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2-3.バスに揺られて

 サミットは両日とも、何事もなく終了した。

 首脳たちは自治州へと帰り、報道陣も撤収。

 あとは残った職員たちで、夜遅くから会場の片付けが開始。


 とはいえ、不測の事態に備え、片付け中も警備は継続される。

 夜勤組への情報共有を兼ねたミーティングを終え、各々が帰り支度を始めた。


 緊張から解き放たれたのか、ロッカールームの隊員たちは笑顔だ。

 先進国から来た彼らにとっては、未開の大陸は物足りなかったことだろう。

 帰って美味い酒を飲もう。ボクシングを見よう、ジャズを聞きに行こう。という声が口々に上がる。


「あれ、シキだよな?」

 名を呼ばれ、シキは振り返る。


「髪、染めたのか。気づかなかったよ」

 声をかけたのは、体格の良いスキンヘッドの男。


「アレックス、久しぶりだね」と、シキは目を細めた。

 IMO設立当初からいる、五十代の古参傭兵だ。


「髪が傷むからね、アレックスは大丈夫?」


「そうだな、この日差しだと……。やかましい、傷む髪なんてねーよ!」

 ノリツッコミの腕は、一級品である。


「クローネの件、大変だったな。……おっと、これ以上は聞かないぜ」

 流石は古株、余計な詮索はしない。


「そうしてもらえると助かる」

  

「しっかし、お前も災難だよな。休む暇もなく、次の任務に飛ばされるなんてさ」


「そうなんだよ、ひどくない?」

 両手を叩き、シキは口を尖らせた。


「どーせ、クローネから報酬を貰えなかったことが不満なんだよ。オヤジは、俺に八つ当たりしてるんだ」


「そいつは、面白い話が聞けそうだ」

 ここではやめとくけど。とアレックスは首をすくめた。


「お前は修道院に泊まってるんだっけ? 俺は聖地(ここ)さ。可哀想だろ?」

 

「ここからだと、市内まで遠いもんな」

 御愁傷様。と両手を合わせ、シキは茶化す。


「あぁ、飲みに行くのも一苦労。つっても、最近は強盗が多いらしくてな。ほとんどの店が早仕舞いしているんだ」


「新聞で見たよ。聖地のお膝元で盗みとはね」


「なんでも、金じゃなくて宝石や骨董品ばかり盗むって話だ。盗品なんて、すぐに足がつくのにな」

 しかも。とアレックスは人差し指を立てる。


「何も取らずに、立ち去る場合も多いってよ。札束があっても一切、手を付けないんだと」


「へぇ……。あ、バスに乗り遅れる」と、シキは壁時計を見た。

 IMO専用の送迎バスを逃せば、真っ暗な道を徒歩で帰ることになる。


「もう行くよ。サミットが終わったらベイツリーに帰るから、また話そう」


「引き留めて悪かったな。じゃあな」


 ロッカールームをあとにし、シキは小走りで正面入り口へ。

 ちょうど乗車が始まった頃だ。バスに乗り込み、窓際の席に座る。


 程なくバスが動き出し、シキは車窓を見た。

 地平線の彼方まで、闇が広がっている。灯りの少なさは、アリステラとは雲泥の差。

 その代わり、夜空に(またた)く星は降ってきそうなほど近く、はっきりと見える。


 明日でサミットが終わる。その次は特命が待っている。

 ベイツリーに帰れる。とアレックスに言ったが、いつになることやら。


 修道院までの道のりは約三十分。とにかく、今日は早く寝たい。

 荒野を走るバスの振動に身を委ね、シキは目を閉じた。

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