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1-3.聖なる石

 IMO総司令官は不在だったため、事務方に要件を伝えた。

「対象の警護? 都合がいいじゃないか」と、ストレングスは笑うだろう。


 時間の経過とともに、いくつかの情報が集まった。

 事件のあった時間、守衛は巡回中で不在。他の目撃者もいない。

 盗まれた物はなかった。よって、物色中に鉢合わせしたと思われる。

 ペルフェの部屋と逃亡経路での証拠集めは、大した収穫はなし。


 日付が変わる前に、ようやく警察が引き上げた。

 修道院外周とエントランス、二階には警官が配置され、一晩は警備の目がある。

 とはいえ、侵入された部屋で眠るのは気味が悪いため、ペルフェは一階の談話室にいた。


「すみません、こんなことに巻き込んでしまって……」

 ソファに座り、ペルフェは力なく頭を垂れる。


「気にしない、警護も傭兵の仕事だから」

 窓辺に立ち、シキは夜空を見た。


「……お父さんとお母さん、心配してるだろうな」

 アルバも。と呟き、ペルフェは目を伏せた。


「アルバだったら、先ほど修道院に来ていたよ」

 ティーセットが載ったトレーを手に、クルーガーが顔を出す。


「結局は、警官に止められて帰ったけどね。彼に『心配はいらない』と伝えてある」


「ありがとうございます。はぁ……」と、ペルフェの気持ちは沈んだまま。

 いつもの天真爛漫さは、微塵も感じられない。


「兵士として訓練を受けたはずなのに。……体が動かなかったんです」

 自分が情けない。と手の甲に爪を立てた。


「そりゃ、知らない奴が部屋にいたら驚くよ。声を出せただけでも偉い」


「その通りだ。あのまま、誰も気づかなかったらと思うと……」

 恐ろしい。とクルーガーは、険しい表情を作る。


「どうぞ、ルイボスティーです」と、カップを差し出した。

 中には、透明感のある赤い液体。ノンカフェインだとか。


「ありがとうございます」

 受け取るも、ペルフェはすぐに飲まない。

 カップを両手で包んだまま、床の一点を見つめていた。


 先ほどから、口がモゴモゴと動いている。

 何かを話そうとして、ためらっているような。


 ルイボスティーを飲む手を止め、シキはペルフェの前に座った。

 

「……何か、話したいことある?」

 その言葉に、ペルフェの肩が大きく跳ねた。

 忙しなく目が泳いでいる。間違いなく図星だろう。


「教えて欲しい。それが、事件解決の糸口になるかも」

 穏やかな口調で、シキは身を乗り出す。


「……君の実家、二週間前に強盗が入ったそうだね。何か、関係しているのかな」

 今度は、軽く揺さぶった。

 

 揺さぶりは効果絶大。カップを持つ手が、大きく震えた。


「大丈夫か?」と、クルーガーが駆け寄る。

 ペルフェの手から、中身がこぼれそうなカップを取った。


「……さっき、気づいたことがあるんです」

 私が、狙われた理由。と消え入りそうな声が上がる。


「きっと、この──」

 震える手が、ウィンプルの下へ。

 

 後頭部側に両手を回し、ペルフェは指先を動かす。

 それは、首の装飾品を外す時の仕草。


「ペンダントだって」

 差し出された右手に、それはあった。


 群青色の石に、金色もしくは白色の線──パイライトが入っている。

 まるで、星々と夜空を閉じ込めたような。

 古代から装飾品に使われ『聖なる石』と崇められる宝石、ラピスラズリだ。


 どくん。とシキの心臓が跳ねた。ついに、この目で捉えた。

 見れば見るほど、目が離せない。

 神秘的な色のせいか。それとも、中に眠る残渣(ざんさ)のせいか──。


『シキ、触れてはならぬ』

 脳内に響くアネモスの声に、シキはハッとした。

 

 ラピスラズリから、黒い(もや)が漏れている。

 ペルフェやクルーガーが何も言わないことから、シキにしか見えていない。


『石から悪意を感じる。我々に気づいているようだ』


 触れれば最後、何が起きるかわからない。

 目の前にあるというのに破壊はおろか、触れることさえ叶わない。


 くそ。と心中で毒づく。

 伸ばしかけた手を引っ込め、シキはソファに座り直した。

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