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4-1.夜明けの光

 頭の中で、誰かが喋っている。

 何を言っているかは分からないが、とにかくうるさい。


 苛立(いらだ)ちを覚え、アルバは目を開けた。

 寝ようにも、頭の中が騒がしくて眠れない。


 何度も何度も、脳内でループするあの光景。

 数時間前の出来事が、走馬灯のように駆けていく。



 ストーカー事件の解決後、自室に戻った。直後、後頭部を殴られ意識を失った。

 

 目を覚ませば、知らない廃屋。周囲には、小銃を持った屈強な男たち。

 男たちの会話で、アルバは察した。ザイデと同じ言語に、特徴的なタトゥーはケルツェ人だ。


 なぜ、ここにケルツェ人が? と思案しているうちに、扉が開く。

 入ってきた人物に、アルバは呼吸を止めた。

 どうしてペルフェが? とパニック状態だ。


 ペルフェは、ペンダントを男に渡す。肌身離さずつけていた、祖母の形見。

 なぜ渡す? と考えたのも一瞬。ペルフェが平手打ちされた。


 積み重なった疑問など、すべて吹き飛んだ。

 触るな、殺す。そんな言葉を口にしても、何もできなかった。

 

 同時に、ペルフェにもイラついた。

 自分のために来たというのに、突き放すようなことを言ってしまった。

 あの時の悲しそうな顔が、アルバの脳裏に焼き付いている。


 地震が起こった時、何もできなかった。故郷が、砲撃された日を思い出した。

 大地が震え、建物が倒壊し、爆風が粉塵をまき散らす。

 家だったものは跡形もなく消え、一瞬で家族を失った。

 あの日を思い出し、動くことができなかった。


 だけど、足が動いていた。ペルフェを守るために。

──戦えないなら、守れ。

 あの男──シキの言葉が蘇る。

 

 いけ好かない奴だった。顔が良くて人当たりがいい、だけど軽薄そうな奴だったから。

 でも違った、視野が広くて思いやりがある。何より強い。

 神は信じていない。がこの時ばかりは、神がいるんじゃないか。とアルバは考えた。


 『気象兵器』。その力があれば、故郷や家族を守れたのかもしれない。

 だけど、クルーガーのようにはなりたくない。復讐心に身を焼かれた、哀れな男だ。


 もう過去は戻らない。だから、今を──未来を歩く。

 アルバには『神』も『力』もいらない。ただ、隣に『(ペルフェ)』がいればいい。



 カララ。という音に、アルバは扉を見た。

 薄闇の中に、ペルフェが立っている。


「起きてたの?」と、驚いた表情だ。


「うん。……おじさんとおばさんは?」


「私たちの着替えを取りに、家に戻ったよ。私も今、警察からの聞き取りが終わったんだ」

 丸椅子に座り、ペルフェはあくびを一つ。


 アルバは緊急搬送されたあと、傷の手当てを受けた。

 しばらくは青あざが広がり、シャワーの際は切り傷で背中がしみることだろう。


 軽傷で済んだが痛みで歩けないので、今日は入院ということに。

 搬送されたのが真夜中だったため、個室に振り分けられた。

 

 駆けつけた両親が、号泣しながら義姉弟を抱きしめた。

 その後、ペルフェは病院内で事情聴取を受け、現在に至る。


「……なんか、夢みたい」と、ペルフェはため息。

 

「同感。まだ、現実として受け入れられないよ」

 第三者のように、高いところから俯瞰(ふかん)する感覚。

 だが、体に走る痛みで、当事者だったと再認識させられる。


「……アルバ、ありがとうね」と、ペルフェが呟く。


「私を守ってくれて。私の代わりに、怪我させちゃってごめんね」


 アルバは答えず、天井を見つめたまま。


「……初めて、お前を守れた気がする。だから、俺は嬉しかった」

 しばらく経って、そんな言葉が上がった。

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