3-4.口裏合わせ
警察車両のサイレンが、真夜中の廃鉱山を赤く照らした。
倒壊を免れた建物から出て来たのは、拘束されたケルツェ人たち。
どのような罪に問われるかは不明だが、国外追放は免れないだろう。
全壊した事務所跡では、消防が動き回る。
災害救助犬も導入され、行方不明者の捜索が続けられていた。
クルーガーの遺体は、担架に乗せられた。
サイレンを鳴らさず、救急車は市内へと走り出す。
傍観するシキの背に、刑事が声をかけた。
「お手柄でしたね。流石は、IMOの隊員です」
「いえ、当然のことをしたまでです」と、シキは首を振る。
「しかし、信じられません。クルーガー神父が、ケルツェの戦闘員だったとは」
「俺もですよ。その上、ラピス家の者を誘拐し、身代金をせしめるつもりだったんですから」
シキは、打ち合わせ通りのセリフを口にした。
警察が来る前に、ペルフェとアルバと口裏を合わせたのだ。
『身代金の人質として、二人は誘拐された』と──。
別々に誘拐したのは、ペルフェを修道院内でさらうのはリスクが高いから。
まずはアルバを捕まえ、次に呼び出した。というシナリオを立てた。
ペルフェが乗ったスクーターが走り去るのを目撃し、不審に思ったシキはあとを追い、廃鉱山へ。
そこで誘拐犯一味を制圧し、事務所跡で交戦。
その際、ペルフェは一味から拳銃を奪い、クルーガーへ発砲。
追い詰められた一味が、苦し紛れに爆発物を使用したため、事務所跡は倒壊。
多発的に起こった地震は、爆発の衝撃に誘発され、坑道が崩れたことによるもの。
瓦礫の下敷きになった男たちは、全員死んでいる。よって、目撃者はいない。
生存者たちがペンダントについて証言するかもしれないが、シキは「誘拐犯だと思った」と言い張る。
警察から事情を聞かれた場合、ペルフェも「ペンダントのことは何も知らない」と答える。
クルーガーの遺体から、ペンダントは回収済み。
警察は瓦礫の下にある。と思うだろうが、シキやペルフェの証言で誘拐事件だと確信するはず。
実際にペンダントを奪ったあと、クルーガーはラピス家を脅迫するつもりだったらしい。
宿舎に計画書があった。だからこそ、あの場ですぐに二人を殺さなかったのだ。
大した証拠ではない。と警察は判断し、ペンダントの捜索はやめるだろう。
「弟さんが心配ですね。だいぶ、手ひどくやられたのでしょう?」
刑事は険しい表情で、ゲートへ振り返る。
数分前に、猛スピードで走り去った救急車を思い出しているのだろう。
「かなりの瓦礫を受けていましたけど、元気そうでしたよ」
元気。という言い方には語弊があるが、頭への直撃は免れた。
シキは、自身に雷の結界を張りつつ、微力ながらアルバにも展開していた。
「ペルフェは無傷で済みました」
あいつの、デカい体のおかげです。とシキは呟く。
「一歩間違えば、命を落としていたかもしれないのに、勇敢な子ですね」
「……血が繋がっていなくても、向こう見ずな性格は一緒か」
シキは夜空を見上げ、空気を深く吸った。
「ラピス家の教えでしょう。二人のご両親も、献身的な方ですから」
今頃、病院で抱き合っているでしょうね。と刑事は微笑んだ。
「さぁ、警察署へ行きましょう。長丁場になるかと思いますが、よろしくお願いします」
そう言って、刑事は歩き出す。
「……今日も眠れない」
目を潤ませ、シキはあとに続いた。