表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/41

第一話 「星を口に含んだ日」

 初めて書いてみました。よくわからない用語いっぱいあって、文章も拙いため聞きたいものがあれば言ってください。後書きで解説します。

 作った設定をメモしておらず思い出しながらその場の雰囲気で書いてますので同じ意味なのに違う用語で書いちゃったりしてます。そのうち修正したいです。

 1話あたりの文字数は2000〜6000くらいで考えてます。

雰囲気は王道な感じです。

冷たい砂利に頬を擦りつけた。鼻に塩が入り、むせる。夜風が強い。

 俺――小倉たけしは、四つん這いのまま見知らぬ海辺で息を荒げていた。


「――だいじょうぶ。ここは安全よ」


 頭上から、落ち着いた女の声。顔を上げると、夜の色を吸い込んだみたいな薄い水色の髪が目に入った。白地に金の星模様の衣、星をかたどったアクセサリー。月光を飲み込んだように、静かに光っている。

 彼女は小瓶の水を差し出し、身を屈めて俺の視線の高さに合わせてくる。


「私はエト。星見の一族のひとり。ここは“始まりの島エルノア”。――まずは水、飲める?」


 差し出された瓶の縁が、手の震えでカチカチ鳴った。口に含むと甘い。現実味が急に戻る。

 見回す。波打ち際、黒い海、崖へ続く砂の道。――駅もアスファルトも、見慣れた街灯もない。


「……ここ、日本じゃないよな」


「うん。世界の名前は“カリュオン”。あなたの世界とは別」


 さらっと言う。さらっと言われたほうは、内臓が沈む音まで聞こえた気がした。

 会社、家、家族、昨日レンチンした餃子。全部が遠のく。胸に熱と冷えが同時に走り、呼吸が浅くなる。冗談かと思った。


「返してくれ。……元に。今すぐ」


 自分でも驚くくらい低い声が出た。怒鳴りたくはない。けど、怖い。


「すぐには、むずかしい。だから――順番に話す。短くていいから、今だけ聞いて」


 彼女は砂に小さな丸を指で描き、その真ん中に指先を触れた。

 ぽん、と豆電球みたいな光が生まれる。ふわりと浮いたそれを、手のひらに乗せて見せた。


「これが“ルア”。この世界の人たちが皆、体に流している命の力。呼吸みたいなもの。私たちはそれを“律”で形にする」


「……魔法、みたいな?」


「たぶん、あなたの言葉だとそれが近い。やり方は五つ――“五律”。一つ目は言葉で現象を呼ぶ。二つ目は“紋”っていう文字や記号で効果を刻む。三つ目は“陣”、図形の仕組みで働かせる。四つ目は精霊に頼む。五つ目は……説明がむずかしい。人の資質や到達による“理の外”」


 彼女は砂の上に素早く星形を描いた。描線がふっと温かくなって、体の震えが少しだけ引く。


「――で、本題。たけし、あなたを呼んだ理由」


 星飾りが揺れ、エトは夜空を見た。星がやたら近い。


「星見の予言が下りたの。“十三人の英雄が集えば、禍星を討てる”。禍星の名はノクタル。世界を壊す存在。昔、彼を止めようとして四人の英雄が石にされた。彼はいま、完全に目覚めかけてる。だから私たちは、予言にある“十三人”を探している」


