表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

2-4.警護の傍ら

 礼拝の最後──締めの言葉で、シキは回想から戻った。

 

 修道女たちと一旦別れ、朝食をとりに食堂へ。

 しばらくは複数人で行動するため、ペルフェは安全だろう。


 午前中は、何事もなく時が進んだ。

 

 今日の奉仕活動は裁縫。作った衣類は、難民キャンプへ送るらしい。

 余った端切れで、コースターやバッグを作成。わずかではあるが、修道院の収入源となる。


 作業部屋の外、ベンチに座るシキの手には、デースペルの地質をまとめた本。

 警備の合間を縫って、爆速で買ってきた。


 なんでも、聖地周辺は地盤が強いらしい。

 あの辺は、サンゴ礁が隆起した地盤──石灰岩だ。石灰は水を含むと固まり、地盤を強固にする。


 そのためか、かつての大震災でも塔が倒壊することはなかった。

 先人たちは、それをわかって建設したのだろう。


『昔の人ってのはすごいね』

 ページをめくり、シキは組んだ足を組み替えた。


『人間の技術には驚かされる。塔はもちろん、聖地に水路を引き、緑豊かな場所にしたのだからな』

 獣人(ガウダ人)が認めるわけだ。とアネモスは感心した声。


『採掘の許可も与えられのだから、心底、サクスムの人間は信頼されていたのだろう』

 

『……大震災のあと、多くの炭鉱夫たちがデースペルへ渡り、アリステラ復興の一大事業が始まった』

 シキは、次のページをめくる。『エネルギー革命の訪れ』という見出しだ。


『石炭や鉄鉱石を採掘し、アリステラへ輸出。復興事業からのエネルギー革命の始まりは、デースペルからだった』

 多くの犠牲が出たがな。とアネモスは呟く。


 鉄の原料である鉄鉱石は、車や船、鉄道を造るための基礎。

 石炭は工場や船、鉄道の動力。あるいは精錬や薪に使用される。

 どちらも、生活のほとんどを担っていた。


 採掘は死と隣り合わせ。炭鉱及び鉱山では、落盤やガス爆発により多くの命が失われた。

 犠牲となったのは一攫千金を求める男たちに、金と居場所を欲した被災者たち。


『それで、破壊する場所は決まったか?』

 アネモスの言葉に、シキは頷いた。


『聖地の北西にある、廃鉱山はどうだろう?』


『市街地から距離もあるし、地盤も強い。良いのではないか?』


 その時、コツコツと足音。

 シキが顔を上げた先には、クルーガーがいた。


「おや、地質学にご興味が?」

 足を止め、クルーガーは本を一瞥(いちべつ)


「ええ。アリステラとは違う赤い大地は、とても興味があります」

 シキは頷くと、適当に答える。

 残渣(ざんさ)の破壊場所を探しています。などと言えるわけがない。


「ここらの地質は鉄鉱石由来の、酸化鉄が多く含まれていますからね」

 細かい砂は厄介です。とクルーガーはため息。


「かつては、鉱山がたくさんあったとか。聖地の近くにも、大きな鉱山があったとは驚きです」

 情報を得るため、シキは話題を振る。

 

「ピルゴス鉱山ですね。坑道内部は崩落の危険があるため、立ち入り禁止となっています」


「そうなんですか?」と、シキは目を(しばた)かせた。


「それに、外の建物も放置され崩壊を待つばかり。非常に危険な場所です」

 決して立ち入らぬように。とクルーガーは首を振った。


「では、ペルフェのことをよろしくお願いします」

 会釈とともに、クルーガーはエントランスへ。今日は、市内の礼拝堂で説教をするらしい。


 足音が、聞こえなくなったあと。

『……どうする?』と、アネモスの声。


『別に、坑道に入るわけじゃないし』

 ちょっとくらい、いいんじゃない。とシキは本を閉じた。


 断続的な足踏みミシンの音は、どこか心地よい。

 シキは、こくりこくりと船を漕ぎ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