4-1.嫉妬
一行は修道院へ戻り、事の顛末を話した。
「よかった」と修道女たちは涙を流し、ペルフェを抱きしめる。
「これから事情聴取に行かなきゃ。帰りが遅くなります」
「気をつけてね」と、まとめ役の修道女は涙を拭った。
「それにしても……。こんなに早く、犯人が見つかるとは」
顎に手を当て、クルーガーは怪訝そうな表情だ。
「ほんとですよね。見たところ、ペルフェの熱狂的な信者って感じでした」
しかも、おっさんでしたよ。とシキは苦笑。
「……やはり、彼女は愛想が良すぎる」
「俺も同感です。だから、弟分のアルバから、ガツンと言ってもらいました」
シキは、遠巻きに佇むアルバを見た。
「そうですか。……彼は無関係だった。ということですね」
「えぇ。事件があった時間は、買い物に行ってたらしいです」
「しかし、まだ疑念は拭えません。……強盗の件は、まだ解決していませんから」
クルーガーの険しい視線が、アルバに注がれる。
「そこは、引き続き注視しますね」
人を傷つけることは、彼にはできない。という言葉を、シキは飲み込んだ。
「では、私は職務に戻ります。今回は、大変お世話になりました」
深々と頭を下げ、クルーガーは修道院内へ。
「……俺のこと、何か言ってたでしょ?」
姿が見えなくなって、アルバはシキに声をかけた。
「まぁね。……お前、クルーガーさんに何かした?」
「別に。……ペルフェに馴れ馴れしいから、ちょっと睨んだだけ」
「それだろ」と、シキはアルバの頭をはたく。
「……だってあの人、巷では人気だもん」
頭に手を当て、アルバは拗ねた子供のように唇を突き出した。
整った顔に、体格の良い長身。
クルーガーは大人の色気のある、ダンディな男というやつだ。
「神父なんだから、目の敵にする必要はないだろ」
「そうだけど……。あの人、なんか──」
「二人とも、早く行きましょう?」
その呟きは、ペルフェに遮られた。
「あ、おう」と、アルバは腕組みを解く。
「だな。さっさと終わらせよう」
重い足取りで、シキも続いた。
修道院所有のオンボロ車に乗り込み、アルバがエンジンをかける。
日没迫るカルボ市中心部へ、車は発進した。
※
事情聴取もとい参考人聴取は、二時間ほどで終了した。
犯人を殴り飛ばしたペルフェは、少しだけ叱られたらしい。
アルバは寮へ帰り、ペルフェは夜の礼拝へ。
ちなみに事件のあった自室から、別の部屋へ引っ越したらしい。
遅めの夕食後に、シキは客室へ戻った。三階は、しんと静まり返っている。
事件のせいか、キャンセルや滞在日を短縮した宿泊客が多発したらしい。
「結局、ただのストーカーだったとはな」
実に迷惑な話だ。とアネモスは首を振った。
「どうやって部屋に入ったかは不明だけど、マスターキー以外にも手はある」
シャワー上がりのストレッチをしつつ、シキは手帳に視線を落とす。
「二階の部屋の鍵は、ウォード錠だった。スケルトンキーさえあれば、簡単に解錠できる」
スケルトンキーとは細長い金属に、長方形の歯がついているもの。
ウォード錠は複雑な作りではないため、鍵ですらなくとも解錠は可能だ。
「なるほど。古くからある建物なら、必然的にウォード錠となる。修道院は客室の鍵だけを、最新式に変えたのか」
「そりゃあ、何かあったら一大事だからね」
首を回し、シキはベッドから立ち上がった。
「明日は、例の廃鉱山に行ってみるよ」
地質学の本を手に取り、再度ベッドに戻る。
「……そのあと、ペルフェに全てを話す」
早く終わらせよう。と呟く目には、静かな決意が宿っていた。