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第十一話 「黒潮落差・織られた罠」

複数視点に挑戦しました。短くなっちゃいました。


 初めて書いてみました。よくわからない用語いっぱいあって、文章も拙いため聞きたいものがあれば言ってください。後書きで解説します。

 作った設定をメモしておらず思い出しながらその場の雰囲気で書いてますので同じ意味なのに違う用語で書いちゃったりしてます。そのうち修正したいです。

 1話あたりの文字数は2000〜6000くらいで考えてます。

雰囲気は王道な感じです。




 夜眼の裂け目が、ふたたび“まぶた”をあけた。

 薄闇の口が、海の呼吸と噛み合うわずかな時間。舳先が黒へ滑り込み、板が鳴る。


「前帆、半! ニーナ、傾斜二! オスカー、潮筋を読む!」

「了解!」


 ピンの声がはね、船が身をかがめる。俺はすでに“纏身”で全身に薄くルアを巡らせ、呼吸を整える。エトがティアラに触れ、仮初の星を天井に点じた。散らした星が洞の結節を照らし、彼女の“星読み”が十秒の未来を掴み返す。


「タケシ、三、二、一――左舷支柱から“鉤綱”を岩棚へ。すぐ“鎖錨”に切替」

「了解!」


 想像を形に。右手にフック付きの太綱、投げて噛ませ、次の瞬間には“鎖錨”が掌に生まれる。鎖の重みに鼻先が沈み、頭上の岩角が髪を撫でた。


「水面、鈍らせる」

 ヘイルが“重盤”を次々と投げ込み、波の山を平に潰していく。間欠的に現れる“踏み石”が道になる。仮面の奥の視線は、軽口に似合わず鋭い。


 道中の罠は、ひとつずつ潰した。第三律の“反響紋”はヘイルの封糸で口を縫い、俺は“回環刃”で格子の結節だけを切り、エトがわずかな“補筆”で穴を塞いだ。牙をのぞかせた“渦眼鰩”が一度だけ現れたが、マリカの黄で視を狂わせ、青で内部を穿ち、俺の鎖錨で引きはがして沈めた。


 黒が、急に“落ちる”――。


 目の前に、闇そのものの滝が現れた。

 黒潮落差。洞の底へ黒い瀑布が落ち、飛沫は光を呑んで消える。瀑布の脇、岩棚一面に細い“糸光”が張られていた。十字に、斜めに、幾重にも。奥には“織り台”。四本の“禍杭”が台を床に縫い止め、そこから引かれた導線が――


 “青のブローチ”へ、注がれていた。


 月を閉じ込めたみたいな青が淡く脈打つ。ブローチを銜えた台に、海のルアが吸い込まれていく。


「――何してるか知らんが、とりあえず止める」


 ヘイルだった。舷側を蹴ったと思った瞬間、仮面の男は垂直の壁を駆け上がっていた。靴底が「プニ、プニ」と鳴る。耳に残る間の抜けた音が、逆に空気を緊張させる。


 織り台の前に、細身の男が立っている。半面布で口元を隠し、指に金環。躰の周りに糸が浮き、彼の意思に合わせてゆっくり呼吸するよう揺れる。


「せっかちは、長生きできませんよ」


 アルガス。第三律の高手。

 淡々とした声と同時に、右腕へ糸が巻きついた。糸は層をなし、金属のような光を宿す。ヘイルの片手剣が火花を散らして受け止められた。


「耳障りな足音です」


 左腕にも糸が巻かれ、強化。拳が仮面めがけて走る。

 ヘイルは“受流”で縦に受けたが、衝撃を捌き切れず、壁に叩きつけられる。背が岩を打ち――落下。だが胸装の“杭”が甲板へ“ガキン”と飛び出し、彼自身を壁に縫い止めた。落ちない。


「しぶといですね。さすがS級」


 アルガスの視線が、興味なさそうに滑る。

 俺たちは同時に駆けた。エトは仮初の星を追加で三つ点じ、目を細める。マリカはリボルバーを回し、肩を小さく回した。ピンとニーナが綱を張り、落水救助の線を二重にする。


「接近戦もできるんですよ、私は」


 アルガスの躰が、糸の鎧に覆われた。腕だけじゃない。肩、胴、腿。編まれた装甲が微細に収縮しては膨らみ、衝撃を散らす。足元には“減速格子”、周囲には第一律を鈍らせる“反詠障”。織り台からは、つねに新しい糸が供給されている。


「マリカ、護衛なし。狙いは一人」

「了解。うちは、うちのやり方でやる」


 マリカが先んじて黄を一発。弾が光を弾けさせ、アルガスの視界と平衡感覚に“ゆらぎ”をつくる。続けざま、甲板桶の水へ銃口を当てて青――“水穿”。一条の青が糸鎧の継ぎ目を狙って潜り込む。


