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第十四話 「老人」

 初めて書いてみました。よくわからない用語いっぱいあって、文章も拙いため聞きたいものがあれば言ってください。後書きで解説します。

 作った設定をメモしておらず思い出しながらその場の雰囲気で書いてますので同じ意味なのに違う用語で書いちゃったりしてます。そのうち修正したいです。

 1話あたりの文字数は2000〜6000くらいで考えてます。

雰囲気は王道な感じです。



 洞の奥、古い紙を繰るような音に、油の灯がぽ、と膨らんだ。皺だらけの指がランタンの芯をいじる。灯りに浮いた顔は、岩陰の苔のように静かな老人だった。背は丸いが、背骨の芯だけは真っ直ぐに見える。手にした杖の先には、小さな第三律の補助陣が彫り込まれていた。


「……誰だ」


 ヘイルは一歩、エトの前に出た。崖から落ちた衝撃の残る肋が軋む。だが仮面の奥の目は笑っていない。片手は自然に腰の剣へ、もう片手は懐の中の“なにか”へ。


 老人は灯りを少しだけ掲げ、こちらを見た。目は澄んでいるのに、どこか遠くをいつも見てきた人の目だ。


「名乗りは大切じゃ。わしはエリオス。……お主らは?」


「俺様はヘイル。鉄の仮面のヘイルだ。で、そっちの嬢ちゃんは」


「星見の一族、エトです」


 エトは一礼したまま、目を細くして相手の気配を計る。ヘイルの肩越しに、老人の持つ杖頭の刻み、衣の継ぎ、足の運び――全部が“用の美”でできているのがわかる。隙は少ない。


「そう構えるな。万全ならまだしも、手負いのお主らには、わしは負けぬ」


 穏やかな言い方なのに、刃の背を見せられたような冷たさが含まれていた。


「試してみるか?」


 ヘイルは肩をすくめると同時に、口の中で舌を返した。仮面の下、舌下に仕込んである細い筒から“仕込み針”が、光の線になって走る。老人の眼へ、真っ直ぐ。


 カン、と乾いた音。杖の木端が針を弾いた。次の瞬間には、ヘイルは“軽歩”で間合いを詰め、片手剣を下から斜めに振り上げている。老人は第一律を短く唱じ、足元の土が槍の束のように尖って伸びた。


「――待って!」


 両者の間に、白い袖が滑り込む。エトだ。彼女のティアラが一瞬だけ光り、二人の攻撃の軌道が、紙一重で止まる。


「いきなり入るな、危ねえだろ」


 ヘイルは剣を止めた腕に痺れを感じながら睨む。老人は、口の端をわずかに上げた。


「わしは殺す気はなかったがのう。……それにしても、いまの針は普通に怖かった。やめてね、心臓に悪い」


「脅しだよ。通じるなら安い」


 ヘイルが肩で息をつく。エトは老人へ向き直り、短く頭を下げた。


「ご無礼を。……たぶん、あなたは、星見の示した“英雄の一人”です」


「こんなジジイが?」


 ヘイルが仮面の下で目を丸くする。老人――エリオスは、エトの額の装飾と、声の響きを一度確かめるように見てから、細く頷いた。


「星の匂い。……星見の一族の神子だな。無碍にはできん。ここで話すには落ち着かぬ。奥に、わしの“棚”がある。ついてこい」


 杖先で壁の封板を軽く叩くと、第三律の鍵が静かにほどけた。狭い通路の先に開けた空間――岩の内臓をくり抜いたような部屋がある。壁一面に式札の棚、机には微細な補筆が幾重にも重なった陣紙。瓶、石、羽根、錐。生活と研究のぜんぶが堆積している。


 ヘイルは歩き出した老人の背を見送りかけて、ふと立ち止まり、仮面を傾ける。


「……それと、さっき言ったけどよ。怖かったのはお互い様だ」


「はは。うむ。怖かった」


 エリオスは神妙にうなずき、また歩き出した。



 炉の前で湯が鳴る。草の匂いが立ち昇る。エリオスは、二人を木椅子に座らせた。ヘイルはエトを椅子に預け、自分は壁を背に立ったままだ。


「で、話というのは?」


「……始まりの英雄を、救いたい」


 エトが迷いなく言った。ヘイルは首を傾げ、困惑する。


「石化を、解く手がかりを探している。あなたの研究は、きっと私たちの助けになる」


「ふむ。石化か。第五で魂から器を替える外法なら……いや、現実的ではない。第三と第二の合わせ目での“緩和”……星見の子、こっちへ」


 エリオスは、机の上の古い陣紙を広げる。細く繊細な線で組まれた解除陣。その上に、彼自身の加筆痕。思考はすでに走っている。彼は問いを重ね、エトは知る限りの“石化の条件”を語った。ヘイルは合いの手を入れ、必要な物資の話に移る。


 ヘイルは疑問点が多くある中言った。


「おい、エト。始まりの英雄ってなんだ?エリオスを英雄に誘うんじゃないのか?」


 エトは手に持ったペンを器用に回しながら。不思議そうな顔を浮かべ


「始まりの英雄エイオス、絵本で読んだこと、ない?」


「いや知ってるけど、そういうことじゃねぇよ、じいさんに聞きたいことってそれだったのか?…てか、像がセリオスにあることは承知だが、石化だったのか?てかあの絵本の話本当だったのか?」


