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2-1.死が集う場所

 シキが異変に気づく、三十分前のこと──。

 夜の礼拝を終え、修道女たちは談話室へ向かう。


「あら、ペルフェはもう休むの?」

 若い修道女が、階段へ向かうペルフェに声をかけた。


「はい、なんだか疲れちゃって」


「そうよね、おやすみなさい」


「おやすみなさい」

 階段を上がり、ペルフェは引っ越したばかりの自室へ。


 まずは扉を大きく開け、異常がないか確認する。

 犯人は逮捕されたとはいえ、しばらくは警戒心が残るだろう。


 当然だが、異常はない。ふぅ。と息を吐き、ペルフェは室内へ。

 扉を閉め、ベッドに座った時だった。


 一枚の紙が、机に置いてあった。

 覚えのないペルフェは「なにこれ?」と、手を伸ばす。


「うそ……」と、掠れた声が上がった。

 息が震え、目があちこちへ泳ぐ。


 くしゃり。と手紙を握り潰し、ペルフェは頭を抱えた。

 呼吸が荒く、息が震えている。言わずもがな、パニック状態だ。


「どうしよう……シキさんに……。いや、だめ……」

 呟きながら、ベッドの前を行ったり来たりを繰り返す。

 半泣きで、ペルフェは頭を振った。

 

 数秒後──。

 震える拳を手のひらに変え、ランタンの火を消した。

 部屋を出る時は、灯りを消す。という言いつけは、頭に残っているらしい。

 

 足音を立てないように、かつ早足で廊下を突っ切る。

 シキがいる三階ではなく、一階へ駆け下りて行った。


 自室に残された紙が、乾いた音を立てわずかに開く。


『今から一時間以内に、ピルゴス鉱山の事務所跡に来い。誰にも言うな。さもなくば──』

 そのあとの文字は、隠れて見えなかった。



 錆びたゲート前には、黄色いスクーター。

 スタンドを立てることなく、乗り捨てられたような状態だ。


 ペルフェは一人、廃鉱山にいた。彼女自身、初めて訪れる場所。

 『死が集う場所』だと、両親は恐れていた。


 無人のはずの廃鉱山に、灯りが見えた。

 ゲートをくぐると、大勢の男たちが出迎えた。どの男も筋骨隆々で、手には小銃。

 聖衛兵(せいえいへい)であっても、太刀打ちできない。とペルフェは悟った。


 男たちに連れられ、ペルフェは一際大きい建物──事務所跡へ。

 採掘の最盛期に建てられた事務所は、当時の栄華を誇示するような、煌びやかな外観だ。

 

 中へ入ると、まずは広々としたエントランスが出迎える。

 大理石の床に、天井にはシャンデリア。二股に分かれた階段は、さながら宮殿を思わせた。


 階段途中に、フードを被った男が座っている。

 しかし、ペルフェには、そんなことはどうでもよかった。

 男の足元に、見知った顔がいたのだ。


「アルバ……!」と、ペルフェは口元を両手で覆う。

 一歩踏み出すも、男たちが立ち塞がった。


「ペルフェ……? なんでここに!?」

 殴られたのだろう。アルバの右頬は赤く腫れ、切れた唇には血が滲んでいた。

 両手両足は縄で縛られ、芋虫のようにもがいている。


 ペルフェの前に、壁のような巨漢が立った。

 太い首には蝋燭(ろうそく)髑髏(どくろ)、小銃のタトゥー。


 同じく、タトゥーだらけの右手が伸びる。

「ペンダントを渡せ」と、巨漢は唸った。

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