 俺は“回環刃”で格子の結節だけを断ち、足場をこしらえた。切り過ぎればこちらが沈む。結節を見つけるのは真眼――頭痛の予兆がこめかみを刺す。だが、見る。

 エトの声が落ち着いて飛ぶ。


「三秒後に“上書き”。タケシ、盾、穴が開く。私が“補筆”で塞ぐ――ヘイルは右上、二歩先へ“重盤”」


「任せろ」


 ヘイルは胸の杭を抜き、壁を蹴って戻ってきた。仮面の下の呼吸は荒いが、動きは鈍らない。投げ込まれた“重盤”が水面を鈍らせ、俺の“簡盾”の表面には――やはり“上書き”の糸が走る。

 エトのペン先が空を走り、穴が塞がった。


「熱、だ」

 真眼が、アルガスの糸鎧に“柔らかくなる温度域”を浮かび上がらせた。視界の隅が揺れ、胃の底が冷える。だが、見えた。


「火が弱点。糸、熱で脆くなる」


 即座にヘイルが片手剣を換える。鞘から抜かれた刃の根元に、紅い紋が浮かんだ。剣が息をし、刃が灼ける。エトも短く詠じて第一律の“火槍”を細く重ねる。エトは火が得意ではない。だが、補助で十分だ。


 剣閃が糸を撫で、火槍が熱を差し込む。糸鎧の一部が溶け、ほどけかける。そこへマリカが赤――“凝血”。自分の指先を噛み、血で銃身をなぞって継ぎ目に“固まり”を作る。硬化したそこを、俺の“回環刃”が正確になぞって断つ。


 形勢が、少しずつこちらに傾いた――そのはずだった。


「では、こうしましょう」


 アルガスの織り台が“音”を変えた。

 床と壁に張られていた網が、瞬時に組み替わる。糸が“縫い代”を飲み込み、空の図形が別の意味になる。俺は一瞬だけ、頭の中で“つまり――”と結びかけた。


 ――地雷原だ。


 糸の結び目が、一斉に爆ぜた。

 岩棚が跳ね、視界が白くなる。俺は“簡盾”を胸の前に立て、エトへ体を投げる。“受流”で衝撃の向きを変えるが、爆圧は容赦がない。マリカが甲板に膝をつき、ピンが舵から片手を離して壁に叩きつけられた。ニーナの腕が裂け、オスカーの額が割れて血が落ちる。


