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1-1.微睡の中

【ここまでのあらすじ】

クルーガーは異民のケルツェ人であり、妻子をレヒトシュタート帝国に殺された過去を持っていた。復讐心を胸に帝国を滅ぼすため、残渣を探していたのだ。結果、エザフォスに乗っ取られ、悲惨な最期を迎えた。

事件解決の裏で、アルバは一世一代の告白に出る。なんと、両思い。

しかし、恋した相手が義弟であること。修道女としての誓いを破ることに、ペルフェは苦悩する。

答えの見えない状況を打破するには、やはり、あの男が鍵となる?

 四時間に及んだ、参考人聴取のあと──。

 警官の運転で、シキは修道院まで送り届けられた。

 

「おやすみなさい。もう朝ですけどね」と警官は笑い、車は走り去った。

 

 もちろん、これで終わりではない。


「何があったのですか」と、修道女たちに囲われた。 

 ペルフェやクルーガー、さらにシキがいないことに気づき、日出前から待っていたらしい。


「今は、何も言えません」の一点張りで、シキは客室へ逃げ込んだ。



 ギィ。と客室の扉が開き、廊下の光が差し込む。

 

 靴底を擦りながら、シキは歩く。そのまま、ベッドに倒れ込んだ。

「もう朝だよ……」と、潰れた声が上がった。


 言葉通り、窓の外は白んでいる。

 長かった夜が終わり、一日の始まりが訪れようとしていた。


「あっさりと信じてくれて、よかったな」と、アネモスの声。

 シキの胸から、光の球体が飛び出した。


「あぁ……」と上がる、瀕死の声。


「お前さんが聴取を受けている間に、私も情報を集めたぞ」

 ソファに座り、アネモスは得意げだ。


「拘束した男たちは、ペンダントが狙いだと知らなかったらしい。事務所跡にいた連中だけが、クルーガー直属の部下だそうだ」


「へぇ」とシキから、少しだけ色のついた声。


「それと、ストーカーの件だが。犯人は元々、ペルフェに好意を抱いていた。そんな時、ある男が接触し『自分もペルフェのファンだから、部屋に忍び込もう』と(そそのか)したそうだ。……誰だと思う?」


「……早く教えて」


「お前が倒した守衛だ。ペルフェに会いたいがために、守衛になったと言ったそうだ。まあ、嘘だろう。ストーカー男の証言確認のために、警察が修道院へ来たが、なぜか、気絶した守衛が車庫に縛られていたとか」


「拘束する手間が省けてよかったね」


「あの場に、守衛がいたのも納得できる。逃亡するために車庫に来たのだろう。そこで、お前と鉢合わせしてしまった」

 不運な奴だ。とアネモスは腕を組む。


「ケルツェ解放軍の連中が、サクスムに来たのは約二ヶ月前。『難民が増えた』という、国境警備局の証言と一致する」


 シキは、何も答えない。

 ついに寝たか。とアネモスが呟いた直後、声が上がる。


「……そっちの依頼も完了できたし、一石二鳥だね」

 

「そうだな。解放軍は難民を装い越境し、ペンダントを奪う機会を狙っていた。というわけだ」


 ここで、シキはもそりと動いた。

 体を反転させ仰向けになり、天井を見上げる。


「連中は『サミット襲撃』ではなく『エザフォスの残渣(ざんさ)回収』が目的だった。証拠は──」

 懐を探り、例の手帳を取り出す。


「クルーガーの手記だ」

 

「証拠として扱ったあと、これはどうする?」

 手記を受け取り、アネモスはページをめくる。


「IMOの……機密資料庫に保管する。彼が生きた、唯一の証になる」


「そこには、エザフォスの核が保管されているな」

 数奇な運命だ。とアネモスは手記を閉じた。

 クルーガーの意思は奇しくも、渇望した『力』の元へ帰結することになる。


「……俺はやっぱり、クルーガーのことを悪だとは思えない。俺もあいつも、根っこは同じだから」

 でもさ。とシキは、アネモスを見た。


「仮に、俺がクルーガーみたいに『気象兵器』じゃなく『国家』が敵だったら、アネモスは力を貸すことはなかったよな?」


「……そうだな。どんな理由であれ、私は殺戮(さつりく)に協力しない」

 断固として言い切ると、アネモスは窓を見た。


「気象兵器は、力に溺れてはいけない。世界を俯瞰(ふかん)する存在であれ」と、呟く。


「我々が介入するのは、気象兵器が関係することだけ。本来は、人の争いに仲介はしない。だが──」

 そこまで言うと、ベッドに振り返る。


「お前のように『善悪を見極められる者』になら、託したいとも思っている。……そもそも、IMOの総司令官が、人の争いごとに首を突っ込みまくっておるからな」

 もう、掟などない。とアネモスは笑った。


 その時──。

 すぅ、すぅ。とシキから寝息。


「全く、失礼な奴だ」と憤慨するも、アネモスの頬は緩んだ。


「愚兄を止めてくれて感謝する。……ありがとう」

 手を伸ばし、シキの黒髪を()でる。


 そこにいるのは、ただの孫と爺だった。

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