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3-4.渾身の

「まさか、あなたは……」

 昨日の。と黒目を見開き、ペルフェは一歩後ずさる。

 

「こんなところに、いたんだね……」

 探したよ。と笑いながら、男は一歩踏み出した。

 

 足を引きずっている。それだけで、男の正体がわかった。

 二階から飛び降りた際に、足を痛めたのだろう。つまり、昨日の侵入者だ。


 シキは拳を固め、地を蹴った。

 この距離であれば一歩で間を詰め、男を殴り飛ばせる。


 しかし──。


「来ないでッ!!」と、ペルフェの怒鳴り声。

 男の顔に、渾身(こんしん)のストレートがめり込んだ。


「ぐふぅ」と呻き、男は数メートル先へ吹き飛ばされる。

 転がったあと、鼻血を垂らし気絶した。


「ありゃ」

 これには、シキは驚きの表情。


「この人、昨日の犯人です!」

 鼻息荒く、ペルフェは男を指差す。


「……警察、呼ぼうか」

 男が生きていることを確認し、シキは苦笑した。



 穏やかな港町は一転。

 捕物の瞬間を見ようと、周辺住民が顔を出す。


 未だ目が覚めない男は、警官に両肩を掴まれ、車に押し込まれる。

 次に目を覚ました時は牢屋にいるとは、夢にも思ってもいないだろう。


「まさか、次の日に接触してくるとは」

 走り去る車を見送り、刑事は呆れ笑い。


「ここまでくると、ただの馬鹿ですね。ともかく、事件は解決しました。あとは、こちらで絞りますから」

 では後ほど。と会釈し、刑事は去った。


 まずは修道院に戻り、事件解決を報告せねば。

 そのあとに、警察署での事情聴取となった。


「いやー、いい一撃だったね」と、シキは両目に弧を描く。


「忘れてください! 取り乱しました!」

 赤面のペルフェは、大慌てで両手を振った。


「でも、すっきりしたでしょ?」


「それは……否定できません」

 ペルフェは手扇で、顔に風を送る。

 おもむろに膝を落とし、両手を胸の前で組んだ。


「私は人を殴ってしまいました。主よ、どうかお許しください」


「おぉ……」

 シキとアルバは、冷めた顔だ。

 善悪がはっきりしたこの状況でも、神に許しを乞うとは。


「何やってんだよ、さっさと戻ろう」と、アルバはペルフェの腕を掴む。


「犯人は逮捕されたし、俺はお役目御免かな」

 後頭部で両手を組み、シキは歩き出した。


「あ、そうですよね。短い間でしたけど、ありがとうございました」


「とはいえ、俺は何もしてないし。役に立たなかったねぇ」


「でも、昨夜は一緒にいてくれたので、安心して眠れましたよ?」

 

「……は?」

 その言葉に、アルバの目が邪眼に変わる。


「違う違う、語弊があるな」

 ドス黒い殺気を感じ取り、シキは即座に距離を取った。


 その様子を見て、ペルフェはくすくすと笑う。


「なんだか二人とも、兄弟みたい」


「なんで、そう見えるんだよ!」と、アルバは不満げだ。


「いいじゃない。ほら、帰ろうよ」

 軽やかな足取りで、ペルフェは坂を登る。


「……ありがとう」


 あとを追うシキの耳に、そんな言葉が飛び込んだ。

 振り返れば、生意気な弟分しかいない。


「昨日もそうだけど、さっきも……」

 声の主は、やはりアルバだったようだ。


「俺、何もできなかった」

 だから、いつもペルフェに守られてた。と呟く顔には、悔しさが滲む。


「……いいんじゃない」と、シキは目を伏せた。


「お前は、誰よりもペルフェのことを想ってる。それだけで十分だ。……戦えないなら、守ってやれ」


「守る……」

 アルバは緑色の目を見開き、小声で復唱。


「いつか、そんな日が来るといいな」

 楽しみだ。と笑い、シキは坂を登った。

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