 ヘイルだけが、壁を走っていた。床が地雷なら、壁へ逃げる。靴底が「プニ」と鳴り、仮面が火花の向こうを走る。


「星読み――三、二、一……今!」


 エトの指示で、俺は彼女を庇いながら斜面を滑る。耳の奥で世界が鳴っている。アルガスがすでに距離を詰めていた。糸で補強した拳が、エトの胸を――。


「させるか」


 ヘイルの盾が割り込んだ。

 結界杭を“受容”のまま、躰ごと差し出す。次の瞬間、盾ごと胸装が歪んだ。血の匂い。ヘイルの身体が斜面に叩きつけられる。杭が二本、甲板へ突き刺さったまま。

 ヘイルは笑い声にも似た息を一度吐き、そのまま意識を落とした。


「――!」


 喉の奥に何かが熱くこみ上げ、握った“回環刃”が鳴った。アルガスは無表情のまま距離を詰める。


 マリカが、立っていた。

 顔色が白い。唇を噛み、銃身を胸に押し当てる。


「……うちは、あんたらに借りがある。うちの仲間にも――借りがある」


 リボルバーの空室に、何も“装填”されない。

 彼女は自分の胸に手を当て、目を閉じた。息が短くなり、肩が震える。

 白。隠し弾――“命脈”。


「撃つな」って言いかけた言葉は、間に合わなかった。

 アルガスは、その気配だけで半身を捻る。避けるつもりだ。なら――


「動くな!」


 俺は“鉤綱”を床の杭に掛け、もう一端をアルガスの足へ“打った”。糸鎧の隙間、足首の僅かな柔い部分を、真眼で無理やり割り出して。頭痛が爆ぜる。


 白が走る。

 弾は光らない。空気が一瞬だけ静まり、次の瞬間――アルガスの躰から“青白い”何かが引き剥がされていくのが、俺の目にだけ見えた。生命の糸。

 吸われる。マリカの“命脈弾”が、標的の生命力を剥ぎ取り、周囲に還す。


 俺の腕の疼きが引いた。裂けたニーナの腕が閉じ、ピンの額から血が引く。エトの呼吸が少し、深くなる。


「っ……!」


 アルガスが初めて声を漏らした。糸鎧が僅かに緩む。俺は“杭縄”で両腕を縫い止め、膝裏に“鎖針”を打って屈ませた。


「――起きろ、ヘイル。出番だ」


 ヘイルの肩を叩いたのは、俺じゃない。マリカだった。

 彼は一度だけ大きく息を吸い、目を開け――“全装掌握”の鎧を己の躰へもう一段深く噛ませた。

 仮面の奥で、笑う。

「了解」


 拘束されたアルガスの顔面へ、膝。

 胴へ、拳。

 火剣の峰で、糸鎧の継ぎ目を叩き、叩き、叩き――砕く。

 俺は見ていられなかった。けれど、目は逸らさなかった。


 やがて、アルガスはぺたりと膝をついた。織り台の音は止み、青のブローチへの導線は断たれている。


「何が目的だった」


 ピンが舵柱にもたれたまま、唸る声で問う。俺も喉を鳴らし、続けた。


「ブローチで、何を――」


 アルガスは、半面布の内側で、口角だけをわずかに上げた。


「殺しなさい」


 それだけだった。

 挑発とも嘲笑ともつかない、淡い声音。彼の眼は、ここにいない何かだけを見ている。


「連れ帰るか」「情報を引き出すなら、生かして――」


 その瞬間、足元が“鳴った”。

 洞の奥から、低い喚風音。床の糸光が、色を変える。

 同じ“第三”の気配。でも、違う。――重なる“第四”。


「海が、息を止めてる……」


 エトの囁きに、背が冷えた。


 黒い落差の上方、洞口に近い水面が“静止”した。波が止まる。風が止む。

 水の精が、抑え込まれている。

 そこに“立つ”影がひとつ。フード。顔は見えない。だが、周囲の空気が“水”の意思で満ちる。


 そいつは、指をひとつ、“折った”。

 アルガスの躰が、織り台からほどけ、床の糸ごと引き寄せられる。青のブローチも、吸いつくようにそいつの掌へ走った。


「待て!」


 ヘイルが投げた“重盤”が、空で失速する。見えない“壁”に押し返された。

 マリカが黄を撃ち、青を撃ち、俺は“鎖針”をもう一度――全部、届かない。


 洞が、崩れ始めた。

 糸の“自動縫合”が逆回転し、岩が糸で引き寄せられては砕ける。

 ピンが舵に飛び、ニーナが綱をまとめる。


「撤収! 今は生き残れ!」


 走った。

 落石を“受流”で斜めに払って逃がし、エトの星読みで“隙間”を潜る。マリカが緑で負傷者の足を立たせ、ヘイルが“吸着掌”で滑る者を引っ張り上げた。

 黒潮落差が背に遠ざかる。裂け目が、閉じる。


 外の海は、荒れ狂っていた。――はずだった。

 俺たちの船の前だけが、不自然なまでに静止している。波は動かない。白波が“像”になって留まり、海というよりは巨大な“水の板”。その先、わずかに離れた海面が膨らみ始める。


 “津波”。


 ピンが舵を固定し、目を剥く。

 静止域の縁で、厚い水壁が立ち上がる。遠く、敵の小型船――いや、船に見える何か――の甲板に、さっきのフードの影が立つ。その足元に、肩で息をするアルガス。


「行く」


 ヘイルは言うや否や、縁から跳んだ。

 壁走り。プニ、と一度だけ鳴った音が、耳に刺さる滑稽さを連れて脳裏に焼きつく。

 次の瞬間、彼は敵の甲板に立っていた。火剣が閃き――


 ぶらり、と、何かが空へ描く弧。

 アルガスの右腕が、肩口から飛んだ。半面布の下で、彼が初めて“苦痛”の声を漏らす。


 だが、そこまでだった。

 フードの影が、ヘイルの胸を“蹴った”――ように見えた瞬間、仮面の男の躰が水の板に叩きつけられ、凄まじい勢いで“流された”。


 同時に、静止がほどけた。

 壁の水が、牙を剥く。

 巨大な波が、俺たちの船をまとめて呑み込んだ。


「掴め――!」


 ピンの声が“ちぎれ”、甲板が空に投げ上げられ、世界がひっくり返る。

 エトの腕を掴んだ。いや、掴んだつもりだった。指先から熱が抜け、手が離れる。

 海が全身にのしかかる。冷たい。重い。息が、ない。


 仰ぐ。星が――ない。

 ただ、黒い天井と白い泡。耳の中で世界がごうごう鳴り、喉が焼ける。

 体が勝手に“纏身”で収縮し、肺に残った空気を守ろうとする。無意識に“浮”のイメージでルアが動き、何かにぶつかって回る。


 視界の端に、仮面が一瞬だけ光った気がした。

 ヘイル。流される先は――ばらばらだ。


 俺はただの人間だ。

 こんな波に、抗えるほど強くはない。

 でも、離すものか。俺の仲間は――


 指先が、何かに触れた。柔い。布。

 エトだ。俺は、彼女の手首をもう一度、今度は骨が軋むほど強く握った。

 暗い海が、俺たちを引き裂こうとする。


 ――行く先は、海だけが知っている。


 意識が、そこで落ちた。




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