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2-3.燃え上がる蝋燭

 時は中世──。

 『ルークソーリス』という、人間の大帝国があった。

 三つの隷属国を従え、獣人(ガウダ人)を奴隷として使役し、アリステラの大半を手中に収めていた。


 そんな大帝国も、エザフォスを前にして成す術はなかった。

 大地震に大津波、火山の噴火──。

 瓦礫(がれき)の山と化した街は火に包まれ、最後は水にさらわれた。


 その後、アネモス率いる解放軍と同盟を結び、エザフォスへと挑んだ。

 勝利したが、かつての栄華が戻ることはない。

 侵略と併呑(へいどん)を繰り返し、領土を広げた大帝国は衰退の一途を辿る。


 それは、一部の人間やガウダ人にとっては幸運だった。

 次々と独立の声が上がり、セルキオ、アジュール、ブレザマリナ、サントテレーノといった国へと分裂。

 ルークソーリスは『レヒトシュタート帝国』へ名を変え、多種多様な異民を抱える国となった。


 しかし、平和は長くは続かない。

 帝国内ではヒエラルキーの下層にいた、ザイデ人による独立戦争が勃発。


 この戦争がきっかけとなり、帝国は他の異民にも不信感を抱くように。

 不信感は次第に差別となり、異民たちは迫害の対象となった。


 差別と迫害は、憎悪と怨嗟(えんさ)しか生まない。

 異民の人口率二位のケルツェ人が、ついに反旗を(ひるが)した。

 

 誇りを取り戻し、安息の地を得るために、ケルツェの民は命を散らす。

 細く小さな火を灯し、溶けてなくなる蝋燭(ろうそく)のように──。



「そのタトゥーで、ピンときたよ」

 砂を巻き上げ、シキはエントランスの中央まで歩いた。


「『ケルツェ解放軍』。元は民兵から生まれた組織で、ゲリラ戦に長ける。あんたは、参謀ってところか」

 クルーガーが黙っていると、シキは言葉を続けた。


「さしずめ、エザフォスの力を使って攻勢に出るつもりだろ?」


「エザフォス……?」と、ペルフェが呟いた。


「あのペンダントには、エザフォスの力が眠っている。おばあさんは、気づかずに君に渡したみたいだけど、とても危険な物なんだ」


 ペルフェの頭には、無数のクエスチョンマーク。

 無理もない。理解するまでに、時間がかかることだろう。


「その力は全てを破壊する。……仲間を危険に晒してもいいのか?」


「承知の上だ」と、クルーガーは歯を見せた。


「どんな手を使ってでも、私は帝国を潰すと誓った。……この力は、ケルツェの希望だ」

 シキを真正面から睨みつけ、息を震わせる。


「私や同志には、帰る場所も家族もいない。私たちには、失うものなど何もない!」

 演説のように身振り手振りを加え、クルーガーは鼻息荒く言い切った。


「馬鹿かよ、お前は……」と、嘲笑が上がった。

 身を起こし、アルバが口を歪める。


「自分には失うものがないからって、他人の人生を奪っていいわけがないだろ。前線にいる奴らだって、本当は死にたくないはずだ!」


「黙れ!」

 アルバを蹴飛ばし、クルーガーは怒鳴った。


「貴様の家族は誰に殺された!? 帝国だろう!? 憎悪を持たずのうのうと生きて、ザイデ人としての誇りを捨てた腰抜けが!」


「俺はここで生きていくって決めたんだ! 過去は戻らない! だから、前を向くしかないんだよ! お前とは違うッ!!」

 なおも引き下がらないアルバに、クルーガーの頬が痙攣(けいれん)した。


「貴様のような軟弱者はせいぜい、前線で盾になるがいい!」

 胸ぐらを掴まれ、アルバは投げ飛ばされる。背中を強打し、痛みに呻いた。


「……それが、アルバを嫌う理由か」と、シキは腕を組む。


「その愛国心には感心する。けどな──」

 青い目が、真っ直ぐにクルーガーを見た。


「帝国全土を滅ぼすって思想は、絶対に許さない。ましてや、エザフォスの力でだ。……お前、自分がどれだけ狂ったことを言っているか、分かっているのか?」

 

 嵐や吹雪は、建物の中にいれば安全。火災は水で消せる。

 しかし、地震が相手ではなす術がない。

 アネモスの言う通り、エザフォスの力は存在していいものではない。


「……私はもう、まともではない」

 静かに耳を傾けていたクルーガーから、含み笑い。


「邪魔をするなら、死んでもらう」

 拒絶の言葉と同時に、空気が震えた。


「まさか」と、シキは目を見開く。


 ペンダントから、黒い(もや)が立ち昇っている。

 それは昨夜、見た時よりも濃く、この上ない禍々しさを放っていた。

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