2-1.死が集う場所
シキが異変に気づく、三十分前のこと──。
夜の礼拝を終え、修道女たちは談話室へ向かう。
「あら、ペルフェはもう休むの?」
若い修道女が、階段へ向かうペルフェに声をかけた。
「はい、なんだか疲れちゃって」
「そうよね、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
階段を上がり、ペルフェは引っ越したばかりの自室へ。
まずは扉を大きく開け、異常がないか確認する。
犯人は逮捕されたとはいえ、しばらくは警戒心が残るだろう。
当然だが、異常はない。ふぅ。と息を吐き、ペルフェは室内へ。
扉を閉め、ベッドに座った時だった。
一枚の紙が、机に置いてあった。
覚えのないペルフェは「なにこれ?」と、手を伸ばす。
「うそ……」と、掠れた声が上がった。
息が震え、目があちこちへ泳ぐ。
くしゃり。と手紙を握り潰し、ペルフェは頭を抱えた。
呼吸が荒く、息が震えている。言わずもがな、パニック状態だ。
「どうしよう……シキさんに……。いや、だめ……」
呟きながら、ベッドの前を行ったり来たりを繰り返す。
半泣きで、ペルフェは頭を振った。
数秒後──。
震える拳を手のひらに変え、ランタンの火を消した。
部屋を出る時は、灯りを消す。という言いつけは、頭に残っているらしい。
足音を立てないように、かつ早足で廊下を突っ切る。
シキがいる三階ではなく、一階へ駆け下りて行った。
自室に残された紙が、乾いた音を立てわずかに開く。
『今から一時間以内に、ピルゴス鉱山の事務所跡に来い。誰にも言うな。さもなくば──』
そのあとの文字は、隠れて見えなかった。
※
錆びたゲート前には、黄色いスクーター。
スタンドを立てることなく、乗り捨てられたような状態だ。
ペルフェは一人、廃鉱山にいた。彼女自身、初めて訪れる場所。
『死が集う場所』だと、両親は恐れていた。
無人のはずの廃鉱山に、灯りが見えた。
ゲートをくぐると、大勢の男たちが出迎えた。どの男も筋骨隆々で、手には小銃。
聖衛兵であっても、太刀打ちできない。とペルフェは悟った。
男たちに連れられ、ペルフェは一際大きい建物──事務所跡へ。
採掘の最盛期に建てられた事務所は、当時の栄華を誇示するような、煌びやかな外観だ。
中へ入ると、まずは広々としたエントランスが出迎える。
大理石の床に、天井にはシャンデリア。二股に分かれた階段は、さながら宮殿を思わせた。
階段途中に、フードを被った男が座っている。
しかし、ペルフェには、そんなことはどうでもよかった。
男の足元に、見知った顔がいたのだ。
「アルバ……!」と、ペルフェは口元を両手で覆う。
一歩踏み出すも、男たちが立ち塞がった。
「ペルフェ……? なんでここに!?」
殴られたのだろう。アルバの右頬は赤く腫れ、切れた唇には血が滲んでいた。
両手両足は縄で縛られ、芋虫のようにもがいている。
ペルフェの前に、壁のような巨漢が立った。
太い首には蝋燭と髑髏、小銃のタトゥー。
同じく、タトゥーだらけの右手が伸びる。
「ペンダントを渡せ」と、巨漢は唸った。