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第十二話 「浜に刺さる尻」

 初めて書いてみました。よくわからない用語いっぱいあって、文章も拙いため聞きたいものがあれば言ってください。後書きで解説します。

 作った設定をメモしておらず思い出しながらその場の雰囲気で書いてますので同じ意味なのに違う用語で書いちゃったりしてます。そのうち修正したいです。

 1話あたりの文字数は2000〜6000くらいで考えてます。

雰囲気は王道な感じです。


 ――冷たい。

 ひたすらに、冷たい。


 暗い海が、肺の内側まで押し入ってくる。耳鳴りが世界を塗りつぶし、上下の感覚だけが遠い。意識の端で、別の“色”がひらく。白い蛍光灯、電車の窓、コンビニの湯気、そしてスマホの青。

 日本の、どうでもいい日常。


 くだらない動画で夜更かしして、朝の満員で押しつぶされて、缶コーヒーの甘さに誤魔化されて。あれは、平和だった。危険も血の匂いも、なかった。


(帰りたい――)


 胸の真ん中で、その言葉だけが正直に点いた。帰りたい。何度目だってくらい、そう思う。だけど、そのすぐ隣に、別の灯りが並ぶ。


 白衣の裾を揺らす“星見”の少女。

 砂の広場で汗と砂だらけになった一ヶ月の“修行”。

 鉄の仮面が鳴らす、間の抜けた足音と、とんでもない頼もしさ。

 冒険者ギルドの喧噪。初依頼の血色の羽虫で初めて味わった、成功の震え。

 海の匂い、甲板の木の温度。

 青いブローチを握りしめて戦う女船長の、歯噛みする横顔。


 ――全部、ここに来なきゃ、なかったものだ。


(無駄にしない)


 帰りたい気持ちは、胸の端で畳んでしまう。俺は“今”ここにいる。みんなが無事でいてくれ、と願う。エト、ヘイル、ピン、ニーナ、オスカー、マリカ――どうか。


 最後に、誰かの細い手首に触れた感触がした。握り返す前に、意識は暗い底へ沈んだ。



 潮の匂いで目が覚める。

 オイラは弓じゃなくて、釣り竿を肩に引っかけた。今日は見張りの番だけど、村の見張りは“耳と目”が仕事だ。手は空いててもいい。


 この島は、やさしい。潮はおだやかで、森は香りが良い。みんなの顔が見えるところで暮らせる。十分、しあわせだ。

 それでも――たまに“外”をのぞくのが、癖になった。


 足場のいい岩に座って、眼を細める。“千里眼”と村の古老は呼んだ。第四の精霊が、オイラの眼に景色の糸を結んでくれる。

 今日の外は……荒れてる。ずっと遠くの海が、黒い背を丸めてる。潮目の色も、いつもと違う。


 視線を手前へ戻すと――砂浜に、何かが“刺さっていた”。


 ……ひっくり返った蛸、じゃない。

 もっとこう、長い。布。脚、みたいな。

 お尻だけが青空に向いてる。


「……新種?」


 オイラは竿を置いて、村へ駆け戻った。


「族長ー! 砂浜に“お尻の生き物”がいます!」

「おや、また珍妙だねえ。みんな、綱と担架を持っておいで」


 普段のどかな村は、こういう非常事態に弱い。わたわたと鍋の蓋を持ってくるやつもいれば、なぜか斧を持ってくるやつもいる。

 とにかく、十人くらいで砂浜へ向かった。


 近づくと、それは“人”だった。

 頭から砂に刺さって、お尻だけ出ている“人”。動かない。息は――どうだろう。

 オイラは細い棒で、そっとつついてみた。


「……」


 反応がない。

 もうちょっとだけ、つついてみた。角度が悪かった。棒の先が、ふいっと滑って――


「ふぎゃああああああああああ!!!!!」


 砂が弾け、尻が星みたいに跳ねた。

 誰も見たことのない奇妙な踊りを披露したあと、その“人”は再びばたりと倒れて、静かになった。


「――生きてるねえ。よかったよかった」


 族長が、のほほんと頷く。村のみんなも「生きてるー」「よかったー」と手を叩いている。

 オイラは棒をそっと砂に戻して、手を合わせた。


「ごめん」


 とりあえず、担架に乗せて、村へ運んだ。



 霧が白い森を這い、苔むした岩が背骨みたいに連なっている。

 ヘイルは濡れた仮面を外さず、樹の根に背を預けて息を整えた。胸装の杭は戻してある。結界を“受容”したせいで、肋の内側がまだ痛む。


「……ここ、どこだ」


「星の位置…ノーザリスの北端、未踏域。……たぶん」


 エトは浅く微笑んで、調息で震える指を垂直に落とした。ティアラの星は沈黙している。仮初の星を使える余裕は、いまはない。

 ヘイルはポーチを探り、薄い布巻の包みを取り出す。


「糖分。舐めとけ。……俺様も欲しい」


 二人で砂糖を舐めながら、短く笑った。

 森の向こう、古い石の柱が半ば土に埋もれている。誰かの生活の匂い。

 ヘイルが耳を傾ける。風に混じって、遠くから“金属と紙の音”――細かな術具と陣紙が擦れる音がする。


「誰か、いるな。……面白い匂いだ」


「会えるといいね」


 ふたりは、湿った葉を踏む音を小さくしながら、音の方へ歩き出した。



 波で叩かれた岩のひさしの下。

 マリカは腹這いで砂をかき、ひとり、ふたりと、顔を砂から掘り出した。

「起きろ、死んだらぶっ飛ばす」


 十。数は合った。息をしている。

 緑の弾はもう空っぽだ。薬草を噛んで唾液で溶き、傷口に塗って縛る。

 海は、憎い。


「……青は、取り返す。あたしのだ」


 拳を握ると、赤い血がにじんだ。脈が乱れる。

 仲間のうち二人が目を開けて、「隊長」と言った。彼らはまだ、笑える顔をしていた。それだけで、十分だ。


「まずは火。次に水。――それから、船」


 島の高みに焚き火の煙を上げる。近くの島に合図が届くはず。

 風に乗って、どこかで鳥が鳴いた。

 マリカはリボルバーをそっと胸に押し当て、唇を一度強く噛んでから、顔を上げた。


「生きるよ。働け」


「おう!」

◯人物紹介

第三律:織陣のアルガス

•外見:顔半覆いの面布、指に金環、携行“織り台”と導線札。

•中核能力:陣織・上書き・転写。

•織り台:水面や地面に格子陣を“織る”。減速格子/反詠障/足場生成。

•上書き(オーバースティッチ):他者の紋・陣を上から縫い替え、反転・希釈。

•縫い返し:身代わり布による一度きりの自動脱出。

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