「……」


「あなたは、その一人だって、星が言った」


 喉がからからに乾いた。言葉を探す。

 運命だの英雄だの――漫画なら燃える。けど俺はページの外の人間だ。昨日まで普通に出勤して、コンビニで新作スイーツを眺めていた。

 怖いし、腹が立つ。理不尽だ。


「悪い、無理だ。俺は剣も銃も握ったことがない。ただの一般人だ。知らない世界で、知らない敵と戦えって? 帰れる保証もないのに?」


 エトは少しだけ目を伏せ、そしてこちらをまっすぐ見た。


「うん。そう言うと思った。……でもお願い。あなたが必要なの」


「……」


「もちろん、いきなり“命を懸けて戦って”なんて言わない。まずは知って、少しずつ慣れて、選んでほしい。私は、あなたを一人にしない」


「……それでも」


 言いかけた俺の前で、エトはほんの一拍、息を飲み――


「……う、うぅ……ごめん……私、ずっと……」


 潤んだ。目が、星みたいに大きく。肩が小刻みに震える。

 いや、そこで泣く? ずるいだろ、それは。


「ちょ、待て、泣くな。泣かれると……弱いんだよ、俺は」


「だって……ひっく……」


 胸の奥を、罪悪感という名の針が刺した。

 日本男児、泣いてる女の子には弱い。これは世界が違っても変わらないらしい。


「……わかった。全部、今すぐは無理だけど、とりあえず話は聞く。できることからやる。だから、泣き止め」


「――ありがとう、たけし」


 エトはぴたりと泣き止んだ。秒で。

 俺は思わず睨む。「切り替え、早すぎ」

 彼女は小さく舌を出し、肩をすくめた。


「ごめん。でも、本当に安心した。じゃあ順番に。まず、この世界の“力”を、あなたの手で確かめてみよう」



 島の裏手にある岩場。潮が足元を洗い、魚影が黒い縞になって走る。

 エトは胸の前で指を組み、短く息を整えた。


「たけし。あなたが持っているはずの“芽”は二つ――『真眼』と『武器錬成』。最初から完璧にできるわけじゃない。感覚をつかむところから」


「聞き覚えのない便利ワードだな」


「便利だよ。でも慣れるまでは刃物。だから、私の後に続いて」


 エトは俺の手を軽く握り、離す。

 手のひらが温かいまま、指示が飛ぶ。


「『真眼』は、見る力。相手の“情報”を読み取る。やり過ぎは頭痛のもとだから、浅く、短く。まずはあのトカゲ」


 岩の上のトカゲに意識を置く。

 呼吸を整え、視界のピントを一段、緩める。

 ――脳裏に、数字と短い語が“浮かんだ”。

 体長、運動、噛む力“弱”、逃走傾向“高”、ルア“微”。

 理解は、説明される前から腑に落ちる。押し付けがましくない。自然と「わかる」という感じ。


「見えた。こいつがどれくらい速くて、どれくらい噛むか、ざっくり」


「上手。じゃあ、私。短くね」


 エトへ視線を移す。

 ルア“高”。集中“迅”。第二律適性“特”。第三律適性“高”。第五律(星見)“固有”。“十秒間のこれから”を一瞬で理解する――

 ズキン、と眉間に痛み。胃の奥がひやりと引いた。


「……重い。ここまで」


「そこで止めて正解。『真眼』は連続使用でも大丈夫。でも“異質すぎる情報”は毒になる。見ない勇気も大事」


 エトが指先で空を撫でると、ひやりとした風が額に触れ、痛みが引いた。


「次。『武器錬成』。自分のルアで必要な形を“作る”。強くて複雑なものほど時間も消耗も大きい。失敗もある――たとえば鍋とか」


「鍋?」


「似たような律でたまに鍋ができる人がいるの。気にしない」


 彼女は笑った。俺は深く息を吸い、両手を胸の前で合わせる。

 “守る形”。片手で扱える小盾。

 手のひらの間に、ひやりとした重さ。白い光が凝り、丸い板へ。半透明の“円盾”が生まれた。表に簡素な紋が一文字、刻まれている。


「……できた」


「はじめてでそれは優等生。名前、つける?」


「“円盾”」


「仮登録にしてね。登録枠は有限。魂に回路が刻まれるから、後で消せない。――叩くよ」


 コン、と指が触れ、盾が澄んだ音を立てる。表面に小さなヒビ。

 俺は苦笑し、もう一度両手を合わせた。

 “間合いを作る棒”。

 ――できたのは底の抜けた片手鍋だった。


「……」


「だから、たまに鍋だって言ったでしょ」


「いや、ほんとに出るとは思わなかった」


 二人で笑った。笑える余裕が、少しだけ戻ってきた。



 そこからの一ヶ月は、地味で、痛くて、でもやたら濃かった。


 朝――崖道を走る。足に“纏身”、ルアを薄くまとって脚力と心肺を補助する。最初は足がもつれ、三日目でやっと呼吸のリズムが掴めた。

 午前――“鎮気”の訓練。目を閉じ、海音を聴き、体内のルアを落ち着かせて回復に回す。眠気と戦うのが最大の敵。

 昼――“明眼”の練習。『真眼』を浅く使い、数字ではなく傾向で把握する癖をつける。やり過ぎると眉間に針が刺さるので、一回五秒まで。

 午後――『武器錬成』。円盾を磨き、短い“打棒”をものにし、三週目には細い“鎖”の成形に挑戦。強度不足で三回に一回は千切れ、鍋率も二割は残った。

 夜――エトの時間。

 星を見て、祈って、“十秒間のこれから”を一瞬で受け取る。雲が出た夜は“仮初の星”。手のひらから生まれた明るい星の粒を空に浮かべ、疑似星座をつくる。出せる数はその日のエトのルア次第。彼女は星を並べ、静かに指を伸ばして流れをなぞり、俺には“どう動けばいいか”だけを渡してきた。


 合間に、生活の基礎も叩き込まれた。火の起こし方(第二律紋入りの火打ち石は便利だが使い過ぎると壊れる)、水の浄化(小さな陣で濾す)、簡易な帳場の設置、足の豆の潰し方。

