1-2.初対面
遠くで聞こえた喧騒に、シキの目が開く。
腕時計に目をやれば、午前十時を回っていた。
五時間ほど眠っていたらしい。
ゆっくりと体を起こし、洗面所へ向かう。目の下にはクマが広がり、どこか老け込んだ印象だ。
洗顔を済ませると、鏡にアネモスが映る。
「ペルフェとアルバが、戻ってきたらしい」と、扉を見た。
「それは、急がなきゃ」
タオルを椅子に放り、シキは半長靴を履く。
昼前の、強めの光が降り注ぐ廊下を、早足で抜けた。
階段を下りてすぐ、まとめ役の修道女に呼び止められた。
「セトウさん! 今、呼びに行こうかと。ペルフェとアルバが、探していました」
行きましょう。と修道女とシキは、談話室へ向かう。
「何があったのか、ペルフェから聞きました。あなたが、助けてくれたことも」
「朝方は何も話せず、申し訳ありません。あの時は、情報が錯綜していたもので」
適当にあしらってしまった。とシキは、重ねて謝る。
「お気になさらないでください。……神父様のことも聞きました」
修道女の顔は見えないが、声が揺れた。
「そうですか……」
シキは、それだけしか言えなかった。
クルーガーは見事なまでに、他の模範のような神父を演じていた。
彼の死は修道女たちに、とてつもないショックを与えただろう。
「では、私はここで」と会釈し、修道女は立ち去った。
扉を開けたと同時に「あっ!」と、嬉しそうな声が上がる。
満面の笑みで迎えるペルフェは、シャツにキュロットパンツというラフな格好。
「どうも」と、車椅子のアルバは頭を下げた。
二人の背後に、見知らぬ壮年の男女。
男は黒目に、長いまつ毛と猫っ毛。その顔に、シキは既視感を覚えた。
「この方が、私とアルバを助けてくれたの」
「おぉ!」と男女は、シキに駆け寄る。
「ペルフェの父です! こっちは妻です! この度は、本当にありがとうございます!!」
シキの手を両手で握り、父は涙をこぼす。ハンカチで涙を押さえる母も、何度も頭を下げた。
「あ、いえ。……お子さんたち、無事で良かったですね」
寝起きかつ、両親の登場に虚を突かれ、シキはありきたりな言葉しか出ない。
「聞けば、IMOの傭兵さんだとか! サミットの際は、いつもお世話になっております!」
「いえいえ、こちらこそ」
「二人が誘拐されたって聞いて、生きた心地がしませんでした。だから、本当に、……本当にッ!!」
声を震わせ、父は感極まる。
「おじさん、しっかりしてよ」
「無事で帰ってきたんだから、もう泣かないでよ」
アルバとペルフェの言葉に、父はタジタジ。
何度も何度も頭を下げ、両親は修道院をあとにした。
「すみません、驚かせてしまって。命の恩人に、どうしても会いたい。って言って聞かなくて」
ふぅ。と息を吐き、ペルフェは扉を閉めた。
「……素敵なご両親じゃない」と、シキはソファに座る。
「ところで。アルバ、もう退院したの?」
「うん。打撲のせいで、まだ立って歩けないけど」
ペルフェに車椅子を押され、アルバはシキの前へ。
「あの時のお前、すごく立派だったよ。ペルフェのこと、守れたじゃないか」
「あぁ」
ありがとう。と呟き、アルバは素直に頭を下げた。
「……そうだ、礼拝に行ってきますね」と、ペルフェは立ち上がる。
そそくさと、談話室を出て行った。




