3-2.デート?
雑貨の納品先は、港町の小さな食堂だった。
ペルフェの口利きで、商品を置いているとか。ついでに、昼食を取ることに。
「久しぶりだな、ペルフェちゃん!」と、店主は笑う。
真っ黒に日焼けしているため、歯の白さが際立っていた。
「しかも、ご飯を食べていってくれるなんて、修道院に入る前以来だな?」
「そうだね! 嬉しいなぁ」
椅子に座り、ペルフェは両手を合わせる。
「主人が腕にヨリをかけて作るから、楽しみにしてちょうだい」
冷水を出し、妻らしき女が注文を取った。
「何回か、アルバも一緒に来たよね?」
「……あぁ」と頷き、アルバはコップに口をつける。
「いっつも、無我夢中で食べてたね」
「待て待て、そっちのデカいのはアルバかぁ!?」
大きくなったなぁ! と店主と妻は驚いた様子だ。
「……うす」
「あんなに小さくて、細かったくせになぁ! それじゃ、そっちの兄さんは?」
ジュウジュウとフライパンを振りながら、店主はシキを見た。
「学生時代の先輩です」と、シキからでまかせ。
傭兵です。なんて言えば、面倒事になるに決まっている。
「へぇ、二人ともいい子でしょう? アルバはねぇ、ウチの店で料理に目覚めたのさ!」
「まだ言ってる」と、アルバは鼻で笑った。
「そういえば、修道院で事件があったみたいねぇ」
サラダを並べながら、妻は心配そうな表情だ。
「そうそう。泥棒が入ったって、罰当たりなことをするよなぁ」
忙しなく厨房を歩き回り、店主は顔をしかめる。
「盗られたものはなかったので、心配いりませんよ」
一切の動揺を見せず、ペルフェは朗らかに言った。
彼女が狙われた。という事実は伏せられている。
そこへ、漁師らしき男たちが入店。
ペルフェとアルバを見るなり、驚いた様子で声を上げた。
「あれ? ペルフェにアルバじゃねぇか!」
「久しぶりだな!」
「修道院サボってデートか?」
「違いますよぉ。ちゃんと、お許しが出てます」
慌てふためくアルバをよそに、ペルフェはおっとりと返す。
「……修道女が真っ昼間から飯屋にいるの、誰も不審がらないんだな」
頬杖をつき、シキは呆れたように笑う。
「この辺の人たちは皆、俺たちのことを知ってるよ。ちょっと歩いたところに、ペルフェの家があるから」
空になったコップに、アルバは水を注いだ。
「いつまで修道女やるんだ? お前みたいな別嬪さんが、結婚できないなんて悲しいぞ!」
「俺の倅なんて、お前が修道女になるって知った時に泣いたんだからな?」
「恨むぜ、神様よぉ!」
ガハハ。笑う様は、まさに豪快な海の男。
宗教都市とはいえ、全ての住民が敬虔なミウルギア信者ではないらしい。
「私じゃなくても、息子さんにはもっと素敵な人が似合いますよ」
ペルフェは微笑みを絶やさす、漁師たちを軽々とあしらった。
「せっかくの機会なのに、取られちゃったねぇ?」
アルバに囁くシキの顔は、ニタニタと緩んでいる。
「別に、いいっすよ」と、アルバはそっけない返事。
しかし、内心では地団駄を踏んでいるに違いない。
「それよりさ。……お前、昨日の午後二時頃はどこにいた?」
声を潜め、シキはアルバに耳打ちした。
「え? 買い物に行きましたけど」
「買い物? どこに?」
「市内の商店です。晩飯の材料を買いに」
まさか。とアルバは目を見開く。
「俺のこと、疑ってるんですか?」
「念の為だ。今の話が本当なら、疑いは晴れたよ」
アルバはストーカー予備軍とはいえ、ペルフェに容易く接触できる。
危険を犯してまで、部屋に侵入するなどあり得ない。とシキは考えていた。
「……絶対に許せねぇ」と、アルバの目つきが鋭くなった。
まさに邪眼だ。睨みつけた者を呪い殺せそうだ。
「俺より、お前の方が番犬に向いてるかもね」
シキの呟きは、漁師たちの笑い声にかき消された。