1-1.どこへ
【ここまでのあらすじ】
修道院への侵入者は、なんとストーカーだった。
ペルフェのグーパンによって事件解決。かと思われたが、展開の早さにシキは違和感を抱く。
ストーカーと巷を騒がせていた強盗は、ペンダントを奪うための布石だった。
さらに残渣を狙う者は、神父のクルーガーだと推測。
真相を確かめるべく、シキは部屋を飛び出した──。
駆け足で一階へ下り、シキは一直線に談話室へ。
一日の勤めが終わり、談話室からは修道女たちの談笑。
ノックをすると、すぐに扉が開いた。
「どうされました?」と、若い修道女は驚いた様子。
「神父様って、いますか?」
シキは、さりげなく談話室に視線を移す。
修道女全員が集い、寝る前の談笑を楽しんでいた。
「いえ、こちらにはいないですね。多分、お部屋にいると思います」
「そうですか。じゃあ、明日にします」と、シキは頷いた。
部屋にいたとしても、二階は立ち入り禁止。
引き下がるフリをせねば、修道女に怪しまれる。
「……あれ?」
一度は踵を返すも、シキはすぐに振り返った。
「シスター・ペルフェは?」
「あぁ、彼女なら部屋に戻りました」と、修道女は即答。
「『疲れたから、もう寝ます』って言ってましたよ」
「……ですよね。お邪魔しました、失礼します」
笑みを返し、シキは会釈。扉が閉まるのを待って、エントランスへ駆けた。
『……嫌な予感だ』
シキの心情を、アネモスが言葉にした。
『あぁ。どっちもいないって、おかしいだろ。……どうする?』
考えろ。とシキは、視線を泳がせる。
『二階に行けば、戻ってきた修道女と鉢合わせするかもしれないな』
『同感。……裏の車庫に行こう。そこからなら、二階の窓を見れる』
シキは、小走りで食堂へ。
無人の食堂を突っ切り、厨房へ。勝手口から車庫へ出られる。
「……灯りがついている部屋はないな。でも、寝るには早いし」
振り返り、シキは二階を見上げた。
「ん?」
何かに気づいたらしく、車庫に入る。
「……修道院の車と、神父の車はある。だけど、ペルフェのスクーターがない」
褪せた青色のバンと、クルーガーの所有車である、黒の四駆は止まっている。
しかし、黄色いスクーターだけがなくなっていた。
『神父は外出していないのか?』
アネモスの言葉に、シキは「いや」と呟く。
「エンジン音で気づかれるから、車は置いて行ったんだろう」
『となると、共犯がいるということか』
「多分な。……ペルフェは、自分の意思で修道院から抜け出したのか?」
シキはその場に屈み、タイヤのあとを探す。
細かい砂は、わずかな風でも舞い上がる。そのせいか、何も残っていなかった。
『呼び出されたのかもな。……脅されて』
「それしかない。急いで見つけないと」
シキが立ち上がったと同時に、背後で足音が聞こえた。
振り返ると、ランタンを下げた男がいた。濃紺の制服は、修道院の守衛だ。
「こんなところで、何をしているんです?」と、険しい表情だ。
「いや、ちょっと……」
こんな時に。とシキは、心中で舌打ち。
「ここは、関係者以外立ち入り禁止です」
「……客室から見えたんです、修道女が裏口から出ていくのを。ほら、スクーターがなくなってる」
とっさに嘘をつき、シキは車庫を指差した。
「あれ、本当だ」と、守衛は驚いた様子。
車庫に寄ると、ランタンを掲げた。
「でしょう? だから確認しに──」
「なら、生かしておくわけにはいかないな」
言葉を遮り、上がったのは低い声。
ん? とシキは首をかしげる。声の発生源は、目の前の背中から。
「これだから、傭兵は侮れない」と、守衛が振り返る。
その手には、拳銃──。
銃口が、シキの胸を捉えた。