かさを流すイメージで。強くし過ぎると破裂しますので、優しく」


台座に載った透明な結晶。俺は喉を鳴らし、右手の指先を乗せた。ゆっくり、息を吸って、吐く。胸の奥に意識を落とす。エトの言う“静息”(落ち着いてルアを整える基礎)を思い出す。指先に、すこしだけ熱を集める――。


結晶の中心が、微かに光った。淡い、白。受付嬢が目を細める。


「はい、きれいに入りました。――お上手ですね」

「初めてなんで、怖かったけど」

「怖いくらいが、ちょうど良いんです」


彼女は慣れた手つきで金属の札を取り出し、刻印を重ね、裏面にさきほどの光を流し込む。札が、俺の“癖”を飲み込むように鈍く光った。


「これがあなたのギルドカードです。失くすと大変なので、お気をつけて。ランクは最下位のFから。依頼をこなして評価を積めば、試験を経て昇格します」


カードを受け取る。金属に刻まれた自分の名前が、知らない世界で初めて“ここにいる”と証明してくれた。胸に少し熱いものが走る。


「あと、簡単な基礎確認を。訓練室で、軽くで結構です」


案内された訓練室は、土の床に簡素な標的が並ぶだけのスペース。待っていたのは、片腕に古傷を持つ顎髭の男だった。四十代、いや五十に近いかもしれない。無駄のない立ち姿。彼の目が俺の全身を一度で測る。


「新入りか。構えからして素人じゃねえが、動きはまだ硬いな。名は?」

「タケシ」

「俺はリニス。試験官だ。肩の力、抜け」


リニスは木剣を一本、俺に投げてよこした。俺は受け取ると同時に重心を落とす。彼は頷き、最初の課題を短く告げた。


「まずは“纏身”。体に薄くルアを回して、足取りを軽くしてみろ。走って止まる、を二往復」

「了解」


呼吸を整える。胸から四肢へ、温かさを巡らせる。足裏が地面にしっかり貼りつく感覚が出て、同時に軽くなる。――走る。止まる。砂が小さく弾ける。二往復目の止まりで、膝の遊びを残す。リニスが顎を引いた。


「悪くない。次、指先に細く集めて“針”。そのまま小石を弾いて、的の赤丸に当てろ」


俺は木剣を置き、地面の小石を拾う。人差し指の腹に熱を集める。先端が、じわ、と痺れた。狙って、弾く。石は空気を切って飛び、赤丸のふちに当たった。


「ふち、か。まあ初日だ。最後に素振り十回。肩で振るな、腰から切れ」


十回。汗が額に滲む。呼吸を乱さず、最後まで切っ先が止まらないように。終えると、リニスはふん、と鼻を鳴らした。


「可。――力任せじゃなく、吸収が早い。頭も冷えてる。街の外に出るときは、慢心するな。いいな」

「肝に銘じる」


短い試験はそれで終わり。リニスが去り際、エトに視線を投げる。


「そっちの嬢ちゃんは、目がいいな。……夜は空を見るタイプだろ」

「ええ。星のお仕事なんです」

「なら、彼の“前を見る”のも、頼む」


エトが小さく会釈した。



受付に戻ると、掲示板の前が少し賑やかだった。木枠に無数の依頼書が貼られている。護衛、討伐、採集、探索。字に強弱の癖が出ていて、眺めているだけで書いた人の顔が浮かびそうだ。


目当ての依頼は、すぐ見つかった。鮮やかな朱で「注意」と書かれた印。『血色の羽虫 群生確認/黄昏時・北湿地帯/被害拡大の兆候につき調査と駆除 依頼主:コルディア市衛/推奨ランク:E~D』


俺が手を伸ばすと、横から同じ紙に伸びる手があった。黒い革手袋。指先に薄い金属の補強。――そして、その手の持ち主を見て、俺は一瞬、言葉を失った。


鉄。鉄の仮面。額から鼻梁、口元まで滑らかな鉄板で覆い、細いスリットから鋭い目だけが覗く。旅の革鎧は使い込まれていて、肩に小型の盾。腰に片手剣。背にはいくつもの筒と袋。どこか軽やかで、どこにも重い。


「おっと」


仮面の男が先に引いた。笑っているのか、わからない。ただ、声は明るかった。


「譲るよ。――いや、違うな。同じ依頼だ。二枚はない。どうする?」


喉が鳴る。俺は、自然に名を呼んでいた。


「ヘイル、だよな」

「へえ。初対面で名前を当てるとは。……どこで俺様の噂を?」

「星で、少し」


エトが一歩出た。仮面の視線が彼女を掠め、ほんの一瞬、呼吸が止まった気がした。


「星見の嬢ちゃん、か。噂は本当だったんだな。鉄面の変人、って呼ばれてる俺様が言うのもなんだけど――希少種と珍妙の組み合わせは、目立つ」


嫌味のない軽口。周囲の冒険者が色めき立ち、すぐに日常のざわめきへ戻る。ギルドは「強い」「変わった」に慣れている。


「同じ依頼を追うなら、情報を混ぜよう。黄昏、北の湿地で発生。最近は港の倉庫にも侵入。小動物や家畜の衰弱が増えてる。群れの中心に“卵嚢巣”があるはずだ。そこを落とせば散る」

