表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/55

2-2.足枷

「え?」

 目を見開き、ペルフェは動きを止めた。


「な、なんで知ってるんですか!?」

 ボボボッと、みるみるうちに顔が赤くなる。


「だって、アルバを(そその)したの俺だもん」

 ニタニタと笑うシキの顔は、悪童そのもの。


「えっ!?」


「相談されたんだよ。アルバは君のことが好き。だけど立場上、難しいからどうしようって」

 テーブルを指で叩き、感慨深そうに目を細めた。


「告白したあとも、かえって君を混乱させてしまった。とアルバは悩んでいた。……実を言うと、俺も懸念していたんだ。君が立場に苦悩するだろうと。だけど、諦めろとも言えない」

 

 動揺しているのか、ペルフェは目を忙しなく泳がせた。

 逃すまいと、シキは身を乗り出す。


「結果的に両思いってわかったんだけど、君は葛藤(かっとう)している。……君の本心はどうなの? それを聞かせてほしい」


「わ、私は──」

 視線を落とし、ペルフェは組んだ両手を握りしめた。


「誰も咎めない。……もちろん、ミウルギアも」

 最後の言葉はシキの声と、誰かの声が重なった。


 人気のないカフェの隅。窓辺に座るシキに、陽光が降り注ぐ。

 光を(まと)う男の背後に、ペルフェは微笑(ほほえ)む老人を見た気がした。


「……本当は、アルバの隣にいたいです」

 しばらく経って、小さな声が上がる。


「実家のご近所さんや知り合いも『ペルフェとアルバはお似合いだね』って冷やかすんです。……それが嬉しくて」


「あぁ、そんなこと言ってたね」

 シキは、港町の食堂でのやり取りを思い出した。


「それって、皆、気づいてるんだよ?」


 その言葉に、ペルフェはハッと顔を上げた。

「そうでしょうか」と、独り言が漏れる。


「君は気持ちを隠すのが上手だけど、アルバはあからさまだからねぇ」

 初対面の俺でもわかったし。とシキは苦笑。


「義姉弟とか関係ない。自分の気持ちに素直になるといい。……もし、周囲の目が嫌だと言うのなら、サクスムを出ればいい」

 

「それって、修道女をやめるということですか?」

 困惑気味に、ペルフェは身を乗り出す。


「そう、違う環境で生きる。君たちが義姉弟だと知る人はいない。……どう?」


「ですが、私には弱き者を助けるという使命が──」

 ペルフェの反論は、伸びた手に止められた。


「それは、修道女じゃないとできないことかな?」


「……あ」

 正鵠(せいこく)を射るような言葉に、ペルフェは声を詰まらせた。


「言っておくけど、俺は聖職者を(おとし)める気はない。……何の制約もなく、世界を自由に飛び回れる人こそ、多くの人を救えると思わない?」

 穏やかな口調とともに、シキはペルフェを真っ直ぐに見た。


「正直、修道院の規律は足枷だ。……君はまだ若い。そして強くて、誰にでも優しい。サクスムの修道院で一生を過ごすのは、すごくもったいないと思う」


 うつむいたまま、ペルフェは反論しない。

 打ちひしがれているわけでも、怒っているわけでもない。ただ、動揺している。 


「……いつだったかな。『世界』という言葉に、反応したことがあったよね? その時に思ったんだ。君は、外の世界に憧れているんじゃないかって」

 シキは、炊き出しの日を思い出した。

 食堂で交わした会話。「世界を飛び回る」という言葉に、ペルフェが食いついたことを。


「多分、君は気づいている。修道院を出た方が、自分のやりたいこと──『人助け』ができると」

 身を引き、シキは反応を待つ。

 

 その時──。

 ペルフェの頬に、一筋の涙が伝った。右目から流れる涙は、嬉しい時のもの。


「誰かに言って欲しかった」と、消え入りそうな声が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