 ヘイルは溢れ出る疑問点に頭が沸騰したかのような感覚を覚える。


 話の最中、エリオスがふっとヘイルを見る。


「……それにしても、最初の一撃、どこで仕込むのを覚えた」


「企業秘密だ、そんな話はいいんだよ」


「生き残りの知恵、というやつか。良い。だが二度はやめてくれ。心臓に悪い」


「次は当ててやろうか!」


 微かに空気が和む。湯が煮え、草湯が三つの盃に分けられる。


「さて、急ぐ話は山ほどある。だがまず、お主らの傷を見よう。わしは“律師”じゃ。戦い続きでは頭が回らん」


 エリオスはゆっくりと杖先で空をなぞり、第二律で小さな修復の紋を起こした。エトの包帯の隙に柔らかな熱が入る。ヘイルの肋に“抑痛”の札が貼られる。


「……ありがとう」


 エトが小さく頭を下げ、ヘイルは仮面を触って、短く礼をした。


「礼は、後でまとめてでよい。わしには、こちらの話も山ほどある。星見の神子に会えるとは、長生きはするものだ」


 老人の眼が、灯の奥で静かに笑った。


――――


 帆布に風が入る音が、船腹の骨を震わせる。潮の匂いに、タールと新しい木の香りが混じる。二日で“家”を縫い直した女たちと男たちが、潮風のなかで息を吐いた。


「出すよ。探しに行く。……ボス(タケシ)たちを」


 マリカ・ヴェルデは、舵輪に手をかけた。頬にはまだ薄く血の色が残る。赤の代償は抜けつつある。十人の“家族”が各自の持ち場で頷いた。


「潮読み、今は東帯が押してる。流れに逆らわないで、まずは“エルリアの島”まで。七日見ときゃ着く」


 古参のガリンが答え、若いルースが帆の縁を締める。「歌うか?」と誰かが言い、誰かが「今はやめとけ」と笑った。大工肌のトゥリオは、舷側の釘を最後にひとつだけ叩いて、拳で木を軽く叩いた。


「よし」


 船は港を出た。海は、広い。


 初日の午後、見張りが叫んだ。「人影!」


 浮かぶ木片の上で、誰かが丸まっている。赤いバンダナが、塩に褪せていた。


「……おい」


 マリカが眼を細める。「拾うよ!」


 舷側から投げられた縄が、木片にかかった。引き上げられたのは、船狂いのピンと、彼の仲間二人。唇は塩で白く、手はしわしわだ。だが、目はまだ笑う力を残していた。


「お前ら、よく生きてたね」


 ピンは水を飲み、胸を叩いた。「海は母ちゃん、って言ったろ?」


「……あんた、ほんと学ばねえね」


 マリカが苦笑する。「タケシやエト、ヘイルは?居場所はわかる?」


「わかんねえ。自分たちを浮かせるので精一杯だった。へへ……悪い」


「悪くないよ。生きてるのが一番だ」


 マリカは顎で合図し、濡れた男たちに毛布を渡した。数日ののち、マリカはピンたちを冒険者ギルドのある島に降ろした。桟橋で別れ際、マリカが聞く。


「ヘイルに雇われてたんだろ? 報酬は、どうする?」


 ピンはニヤリと笑う。「お前、ヘイルのために払えるか?」


「やっぱやめとく」


「前金もらってっからいいんだ。残りは……また会った時に嫌味でも言ってやるよ」


 マリカも笑った。「よろしく言っといて」


「おう。……生きて会おうぜ」


 舷を離れた船は、また沖へ向かった。七日という約束に、帆の影が薄く長く重なる。海流の線が、海図の上に少しずつ描き足されていく。誰も口には出さないが、十人の胸には同じ言葉が置いてあった。


 ――間に合え。



 夕景の浜に、星が一つずつ灯り始める。波の音に小舟の軋みが混じり、焚き火の煙がまっすぐ上がる。


「……なあ、アル」


「ん?」


「昨日話したろ。俺の仲間たちに会ってみたいって…外は危険だけどアルなら大丈夫な気がするんだ。」


 エトの微笑み。ヘイルの悪友みたいな笑い方。マリカの、強がりの奥にある真っ直ぐ。ピンのやかましさ。みんなの顔が、夜の火に順に浮かぶ。


 アルは膝を抱え、少し海を見た。金の瞳に星が映る。


「オイラ、正直に言うと、行ってみたいって思ってる。けど…」


 彼は少しだけ唇を噛んでから、続けた。


「村のみんなは優しいから、たぶん笑って送り出してくれる。でも、“安心できるなにか”が必要だと思う」


「どうしたら、安心させられる?」


「オイラと、タイマンで戦って。勝てたら、みんな“タケシなら任せられる”ってなる」


「わかった。やってみる」


 俺は拳を握って笑った。怖さもある。でも、不思議と、嫌な怖さじゃない。



 翌日。砂浜の中央に丸く石が組まれて、そこが“土俵”になった。子どもたちが踊りながら周りを走り、若者が声を張る。老人たちは凪いだ笑顔で酒を飲み、族長は杖を振り回している。


「よーし、では、始めるよー」


 族長がなぜか腰をぐにゃぐにゃとくねらせ、両手を頭の上で回した。「ぱらぱらぱらー……はい、どん!」


「合図、独特すぎない?」


 思わずつぶやいた俺の横で、アルが笑った。金の瞳が、まっすぐ俺だけを見る。


「タケシ。来て」


「行く」


 “纏身”で身体に薄くルアを通し、“刃気”を指先に灯す。砂の上、足を取られないよう“軽歩”のリズムを刻む。アルは弓を背に回し、腰の短剣に軽く手を添えた。風が一瞬止まり、波の音だけが膨らんだ。


 ――合図は、もう終わっている。


 砂が蹴られ、二つの影が、真ん中で、初めてぶつかろうとしていた

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