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2-3.可能性

 事件から一夜。

 小鳥のさえずりとともに、修道院に穏やかさが戻った。


 いつもと変わらない鐘の音が、午前六時を告げた。

 修道女たちは礼拝堂に集い、朝の祈りが始まる。


『長い夜が明け、朝とともにあなたが来る。

 どうか、あなたの光で私を照らしてください。

 どうか、私をお守りください。あなたに祈り、感謝します』


 シキは礼拝堂の隅で、ペルフェを見ていた。

 神が守ってくれれば楽だけど。と不敬なことを考えながら。


 ペルフェは普段と同じく、午前五時に起床。

 身支度を整え、修道女の装いに袖を通す。

 礼拝は欠かせたくない。という気持ちを汲み、シキも同席することとなった。


 その際、ペルフェとシキは、いくつかの取り決めを結んだ。

 修道院内での奉仕活動は許可。ただし、複数人での行動をとること。

 聖衛兵(せいえいへい)の職務はしばらく休止。上官も事情を理解し、心配してくれたとか。

 外出の際は、シキとともに行動する。ずっと引きこもっていては、心身に悪いだろう。

 

 結局のところ、ストーカーなのか物盗りなのか不明。

 だが、シキの中では、ある一つの懸念が渦巻いていた。


 

 それは、昨夜に遡る──。

 落ち着いたペルフェが、書斎に戻ったあとのこと。


 小さなランタンを光源に、シキは手帳にペンを走らせる。


『手が届きそうな場所にあるというのに、口惜しいな』

 アネモスの言葉に「あぁ」と、シキは書斎を見た。


『とりあえず。彼女の手元に、ペンダントを残せたのは上出来だ』


『これからどうする? やはり、彼女に事情を話して破壊するか?』


『……そうだな。だけど──』と、シキはペンを回した。


『まずは、破壊する場所を探さなきゃ。……エザフォスの暴れ方は、なんとなくわかった』

 地震だろ? と小さな声を出す。


『さよう。言い換えれば、奴にはそれしか残されていない』


『……市内で壊せば、多くの市民を巻き込むことになる。……アネモスは昔、どうやって残渣(ざんさ)を破壊した?』


『空を飛んだ。空中で、残渣を破壊した』

 斜め上の答えに、シキは吹き出す。


『あんたにしかできないよ。……それともなんだ、俺も空を飛べるのか?』


『無理だな。お前は実体のある人間だ。……まぁ、体から魂を解放すれば、空を飛べる』


『それって、実質的に死ぬってことだよね』と、シキは苦笑。


『四人の気象兵器は皆、大昔に体を捨てたぞ。……お前は、体を手放すことが嫌か?』

 アネモスの問いに、シキは答えない。


『……お前が体を手放せば、私の力は全てお前に継承される。……そして、私の意識は消滅する』

 それが嫌か? とたたみかけた。


『……人間の俺が、神だの守護者だの崇められることに順応できると思うか? 崇められるのはアネモスでいい。俺は、この力を正しいように使うだけ』

 ただ純粋に、アネモスに消えてもらいたくない。というシキの屁理屈。


『……全く。お前という男とは、実におかしいものよ』と、アネモスは笑った。


(ほまれ)や名声に固執せず、己の正義のみに従うか。……そういう男がもう一人、おったな』


『……あっちの方が、ずっと立派な奴だった』

 目を細め、シキは頬を緩めた。

 

 仇を取りたい。という個人的な理由で、気象兵器になったシキ。

 対して──。世界を救いたい。という無限の慈悲だけで、気象兵器を欲した男がいた。


『あぁ、話が脱線しちまった』と、シキは首を振る。


『とりあえず、ペルフェの警護を行いながら、破壊に最適な場所を探す』


『地震といっても、災害級のものは起こせないはずだ。郊外かつ広くて、地盤が強い場所を探せ』


『わかった』

 手帳を閉じ、シキはベッドに寝転んだ。 

 すぐに寝るわけではなく、天井を見つめたままポツリと呟く。


『……あのさ、物盗りやストーカー以外の可能性って、考えられない?』


『それは、私も思っていた』

 さして驚くことなく、アネモスは淡々と返す。


『やっぱり、そうだよな。……ペルフェを狙う奴は「残渣の存在を知っている」かもしれない』

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