1-3.恋バナ・再び
ペルフェが去ったあと──。
「……なんかあった?」
扉とアルバを見やり、シキは首をかしげた。
「ペルフェ、お前と目を合わせようとしない。……ん? まさか──」
両目を皿のように開き、身を乗り出す。この男の勘は、女のように鋭い。
「……告った」と、アルバから消え入りそうな声。
「えぇ!? このタイミングで? まぁいいや、やったな!」
「痛い! 痛い!」
傷だらけの背中を叩かれ、アルバは顔をしかめた。
「で?」
そのあとは? とソファに座り直し、シキの目は爛々と輝く。
ここだけ見ると、野暮な男だ。
「……混乱させちゃった。ペルフェには、色々と立場ってもんがあるから」
視線を落とし、アルバは暗い表情。
「でも、俺のこと『好きだ』って言ってくれた」
あの時の高揚感を思い出したのか、照れ笑いが漏れる。
「お前ら、両思いだったの? なんだよ」
うらやましー。とシキは、棒読みで茶化す。
「背中を押してくれたのは、あんただ。それに、この事件がなかったら、俺はずっと弟のままだった。でも──」
膝の上で拳を固め、アルバはうつむいた。
「……ペルフェ、葛藤してた。神や誓いを捨てることとか。……俺が、義弟であることとか」
「まぁ、そうなるよな」と、シキは足を組む。
「俺、なんて言ったらいいかわからない。ペルフェを混乱させたのは、俺のせいだから」
額に手を当て、アルバは憔悴しきった様子だ。
両手を組み、シキは歯の隙間から息を吸う。
「……一つ聞くけど。お前、ペルフェを諦めるつもりはないよな?」
「ない」と秒を置かずに、アルバは即答。
鋭い目が、シキを真っ直ぐに見た。
緑色の目に、シキは親近感を覚える。
ある兄妹と同じ、グリーンアゲートのような緑色。
あの兄妹の目は澄んだ光を宿していたが、こちらの目はギラギラと輝いている。
「じゃあ、俺がペルフェと話す」
「……え?」
なんで? とアルバは首をかしげた。
「ここからは、第三者の後押しが必要だ。お前が甘い言葉で口説いたところで、ペルフェを余計に混乱させるだけだよ」
「それは……否定できない」
「なに、もう口説いたの?」と、シキは悪童顔。
「からかうな! そもそも、口説くなんて性に合わないんだよ!」
アルバは顔どころか、耳まで赤くなっている。
「だろうね。……成功するかわからないけど、やるだけやってみるよ」
「頼りないんだけど」
眉をひそめ、アルバは険しい表情だ。
「こればかりは、ペルフェ次第だからな。……彼女みたいな芯のある子は、自分の中で答えが出ているもんだ。その答えが、お前と同じものだったら楽なんだけどな」
「……ずっと思ってたんだけど。なんで、そんなに女心がわかるの?」
「これでも、お前より長く生きているからね」
年の功ってやつ? とシキは笑う。
刺すようなアルバの視線に、片眉が上がった。
「……お前、俺が遊んでると思っているだろ。とんだ偏見だ」
「違うの?」
「違うね。俺は一途だ」
腕を組み、シキは鼻を鳴らす。
「へぇ、どのくらい?」
目を細め、アルバは小馬鹿にしたような表情だ。
「……そいつのために、気象兵器になった。ってぐらい」
「え?」と、アルバの頬が引きつった。
「狂ってるだろ」
予想通りの反応に、シキはこの上なく愉快そうだ。
「なんで、そこまで?」
「理由を話せば、長くなる」
そうだな。とシキは天を仰いだ。
「いつか……サクスムの外で会えたら、話してやるさ」