4-2.策士
「……でもさ、色々と難点があるんだよね」
うーん。と唸りつつ、シキは人差し指を立てた。
「破壊する直前まで、俺は石に触れないでしょ? つまり、破壊場所にペルフェを連れて行く必要がある。それはいいとして──」
ベッドから立ち上がり、部屋を歩き回る。
「『残渣を狙う者』が、どこかで横槍を入れてくるかも」
「事件は解決したが。……その仮説は、まだ生きているのか?」
髭を撫でる手を止め、アネモスは驚いた様子だ。
「なんかさ、展開が早すぎない?」と、シキは腕組み。
「逃げたストーカーが、次の日に接触してきて返り討ちに遭うって、おかしいでしょ」
「ただの馬鹿だったんじゃないか?」
「馬鹿なのに、スケルトンキーとか用意する? マスターキーを盗んだにしても、誰にもバレないっておかしくない?」
シキの言葉は、段々と早口になる。
「しかも、ペルフェが帰宅する時間に、偶然居合わせたんだよ? 彼女の勤務形態を知っていたってことになる」
たたみかけるような言葉に、アネモスは唸った。
「確かに……。彼女の私物を盗むだけにしても、随分と間の悪いことだ」
「……待てよ」
回れ右のあと、シキはベッドに座る。
「ストーカーのおかげで、俺はペンダントを確認できた」
ヘッドボードに身を預け、後頭部に両手を当てた。
脳内で、これまでの情報を整理しているのだろう。
しばし、静寂が訪れる。
「……やっぱり、ストーカーなんかじゃない。物盗りでもない」
「ということは──」と、アネモスは喉を鳴らした。
「だとすると。ラピス家に入った強盗は、ただの布石だった……?」
小声とともに、シキの青い目が動く。
勢いよく起き上がると、興奮気味にアネモスの前へ。
「使用人を殺したのは、暗証番号を聞き出そうとしたからじゃない。……きっと、ペンダントのありかを聞いたんだ。証言されると厄介だから、殺害した。そして、金庫を狙ったように見せかけた」
「ということは、それ以外の犯行はカモフラージュのため。……最初から、ラピス家が目的だったということか?」
合点がいったように、アネモスは指を鳴らした。
「そうだ。そして、侵入者を送り込んだ。自身が狙われた理由に気づいたペルフェは、ペンダントの存在を明かすことになる」
「なんということだ。全てはペンダントを確認するための、策略だったということか」
流石のアネモスも、動揺の色を隠せない。
「……しかも、そいつは──」
シキは、ナイトウェアを脱ぎ捨てた。
「昨夜、俺と一緒にペンダントを見た人物だ」
あっという間に、外出時の装いへ。
半長靴の靴紐をしっかりと結び、ルームキーを手に取った。
ペルフェの勤務時間を把握でき、マスターキーを容易に持ち出せる。
シキに同意すると見せかけ、ペンダントを手元に留めるように誘導していた。
物盗り、ストーカーともにアルバが怪しいと、証言を重ねていた。
「クルーガー神父。……彼が、残渣を狙う者だ」
黒のコートに袖を通し、シキは歩き出す。
サクスムの夜は、真冬並みに気温が落ちる。
「あの温厚な神父か……。信じられんな」
立ち上がると、アネモスは光の球体へ変化。
「とにかく、神父から話を聞こう」
胸に球体が吸い込まれたあと、シキは扉を開いた。
第三章 転変 完