表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/55

1-1.揺れ動く

【ここまでのあらすじ】

多忙な修道女、ペルフェの調査は難航中。

そんな時、義理の弟・アルバが登場。

彼はレヒトシュタート帝国から迫害を受けたザイデ人であり、戦争孤児としてサクスムに来た。

その後、ペルフェの実家に引き取られたという。

義姉に慕情を抱きつつ、義弟であることに苦悩していた。

炊き出しに観光、なぜか恋愛相談……。

シキが、残渣にたどり着く日は来るのだろうか?

 手懐けたアルバと、別れたあと──。

 昼過ぎに、シキは修道院へ戻った。

 

「……俺は、何をしているんだ?」

 ルームキーをベッドに放り、ソファに座る。


「炊き出しは良いとして。観光からの恋愛相談?」

 なんなんだよ。と髪をかき上げ、苛立ちをあらわにした。


「物事が進まないことに、いらつく気持ちはわかる」

 言葉とともに、シキの胸から光の球体が飛び出す。


「だが、修道女が相手では仕方あるまい」と、アネモスは首を振った。


「……わかってるよ。ちょっと焦ってただけ」

 誰かに当たっても、己に腹が立っても何も変わらない。

 深い吐息とともに、シキは天を仰ぐ。


「どうすっかな」

 天井の一点を見つめ、考えを巡らす。徐々に視線が下がり、目が閉じた。


「色仕掛けで落とせばいい。お前さんなら容易いこと」

 (ささや)くアネモスの顔は十中八九、からかっている表情だ。


「やめて、アルバに殺されるから」

 裏切りじゃないの。とシキは即答。 


「……ダメだ、盗むしか思いつかない。犯罪行為になっちまう」

 

「なら、我慢して調査を続けるのだ」


「はぁ……」

 降参のため息を吐き、シキは腕時計を見た。


「そういえば。ペルフェ、今日は聖衛兵(せいえいへい)の仕事だって言ってたな。そろそろ帰ってくる頃か」


「なら、偶然を装って捕まえればいい。今度はお前さんから、何かを誘ってみたらどうだ?」


「だから、そうやってからかうのは──」


──きゃあっ!!

 女の悲鳴が、会話を遮った。


 二人は顔を見合わせ、すぐに立ち上がる。

 アネモスは球体となり、シキへ戻った。


 声は下階から。階段を駆け降りる途中で、クルーガーが駆け上がってきた。


「二階です! あの声はペルフェだ!」

 肩を大きく上下させ、クルーガーは廊下を走る。


「えぇ!?」

 なおさら急がねば。とシキは、目を見開いた。

 二階は立ち入り禁止だが、この状況ではどうでもいい。

 

「ペルフェ!」とクルーガーが、足を止めた。


 開いたままの扉の前に、ペルフェが立ち尽くしている。

 両手を胸の前で組み、顔は青ざめていた。


「どうした? 何があった?」


「だ、誰かが、私の部屋にいて……」

 焦点の定まらない目を泳がせ、ペルフェは呻く。


「ちょっと入るよ」

 二人は廊下へ。と片手を上げ、シキは扉を大きく開けた。


 修道女の部屋はワンルーム。

 パイプベットに、本棚とクローゼットと机のみ。

 いずれも引き出しが開け放たれ、家探しの痕跡が残っていた。


 両開きの窓が開いており、カーテンが風に揺れている。

 シキは、窓から顔を出した。真下の植え込みが荒れている。

 高さはそんなにない。侵入者は、ここから飛び降りたのだろう。


「……誰もいない。もう逃げたみたいだ」

 窓を閉め、シキはペルフェへ振り返った。


「侵入者の顔は見た?」


「マスクで、よく分かりませんでした。でも、体つきは男だと」


「何もされなかった?」

 

「すぐに逃げて行きました。だから……」

 大丈夫です。と消え入りそうな声で、ペルフェは頷く。 


 悲鳴を聞きつけた、他の修道女が集まり始めていた。

 クルーガーから説明を受け、ざわざわと慌てふためく。


「警察を呼びますね!」と、細身の修道女が一階へ。


「落ち着きましょう。ひとまず、談話室へ」

 ペルフェの背に手を当て、高齢の修道女は努めて微笑(ほほえ)んだ。


 修道女たちを見送ったあと、シキは開けっぱなしの扉を見た。

 ノブを見つめたまま、顎に手を当てる。


「何か、気になることでも?」と、クルーガーは振り返る。


「……いえ、なんでもありません」

 行きましょう。とシキは、扉を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