 エトは星の衣を汚すことなく、手際よく針と糸を動かし、俺の旅袋に必要な道具をひとつひとつ足していった。


「たけし。『真眼』は“見ない”勇気も大事って言ったけど、もう一つ。“見えない”勇気も持って」


「どう違う?」


「“見ない”は自制。“見えない”は、世界に“まだわからない”を残すこと。全部を覗こうとすると、心が削れる」


「……了解。怖いし、ちょうどいい」


 そんなやり取りが、夜の砂浜にいくつも積み重なった。


 ある晩、エトは星を見たまま、ぽつりと言った。


「“禍星”のまわりに、“五穢律ごえりつ”がいる。五つの汚れた律を掲げる者たち。ぜんぶは見えない。名前も顔も確かじゃない。けど、彼らが動くと、世界のどこかが痩せる」


「……敵は五人だけ、ってことじゃないんだよな」


「うん。眷属も、信奉者も、使い捨ての駒もいる。ただ、今は覚えておくだけでいい」


 彼女はそれ以上、語らなかった。俺もそれ以上、訊かなかった。

 わからないものを、わからないまま抱える訓練は、俺が思っているより難しく、でも少し気持ちが楽になる。



 一ヶ月が過ぎる頃、俺の足は島の道を覚え、手は“円盾”の重みを覚え、心は“ここで生きている”ことを受け入れ始めていた。

 その日のエトは、いつもより髪飾りを丁寧に結い、星の耳飾りを新しい位置に付け替えていた。白い衣の裾が海風に鳴る。


「準備、できた?」


「怖いけど……できた、ことにする」


「怖いままでいい。そのまま進めるのが、いちばん強い」


 彼女は星を見上げ、それから俺に向き直る。


「最初の目標を、共有しておくね。予言で、あなたの隣にいた人物。鉄の仮面の男。――“冒険王”。名はヘイル。彼はノーザリス大陸の港町にいる。いま“血色の羽虫”って厄介な現象を追ってるらしい」


「血色の……羽虫?」


「赤い小虫。人のルアを吸う。放っておくと、街が痩せる。彼はそれを止めている。……彼に会えれば、道が開く気がする」


「名前は?」


「見えなかった。けど、鉄の仮面を被ってる。星は“その人に会え”って言う」


 鉄仮面、冒険王、血色の羽虫。

 現実感があるのかないのか、もうわからない。けれど、目の前のエトの声は確かだ。

 俺は頷いた。


「行こう。どうやって、ノーザリスまで?」


「歩いて船は危険すぎる。海は……あなたが思うよりずっと荒いから。だから――“門”を使う。星見の一族に伝わる、秘密の道。誰にも言わないでね」


「もちろん」


 森の奥、苔むした祠。壁面に、風化した星の紋が刻まれている。

 エトが額に指を当て、息を整える。紋が淡く灯り、空気が“たわむ”。夜の向こうに、別の夜の匂いが覗いた。潮と油と、人のざわめき。


「行こう、たけし」


 白い手が差し出される。俺は“円盾”を背に回し、深呼吸をひとつ。

 日本にいた俺が絶対しなかった踏み出し方で、一歩、門の向こうへ。


 星が背中を押した気がした。

 気のせいだろう。

 でも、その気のせいに、俺は救われた。



 門の先は、濃い潮の匂いと橙色の灯りに満ちた港町だった。遠くで夜更かしの酒場が笑い、露店の明かりがまだ点いている。

 通りを一本、二本と抜けるたび、異国の音と匂いが重なっていく。

 エトはフードを目深にかぶり、声を落とした。


「たけし。ここから先、私は“星見”のことをできるだけ隠す。あなたの能力のことも、むやみに人に話さないで。信頼できる仲間ができたら、そこで初めて明かす」


「了解。俺は口が固い」


「助かる。……そして、明日。あなたの身分証――“冒険者ギルド”でつくる。身分がないと、できないことが多すぎるから」


「冒険者、か。俺が?」


「うん。大丈夫。走るのも“円盾”の扱いも、この一ヶ月で十分“冒険者見習い”以上。――それに、ギルドの掲示板で、“血色の羽虫”の依頼を受けよう。たぶん、そこで“鉄仮面”に出会える」


 俺は深く頷く。夜風が喉を冷やし、心臓の鼓動が早まった。

 怖い。でも、逃げないと決めた。


「最後に、もう一つだけ。……俺さ。最初、ここに来て、全部、正直、怖かった。いまも怖い。でも――ありがとう。ちゃんと“説明してくれた”から、俺はここに立ててる」


 エトは目を丸くし、すぐに柔らかく笑った。


「どういたしまして。――勇者、たけし」


「やめろ。勇者はまだ名乗れない」


「じゃあ、“勇者(仮)”。明日には(仮)が取れるかも」


「やめろ」


 二人で小さく笑い合う。

 港の向こうで波が砕け、灯りが揺れた。

 遠くで、鉄を叩く音が一度だけ鳴る。誰かが起きて、誰かが眠り、誰かがこれから起きる厄介事の噂をする。

 世界は動いている。

 俺も、その渦に、足を入れた。


 ――十三人を集めて、禍星ノクタルを討つ。

 その物語の、いちばん最初の夜が、ゆっくりと更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