「詳しいな」

「趣味でね。未知と呪物の収集、変な生き物の観察。俺様の人生、ほぼそれ」


ヘイルは右手で依頼書を半分持ち上げ、左手で俺たちの方へスッと差し出した。


「取り合いは趣味じゃない。手を組むか? 依頼は一枚。報酬も一件。だが、現場での手は多い方がいい」

「……こちらからも、お願いしたい」


俺が答える前に、エトが静かに言った。目が真剣だ。俺は頷く。


「ただし、この後“長い話”を持ちかける気はないぞ。俺様は自由業だ。頼まれても、しばらくは聞かない」

「長い話、ね。――その件は、また別の機会で」


ヘイルの目のスリットが、少しだけ笑ったように見えた。


「よし、じゃあ手短に段取りだ。昼過ぎに北門集合。湿地は足を取られる。各自、装備の準備をしておけ。夕暮れの一時間前にポイントに入り、黄昏の群れを待つ。俺様は倉庫筋を少し洗って情報を拾ってくる。嬢ちゃんは、風向きと日の傾きの計算を頼めるか?」

「任せて」


ヘイルは片手を挙げ、軽い足取りで去っていく。背中の袋が、金具の小さな音を立てた。ギルドの空気が、少しだけざわつく。噂話が泡のように浮かび、弾け、元に戻る。


「……あれが、冒険王」

「うん」


エトの横顔は明るい。俺の胸は、少し早く打っていた。予言の最初の糸が、現実の指に触れた感覚。――それと同時に、ほんの少し、嫌な汗も滲んでいた。あの男の軽さの下にあるものを、俺の“真眼”がうっすらと覗かせていたからだ。数値なんて正確に読めない。ただ、牙がある。笑いながら、それでもいつでも噛める種類の牙が。


「行こうか、街を」

「……ああ」



昼の港町は、祭のように賑やかだった。露店の串焼き、色鮮やかな布、子供のはしゃぎ声。大通りの先には石造りの大広場。大道芸人が火を吐いて拍手が起きる。陽光はまぶしく、誰もが今日の暮らしを笑いで塗っている。


けれど、一筋脇に入れば、匂いが変わる。魚の腐った酸味、酒の安い匂い。薄暗い路地。壁にもたれた男が片目を閉じ、もう片方の手で小さな包みを渡している。受け取る指は、震えていた。角を曲がると、薄汚れた子どもが俺の腰袋に手を伸ばして、気づいた俺と目が合い、猫のようにすり抜けていった。


「これが、裏の現実」

「……見たくないけど、目を逸らしちゃいけないやつだな」


さらに歩く。倉庫街。扉の隙間から、白い顔をした衛兵が誰かを担ぎ出す。布をめくった肩に、小さな赤い点々。血色の羽虫だ。付き添う女が啜り泣き、衛兵が低い声で宥める。


「軽い症状なら休養で済む。けれど、群れに長く晒されると、体だけじゃなく心もやられる。夢に入って、帰ってこられなくなることがある」

「……だから、今日、行く」


エトが頷く。俺は拳を握り、ゆっくり開いた。胸の奥で、熱が静かに灯る。



準備は簡潔に。俺はエトと宿に戻り、水や包帯、虫よけの香草油、顔と首を覆う薄布を鞄に詰めた。エトは星型の先端を持つ小さなメイスを腰に、そして紋を刻むペンを胸元に差す。彼女の衣の内側には、衝撃を吸う細かな紋が編み込まれている。動きの邪魔にならないように軽い。


北門でヘイルを待つ間、俺は短棒を抜き、空気を切った。基礎の“纏身”を薄く。足運びの稽古を三度。呼吸を乱さない。エトは門の陰で空を見上げ、風の匂いを嗅いでいた。陽は傾き始め、影が長く伸びる。


「遅れてないか?」

「時間ぴったり」


鉄の仮面が影から現れた。肩の盾が夕陽に薄く光る。彼は俺たちを上から下まで一瞬で見た。


「悪くない。首元を布で覆う判断も、正解。――準備はいいな?」

「ああ」

「いつでも」


三人は北へ向かった。城壁を抜けると、風の匂いが変わる。湿った草の香り。低い地鳴り。遠くで蛙が鳴いている。


「黄昏は、あっという間に来る。足を取られるなよ」


ヘイルが先頭を行き、俺が真ん中、エトが後ろ。湿地の草を踏む音が重なり、空がゆっくりと赤くなる。遠くの林の上に、薄い霧の帯がかかった。


「タケシ」

「ん?」

「怖くなったら、言って。引き返しても、誰も責めない」


エトの声は柔らかく、強い。俺は首を横に振った。


「怖いさ。でも、進む」


足下で水が音を立てる。夕陽が、赤く、赤く、地面に溶ける。湿地の中央に、黒ずんだ土の盛り上がり。ヘイルが手を上げて、低く囁いた。


「いた」


空気が、変わった。ぱち、と小さな音――いや、何千もの小さな羽音が重なって、一つの膜のようになって、世界を包む。夕焼けの赤に、微かな青白い閃き。血の気を吸うような、冷たい匂い。


俺は布を顔に巻き、呼吸を浅くする。胸の奥の熱を薄く広げる。視界の隅に、星のような点が漂う――違う、虫だ。小さな、小さな血色の羽虫が、群れとなって黄昏に渦を作っていた。


ヘイルが片手を上げ、短く合図を送る。彼の指先から、見えない糸のように何かが走った。俺は短棒を握り直し、エトはペンを握る指に力を込めた。


今日の街の表と裏は、ここでひとつに繋がる。俺は息を吸い、吐いた。


「行こう」


黄昏の赤が、濃くなる。羽音が、近づく。三人は、一歩、前へ出た。

◯人物紹介

13英雄:勇者タケシ

外見:旅装の青年。即応道具を腰回りに多数。

•真眼(対象の情報・弱点を読取。過負荷で頭痛)

•武器錬成(想像を形に。登録13枠/即席切替が得意)

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